誰でも予想が付くように、後編は産科無過失補償事業です。これが物凄い結果を残しています。ある意味、これだけ物凄い結果が残っているのなら病院評価機能事業なんてアホらしくてやってられないのかもしれません。ソースは平成22年度事業報告なんですが、「平成22年12月末時点の保険料等の状況」と言う表がまずあります。
* | 保険年度 | |
平成21年1-12月 | 平成22年1-12月 | |
収入保険料 | 315億2476万6千円 | 323億8304万6千円 |
保険金(補償金) | 29億7000万円 | 2億7000万円 |
桁を間違えた(しばしばやるもので)かと思いましたが、確かにそうなっています。この表には注釈も付いていまして、
※平成22年12月(第16回審査委員会認定分)までに認定された補償対象件数(平成21年99件、平成22年9件)に係る補償金
えっ、と言う感じで、この事業は平成21年度からだったと思うのですが、初年度の99件も少ないと思いましたが翌年度の9件となると目を疑う感じです。もっとも補償金は一括ではなく年次払いであり、一時金を600万円受け取り、その後は毎年120万円を20回まで(20歳まで)となっています。そう思ったのですが、補償金の支払い金額はキッチリ一括ベースで行われています。
ただ審査で認定されないと補償されないわけですから、審査が長引いている可能性は考えないといけません。これについては、
補償約款上、運営組織(当機構)は補償請求者および分娩機関に対して、申請書類を受理した旨の通知を発出した日の翌日から、原則として90日以内に認定に係る審査結果を通知することが規定されている。現在のところ、申請書類の受理から概ね20日から40日程度で審査結果を通知しており、迅速な審査および補償対象の認定を行っている。
だいたい1ヶ月前後で結果は出るようですから、そんなに審査が山積状態ではなさそうです。ただそうは書いてあるのですが、次のデータも不思議な感じで、審査結果の累計(平成23年4月末現在)なるものがあります。これは年の基準が「児の生年」となっているので注意が必要ですが、
児の生年 | 審査件数 | 補償対象 | 補償金額合計 |
平成21年 | 138 | 128 | 38億4000万円 |
平成22年 | 22 | 22 | 6億6000万円 |
合計 | 160 | 150 | 45億円 |
ここの解釈としては支払いが認定されたのが150人で、実際に支払いが開始されているのが108人と考えれば良いのでしょうか。どうみてもなんですが、平成21年度の審査件数も少なすぎて問題ですが、平成22年になると、一体なんのために存在しているんだろうかと首を傾げたくなる状態です。たぶんですが申請しない方が悪いとの理屈でしょうし、対象が、運営組織って機構ですから、実に素晴らしい制度である事がわかります。この調子なら平成23年度の審査件数は夢の1桁に突入しそうです。そう言えば、産科以外にも無過失補償を広げる話がありましたが、そりゃ完璧な制度設計をされる事は疑いありません。それに誰もそれを問題にする気配すらありませんし。
あえて参考のために付け加えておくと、産科無過失補償制度の財源は設計時点で300億円ぐらいでした。これは想定通り確保されています。では支払い予想がどんなものかです。CP児が対象ですが、発生率はおおよそ1000人に2人ぐらいであり、年間にすると2000人ぐらいになります。ところが厚労省の試算は2000人に1人で年間500人程度となっています。
1000人に2人から2000人に1人になる理由が障害程度基準(1級と2級に限定)による足切りであるのはよくわかります。そいでもって脳性麻痺の身障1級及び2級とは、
等級 | 肢体不自由 (乳幼児期以前の非進行性の脳病変による運動機能障害) |
|
上肢機能 | 移動機能 | |
1級 | 不随意運動・失調等により上肢を使用する日常生活動作がほとんど不可能なもの | 不随意運動・失調等により歩行が不可能なもの |
2級 | 不随意運動・失調等により上肢を使用する日常生活動作が極度に制限されるもの | 不随意運動・失調等により歩行が極度に制限されるもの |
3級 | 不随意運動・失調等により上肢を使用する日常生活動作が著しく制限されるもの | 不随意運動・失調等により歩行が家庭内での日常生活活動に制限されるもの |
4級 | 不随意運動・失調等による上肢の機能障害により社会での日常生活活動が著しく制限されるもの | 不随意運動・失調等により社会での日常生活活動が著しく制限されるもの |
5級 | 不随意運動・失調等による上肢の機能障害により社会での日常生活活動に支障のあるもの | 不随意運動・失調等により社会での日常生活活動に支障のあるもの |
6級 | 不随意運動・失調等により上肢の機能の劣るもの | 不随意運動・失調等により移動機能の劣るもの |
7級 | 上肢に不随意運動・失調等を有するもの | 下肢に不随意運動・失調等を有するもの |
3級以下は無補償の制度であるのは前にも解説させて頂いています。ここで調査しきれなかったのは、障害程度基準1級と2級で
- 出生体重が2,000g以上であり、かつ、在胎週数が33週以上であること
- 在胎週数が28週以上であり、かつ、次の(1)または(2)に該当すること
- 低酸素状態が持続して臍帯動脈血中の代謝性アシドーシス(酸性血症)の所見が認められる場合(pH値が7.1未満)
- 胎児心拍モニターにおいて特に異常のなかった症例で、通常、前兆となるような低酸素状況が前置胎盤、常位胎盤早期剥離、子宮破裂、子癇、臍帯脱出等によって起こり、引き続き、次のイからハまでのいずれかの胎児心拍数パターンが認められ、かつ、心拍数基線細変動の消失が認められる場合
イ.突発性で持続する徐脈
ロ.子宮収縮の50%以上に出現する遅発一過性徐脈
ハ.子宮収縮の50%以上に出現する変動一過性徐脈
この基準を満たすCP児が本当に500人存在するかどうかです。遺憾とさせて頂きます。
それではあくまでも仮に500人にまるまる3000万円を払ったら(本来そうするべき制度のはずですが・・・)どうなるかですが、それでも150億円です。集めた保険金の半分以下です。全員に漏れなく支払っても保険料の半分は機構に残る制度である上に、たしか余剰金が出ても還元しないと頑張っていたと記憶しています。
保険制度は良く知りませんが、保険料の半分しか支払いがなければ常識的には黒字でしょう。ところが現実は支払いが確定している人数で計算しても、1年目が128人、2年目に至ってはたったの22人です。あえてその辺の関係を表にしておくと、
* | 平成21年生 | 平成22年生 | ||
保険料収入 | 315億2476万6千円 | 323億8304万6千円 | ||
本来支払うべき補償金 | 150億円 | 500人分 | 150億円 | 500人分 |
支払う予定の補償金 | 38億4000万円 | 128人分 | 6億6000万円 | 22人分 |
払わずに済んでいる補償金 | 111億6000万円 | 372人分 | 143億4000万円 | 478人分 |
本来残るべき保険金 | 165億2476万6千円 | 173億8304万6千円 | ||
現実に残っている保険金 | 276億8476万6000円 | 317億2304万6千円 |
私が見る限り、まさに金のなる木を抱きかかえている様にしか見えません。それと実際に手許に残っている保険金はもっともっと多額です。支払いは上記したように「一時金を600万円受け取り、その後は毎年120万円を20回まで(20歳まで)」です。事業報告では一括で払っているような体裁を取っていますが、実際に払われた分は半分もありません。本当に羨ましい限りです。この際ですから、もう一つグラフを示しておきます。
今回の震災に対してどう対応しているかも気にはなります。被災地にも認定病院はあるでしょうし、たまたま更新時期にあたっているところもあるはずです。探してみるとありました。東北地方太平洋沖地震の被害に係る病院機能評価事業の特例措置についてです。これ涙が出そうなぐらい恩情溢れる特別措置で、
1.被災地域の病院の訪問審査の延期
(1)対象
災害救助法適用市町村(東京都については同法適用地域となっておりますが、他の地域と異なり大量の帰宅困難者の発生に伴い適用されたことから、特例措置の対象からは除きます)に所在する認定病院のうち、建物の損傷または被災した病院等への支援活動などにより受審準備が遅れ、認定証の有効期限の前月末日までに訪問審査を受けられない病院とします。
(2)特例措置の内容
病院の申出により、病院機能評価実施要領4.(1)の「自然災害」を適用し、訪問審査を認定証有効期間の末日から1年を超えない時期まで延期します。
2.計画停電対象地域の病院の訪問審査の延期
(1)対象
東京電力、および東北電力の計画停電対象地域に所在する認定病院のうち、計画停電の影響で、認定証の有効期限の前月末日までに訪問審査を受けられない病院とします。
(2)特例措置の内容
病院の申出により、病院機能評価実施要領4.(1)の「やむを得ない事情」を適用し、訪問審査を認定証有効期間の末日から6ヶ月を超えない時期まで延期します。
3.その他
災害救助法適用市町村の地域以外の認定病院においても、東北地方太平洋沖地震による建物の損傷または被災した病院等への支援活動などにより受審準備が遅れ、認定証の有効期限の前月末日までに訪問審査を受けられない場合は、1.と同様の特例措置の対象とすることを検討します。個別にお問い合わせください。
この1年の延期ですが、病院機能評価実施要領にある規定の適用です。まあそれを今回の震災に対して「特別」に適用したと言う事でしょうが、期間は最大1年との事です。もちろん審査費用の減免なんてものは実施要領にありませんから、当然のように影も形もありません。被災した認定病院の方々におかれましては、余りの温情に随喜の涙を流されたことだと思います。
ついでですから産科無過失補償に対する特別措置も掲載しておきます。
特例措置の内容は、本年3月から5月に取り扱った分娩に係る掛金の払込が困難となった分娩機関について払込時期を一定期間延期することと、事務手続き等に関して困ったことがあれば専用コールセンターで相談を受け付けるとしたものである。
延期はするがキッチリ払ってくれとのことです。機構の経営が当分は安定どころか無敵である事だけは保証出来そうです。これぐらいの経営感覚が無いと、今の時代に営利事業として生き残れません。惜しむらくは公益財団法人であって株式上場されていない点になりそうです。上場されていたらせめて株に投資できておこぼれをもらえるんですがねぇ。