病院の集約化のなんとなくの先行き

2012年6月時点で病院数は8565、そのうち一般病床を持つ病院が5954、さらに救急告示病院が3821と医療施設動態調査では報告されています。今の大きな流れとして集約化があります。これは厚労省の医療政策としてもあり、勤務医の労働環境改善としてもあります。目的は同床異夢かもしれませんが、反対する現実的な有力勢力が乏しいぐらいのところです。ではでは、どの辺まで絞られるかです。これも現在の流れとして、

    一般病床 ≒ 救急病院
こういう感じになってくると見ています。集約化して大規模化し、そこにすべての救急患者を集めるぐらいでしょうか。集めて治療した後は、亜急性期とか、療養病床的なところに速やかに流し、流されたところは・・・在宅に一生懸命流すぐらいの構図になりそうです。ここでトップの救急病院数はどうなるかです。随分前だったですが、10万人に1病院なんて話があった気がします。その計算で行くと1200。急性期病床数も50万床ぐらいに減らす話も出ていましたから、平均で400床クラスの規模になります。

10万人あたりに400床クラスの病院は「そんなものか」と思わないでもありませんが、都市部では比較的容易かもしれません。200床の病院2つが1つの400床病院になったところでそんなに影響は出ないと思います。たぶん問題は地方。のぢぎく県にも但馬地方と言うのがあり、けっこうな面積はあるのですが、それでも人口としては20万人程度で生き残るのは公立豊岡と公立八鹿の2カ所になります。但馬地方は現実としてもそうなりつつあるのですが、たとえば鳥取県ならどうだろうです。鳥取県の人口は60万人を切っています。つう事は5〜6ヶ所に集約される事になります。ここで北海道の話は当然出てくるのですが、あそこは広大すぎて生活経験のない私には論じる事は出来なくなります。


集約化の影の部分は人口が希薄な地方に現れます。人口10万人が居住する地域は広大と言うことです。当たり前ですが病院へのアクセス問題が出てきます。だからこそヘリ救急の普及促進に血道を挙げていると考えれば筋は通るかもしれません。救急車じゃ広すぎて時間がかかりすぎると言うところでしょうか。急性期病院の後の問題も同様です。現在、厚労省が全力を挙げて推進している在宅ですが、とにかく効率が良くありません。患者を1人診るのに1軒づつ移動しなければならないからです。医療も経営ですから患者を診ないと話にならないわけであり、時間当たりに診察できる人数が律速段階になると言うことです。

都市部の人口密集地域と比べ、人口希薄部では次の患家までの移動時間はどうしたって長くなります。地方の生活感覚ではクルマで30分は「近い」かもしれませんが、在宅経営ではモロ30分であり診察可能人数の律速段階に嫌でもなります。1日当たり何人の在宅患者を診察できるかの収益分岐点が経営的には存在し、これを下回る地域では在宅医療経営は成立しないになります。成立させるためには人口希薄地域の料金を上げるしかないのですが、上がった分だけの自己負担問題が連動しますし、医療費増大に直結しますから・・・どうなるんだろうです。


少し前に松前病院の事を調べていたのですが、松前町は人口8000人程度の町です。10万人に1病院構想ではまず病院は残りません。では診療所はどうかになりますが、調べた範囲では3ヶ所しかありません。さらにそのうち1ヶ所は町立診療所です。病院が集約化で無くなった後の入院はともかく外来機能はどうするかの問題は出てきます。ここも病院がなくなれば診療所は自然に出来上がるの考え方もありますが、そうなるかどうかはチト不安が残ります。私も開業医ですから開業時には色々と考えました。

診療所ですから患者人口(小児科なら小児人口)がいないと話にならないわけで、少子高齢化が進んだ地域は避けられます。もう一つのエッセンスは入院等を紹介できる病院の存在です。診療所はそこだけで医療が完結できるわけでなく、入院機能や様々な検査を行える病院とセットになる必要があります。これがないと立ち往生します。そのために病院の周辺に診療所が案外多いと言うのがあります。一見すると病院外来と競合しているように見えますが、いつでも紹介受診が可能と言うメリットも診療所には捨て難いと言うところです。その点を考えると、病院がなくなった穴埋めに診療所が進出してくるかは私には何とも言えません。

進出して穴埋めしてくれれば良いのですが、そうでなければ公立で何か作らざるを得なくなります。これも医療費節減の大号令下ですから、リッチなものは期待できません。いわゆる効率化の極致みたいなものが求められるわけで、最小限の医療スタッフで最大の効率を求められる事になるでしょう。そこで出てくるのが総合診療医と考えれば、これまた筋が通ります。これまでの専門医的な医師と違い、純患者人口割で医師を計算できます。そりゃ、1人で何でもできる建前になっているからです。もうちょと考えれば看護師の業務拡大もそうかもしれません。最終的にNPみたいなものを目指しているとすれば、地域によっては総合診療医さえ存在せず、NPがこれを支える状態になるのかもしれません。NPの方が医師より安価ですし、安価になるように制度設計するのは必至だからです。


まあ「なんとなく」の話に過ぎませんが、先行きとして医療の配置は、

  • 人口密集地域・・・専門医のいる病院とそれに付随する診療所群(在宅のマンパワーも比較的ある)
  • 人口希薄地域・・・総合診療医が診療所に頑張っているところ(在宅のマンパワーも限定的)
  • 人口閑散地域・・・NPのみ点在
こういう風に色分けされるかもしれません。後はこの状況で患者がどうするかです。医療の事を考えれば都市部に移住するのが有利です。もっとも住み慣れた地域への愛着は格段のものがありますから、乏しい医療に満足すると言う選択もあります。なんかそんな事を漠然と考えてしまいました。どうなるにしろ先の事を予想しても当たるも八卦、当たらぬも八卦ぐらいしか町医者にはわかりません。