夏枯れ

どうにもネタ切れでブログを続けるのに四苦八苦状態です。四苦八苦と言いながら日曜日まで精出して書いている方がアホウとも言われそうですが、今朝は本当に困っています。ストックしているネタもあるんですが、相当な品質不良で食指が動きません。動かないと言うより、書きかけたのですが猛烈にまとまりが悪くて永遠の下書きになってしまいそうです。

ブログなので休載は自由なんですが、そうもいかないでしょうから軽いネタで。8/4付毎日新聞より、

在宅療養支援:診療所に地域差 「空白自治体」36%も

 24時間体制で往診、訪問看護を行う「在宅療養支援診療所」が4月1日現在で1万カ所を超える一方で、届け出が都市部に集中し、ゼロの市町村が666に上ることが毎日新聞の調べで分かった。全自治体(1827市区町村)の36%が「空白地域」。支援診療所は超高齢社会の在宅医療推進の切り札として昨年4月に導入されたが、住み慣れた家で最期を迎えたくても迎えられない現状が浮き彫りになった。

 支援診療所は終末期ケアや慢性疾患療養への対応が期待され、国には医療費を削減する思惑もある。届け出には「医師や看護師が24時間、患者と連絡が取れる」などの条件があり、診療報酬が手厚くされている。

 届け出数は各都道府県の社会保険事務局から聞き取り、一部は情報公開請求して調べた。それによると、支援診療所は1万249カ所で、約9万7000の一般診療所の1割以上が届け出た。

 最多は大阪府の1359カ所。以下、東京都1087カ所▽福岡県657カ所。少ないのは、富山県29カ所▽高知県30カ所▽山梨県32カ所の順。

 医療の必要度が高くなる75歳以上の人口比でみると、大阪府が504人に1カ所なのに対し、富山県は4554人に1カ所。ただ届け出はしていなくても、実態として在宅医療の拠点になっているところもある。

 都道府県内でみても、都市部偏在が顕著。北海道は195カ所の届け出のうち札幌市に72カ所(37%)が集中。空白市町村がない大阪府も、大阪市が42%(576カ所)に上った。往診できる範囲は一般に車で20〜30分が限度とされ、都市部以外での在宅医療の難しさを物語っている。

 厚生労働省医療課は「1万カ所はほぼ予想していた数だが、高齢社会がさらに進むなかでは足りない。地域差も、これから議論していく」と話している。【有田浩子、望月麻紀】

おもしろくも可笑しくもない記事なのですが、まずは記事の要点から、

  1. 支援診療所は1万249カ所で、約9万7000の一般診療所の1割以上
  2. 在宅療養支援診療所は全自治体(1827市区町村)の36%が「空白地域」
  3. 都道府県格差があり大阪府が504人に1カ所なのに対し、富山県は4554人に1カ所
  4. 都道府県内でみても、都市部偏在が顕著
  5. 問題点として「住み慣れた家で最期を迎えたくても迎えられない現状が浮き彫りになった」
こんなものですかね。サラサラと「足りない、足りない」と書いていますが、全国の診療所の1割以上が支援診療所になっても足りないのなら、いったいどれほどの診療所が支援診療所になれば「足りる」んでしょうか。言ったら悪いですが全国の診療所の2割が支援診療所になってもおそらく足りないと思います。

診療所の分布は都市部に偏る傾向が強くなります。理由は幾つもありますが、医療上で言えば後方支援病院無しでの開業は不安が強いからです。病院と診療所の違いは多々ありますが、病院は基本的に入院治療まで自己完結しているのに対して、診療所は限定された外来機能しか無いことです。診療所の医療機能は後方支援病院を確保してこそ十全な機能を発揮します。

二昔、三昔前なら診療所で十分とは言えない治療でたとえ死亡しても「寿命」と納得するような社会的合意が残っていました。ところが現在はそうではありません。診療所と言えども適切な転送処置を少しでも誤ると厳しい糾弾が待っています。そうなれば後方支援病院が十分でないところの開業は二の足も三の足も踏む事になります。逆に都市部で充実しているところは、競争が激しくとも進んで進出します。

「経営」と「医療」の両天秤となりますが、開業に当たってはギリギリのところで医療のセーフティマージンを確保しようとします。これは医師の本能と言えるかもしれません。かくして都市部には陸続と開業医が増え、地方僻地では一人の高齢開業医が引退するだけでカバーできない大きな穴が空く事にしばしばなります。

それと記事では

    届け出には「医師や看護師が24時間、患者と連絡が取れる」などの条件
なんでもない条件のように書かれていますが、これがどれだけ厳しい条件かは医師なら身に沁みてよく知っています。これもまた都市部に支援診療所が多く、地方で少ない理由になると考えます。

都市部の開業は飽和状態なのですが、飽和状態なので必然的に経営が苦しくなります。とくに開業資金の返済に四苦八苦しているような診療所なら、「食う」ために参入の決断をします。また年齢もそれにまだ耐えられる若さが残っているからです。それに都市部なら歩いていける距離に提携できる診療所を見つけることも可能であり、「24時間」であっても「365日」を逃れられる条件整備も難しくありません。

地方では一般に開業医の高齢化も確実に進んでいます。一般に高齢の開業医は既に開業資金を返済し、さらに老後の資金も蓄えています。基本的に医師不足地帯ですから、支援診療所をしなくとも普通に外来をやれば食っていけます。医業収入が減っても、借金返済が無いのであれば、細々なら十分な収入を上げられます。さらに体力的にも24時間は自らの寿命を削る結果しか産みません。さらに手を挙げれば、本当に一人で24時間365日が待つことになりますし、連携しようにも簡単には相手が見つかりません。

厚生労働省医療課は

    「1万カ所はほぼ予想していた数だが、高齢社会がさらに進むなかでは足りない。地域差も、これから議論していく」
お気楽なコメントを出しています。今後5年以内に療養病床を38万床から15万床に減らして23万人の患者を病院から追い出し、さらに一般病床90万床を半減して40万人以上の患者をこれも追い出し、一方で高齢者がこれから1.7倍に増えます。現状でさえ支援診療所が1万ヶ所でも足りないのは立証されましたが、日本全国に溢れる在宅患者を支援するには後何万ヶ所の支援診療所が必要の概算はやっているのでしょうか。元記事が出てこないのですが、面積あたりの医師の偏在データなんてものが発表されていました。在宅支援となると総人口あたりではなく、面積あたりの医師の確保が必要であり、そのうえ開業医ですから経営的にペイしないと速やかに消滅します。

私の感触では日本中の内科系開業医を根こそぎ動員しても果たして足りるか疑問です。また根こそぎ動員されるような状態なら、今度は開業に二の足も三の足も踏む医師が増えるのもまた確実です。医師の個人差はあるでしょうが、60歳を越えて24時間365日状態を維持できるものは急速に減るでしょうし、70歳を越えてもできる医師は一握りの様な気がします。そして医師会の平均年齢は約60歳です。

そう言えば医師の需給に関する検討会報告書では、70歳以上の医師の数は2002年に医師全体の11.6%、28922人いたものが、2010年には7000人に減ると予言されています。2002年から2010年の間に70歳に達するはずの医師の数は18000人であり、全員生きていたら47000人になるはずですが、なんとそのうち40000人が死亡するとなっています。この予想もこういう事態を織り込んでのものでしょうですかね。