開業医と言っても商売ですから、患者が来ない事には食っていけません。そいでもって患者は既設の開業医が握っているわけです。そこから患者を奪わないと商売が上がったりになります。既設の開業医から患者を奪うのも集患の一つですが、人口急増地ならまだどこの「かかりつけ」でもない患者の争奪戦も期待できるわけです。つまり集患手段として、
- 既設の開業医から患者を奪う
- 人口増加分の新たな患者の争奪戦に勝つ
ですから人口急増地は開業好適地として、開業を考える医師なら有力候補地になります。都築区もまたそうなっているのは間違いありませんが、既に、
医師会としては、志を同じくする仲間が増えることは歓迎いたしておりますが、都市部ではすでに過飽和状態となり適性な医療が行えなくなっているのも事実です。
医療機関といえども経営が成り立たなく撤退を余儀なくされる例もでてきております。
オーバーストア状態になっているとの情報提供です。これは都築区医師会のグラフを表に直したものですが、
年 | 新規開業数 |
1995 | 41 |
1996 | 48 |
1997 | 49 |
1998 | 60 |
1999 | 63 |
2000 | 70 |
2001 | 74 |
2002 | 78 |
2003 | 81 |
2004 | 95 |
2005 | 97 |
2006 | 103 |
2007 | 110 |
この数を見て最初は仰天しました。だって、
都筑区新規開業数(医師会入会分のみ) 平成7年には、41件でしたが、平成19年には110件と激増しています。
こう書いてあれば、毎年毎年の新規開業医数と思ってしまいそうになるからです。もしそうなら1995年から2007年までの新規開業の合計は969件になり、さらに2007年時点で、
平成19年には110件
969件も新規開業して110件しか生き残っていない事になるからです。まさしく死屍累々の世界ですが、幾らなんでもそこまでになれば話題になるはずです。実際に廃業となったところも出現しているとは思いますが、新規開業の9割が討ち死にする世界はさすがに異常です。そうなれば見方が少し見方が変わります。つまりこの新規開業医数とは現在の診療所数と解釈するのが妥当です。
都築区医師会は平成6年に誕生しています。平成6年に横浜市の区の再編成があり、その時に都築区が生まれたためです。都築区医師会の集計が平成7年からなのは、平成6年に区医師会が作られ、平成6年度中に入会した開業医の数と見れます。そいでもって後は累積数です。平成19年には110件となっていますが、平成24年には130件となっており、17年間のうちに3倍以上の増加は多いのは間違いありません。
開業のための参考データとして人口比が必要ですが、データの関係で1996年から2010年の推移を見ます。
小児科がかえってわかりやすいのですが、小児科にとっては総人口より小児人口が患者数の決め手になります。少子高齢化が進んだ街では、いくら人口があっても小児科開業医は成立しません。患者がいないからです。逆に小児科以外なら高齢者人口がポイントになるかと思います。いわゆる勤労年齢でも診療所を受診する事はあっても、高齢者に較べると頻度は桁違いです。
そういう目で見ると高齢者の診療所あたりの人口数は横這いから微増です。具体的には1996年に168.0人であったものが、2010年には205.1人に増えています。さらに言えば、新興住宅地の常として10年すれば高齢者人口は確実に増えます。現実に都築区の人口増加率は、1994年から2012年の間に、
- 総人口は1.7倍になった
- 高齢者人口は3.4倍になった
- 小児人口は1.6倍になった
- 高齢患者の受診は増え、これからも伸びは十分に期待できる
- 勤労年齢患者の受診はジリ貧
都筑区では、15歳未満は3万5千人程の人口数であり、小児科標榜診療所が36機関と多いため、1診療所あたりの人口は978人で、非常に少ない数となっております
高齢者人口比も小児人口比も比較は必要です。そのため都築区医師会は、
- 高齢者人口比は横浜の他の区と比較し最小レベルであることを提示
- 小児人口比は近隣都県と比較し最小レベルであることを提示
データには嘘はないと思います。またこういうデータは勤務医では容易に入手できるものではありません。最近では開業時にコンサルが付く事が多いですが、良心的なコンサルなら都築区医師会よりもっと詳細なデータを提供してくれますが、質の悪いコンサルなら穴場情報の都合の良いところだけ提示して勧誘するところも少なくありません。
ネット時代ですから都築区医師会が提示した情報ぐらいは自力で調べるのは可能です。しかし開業と言う大事業にも関らず、そういう手間ヒマを惜しむ勤務医も少なくありません。そういう点で都築区医師会が提示した情報は意味はあると思います。もっとも「医師会情報だから・・・」と頭から信用しない医師も多いとは想像しますが、何事もデータは裏を取る作業を惜しむべきではないと思います。
さてさて都築区は近隣に比べ開業条件が良くないのは正しいと思います。ですからこの医師会情報に従って他の地区を探すのは悪い判断とも思えません。都築区になんらかの因縁があるならともかく、単なる落下傘開業なら開業場所へのこだわりは高くないだろうからです。都築区とその周辺との比較では正しいのですが、個人的には少々複雑です。
つうのも気になって私が開業している神戸のうちの区で同様の試算をやってみました。結果は、
人口比 | 都築区 | うちの区 |
総人口/診療所数 | 1645.4 | 985.0 |
高齢者人口/診療所数 | 205.1 | 207.0 |
小児人口/小児科標榜医療機関 | 978.0 | 631.0 |
笑ったらいけませんが、なんと厳しい状態なんだろうと言うところです。私は開業場所として神戸市内を前提としていまして、当時なりに少しでも有利な場所を選定したつもりでしたが、都築区なんか鼻息で吹き飛ばしそうな条件の悪さです。付け加えておきますが、うちの区の開業医数自体はここ10年ぐらいの間でせいぜい微増ぐらいの動きでコレです。うちの区と較べるのは意味は無いのですが、数値だけで言えば都築区の方が条件は良い事になります。道理で経営は厳しいわけです。
開業してみて思ったのですが、開業地条件の善し悪しは時間と共に激しく変化します。開業時には良くとも、近隣に競合医療機関が進出してくれば一遍に状況が変化します。上記したように開業時にはその時の状況・情報で判断せざるを得ず、開業後にどうなるかは神のみぞ知るになります。考え様によっては、開業時に「穴場だ!」と思うようなところは、自分以外にも「穴場だ!」であり、ものの数件でもその後に開業すれば「地獄だ!」になりうると言う事です。
もっとも逆だってあります。開業は前にトレンドを調べましたが、ある周期で増減します。10年スパン程度で一気に開業ラッシュが起これば、特定地区は満杯になります。満杯状態の地区は開業が忌避されます。ただ開業時期が近いだけに閉院時期もまた近いと言う事です。とある私の先輩医師(開業医)が私の開業の時に、
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一番エエのは、寿命が近そうな流行っている開業医の側に開業する事だ!
ちなみにこれを聞いて、先輩医師の診療所の近くに開業するプランが頭に浮かびましたが、言うほど歳の差が少ないのと、あのパワーなら100歳になっても元気そうなので断念しました。小判鮫戦法も相手を選ばないと効果はないと言うあたりです。
もっと大きな流れで言えば、開業医への締め付け政策は当分続きます。たとえば内科なら在宅医療への動員政策が続くのは必至ですから、外来だけでは食えないようにする政策誘導は続くと考えるのが妥当です。この内科への在宅誘導政策の波及は他の診療科にも多かれ少なかれ確実に影響します。また開業医と言っても40年も50年も続けられるものではなく、開業年齢にもよりますが旬は20年程度です。
旬のうちに巨額と言っても良い開業資金を返済し、老後の資金を蓄える事が求められます。今なら伝説から神話になりつつある開業医ウハウハ話を信じている方は・・・どうも医療関係者以外だけではなく医師にもいそうです。現開業医から言える事は、ウハウハを夢見て開業するのならやめた方が良いです。ウハウハの開業医も存在しますが、大昔のように誰でもそうなれるの時代は過ぎ去っています。
開業医の現在のメリットは、経営者ですから自分で生活時間をコントロール出来る点と思っています。これが勤務医との大きな差で、これを重く見る医師なら開業をお勧めしても良いですが、ウハウハを期待されるのならやめられた方が賢明のように思っています。それほど甘い商売ではありません。つう事で、強引な結論ですが、うちの区で開業するのは都築区より条件は遥かに厳しいのだけは間違いないとして最後に便乗しておきます。