自律的労働時間制度について考える

これで3日連続こだわっているホワイトカラー・エグゼンプション(WE)ですが、ここまでの理解は「労働時間や残業代の規定を適用しない」労働時間制度であるしか考えていませんでした。後はこれの適用を受けるのはある一定の年収以上のホワイトカラーだというぐらいで、よく考えれば労働法制見直しの素案の原文すら知らない事に気がつきました。(今さらかと言われそうですが・・・)是正案でも棚上げになり、経営者側がゴリ押ししてでも創設したい自律的労働時間制度の素案を分析したいと思います。

おそらく素案と見なせるものが厚生労働省のHPにありましたから、引用します。

自律的労働時間制度の創設

(基本的な考え方)
産業構造が変化し就業形態・就業意識の多様化が進む中、高付加価値の仕事を通じたより一層の自己実現や能力発揮を望み、緩やかな管理の下で自律的な働き方をすることがふさわしい仕事に就く者について、一層の能力発揮をできるようにする観点から、現行の労働時間制度の見直しを行う。

  • 〔対象労働者の要件等〕
    • 自律的な働き方をすることがふさわしい仕事に就く者は、次のような者ではないか。
      1. 使用者から具体的な労働時間の配分の指示がされないこと、及び業務量の適正化の観点から、使用者から業務の追加の指示があった場合は既存の業務との調節(例えば、労働者が追加の業務指示について一定範囲で拒絶できるようにすること、労使で業務量を計画的に調整する仕組みを設けていること)ができるようになっていること。
      2. 労働者の健康が確保されるという視点が重要であり、以下の要件が満たされていること。
        • 週休2日相当の休日、一定日数以上の連続する特別休暇があることなど、相当程度の休日が確保されることが確実に見込まれること。
        • 健康確保のために健康をチェックし、問題があった場合には対処する仕組み(例えば、労働者の申出により、又は定期的に医師による面接指導を行うこと)が整っていること。

      3. 年間に支払われることが確実に見込まれる賃金の額が、自律的に働き方を決定できると評価されるに足る一定水準以上の額であること。

    • 上記の事項について、対象労働者と個別の労働契約で書面により合意していることが必要ではないか。
    • ネガティブリストとして、物の製造の業務に従事する者等を指定して、この制度の対象とはならないことを明確にすることが必要ではないか。

  • 〔導入要件等〕
    • 労使の実質的な協議に基づく合意により、新制度の対象労働者の範囲を具体的に定めることとするのが適当ではないか。また、年収が特に高い労働者については、協議を経ずに対象労働者とすることができるようにすることが考えられないか。
    • 対象労働者の範囲を労使合意で具体的に明確にする際には、当該事業場の全労働者の一定割合以内とすることが必要ではないか。
    • 就業規則において、適用される賃金制度が他の労働者と明確に区分されており、賃金台帳に個別に明示されていることが必要ではないか。

  • 〔効果〕
      労働基準法第35条(法定休日)及び第39条(年次有給休暇)は適用し、その他の労働時間、休憩及び休日に関する規定並びに深夜業の割増賃金に関する規定を適用しないこととしてはどうか。

  • 〔適正な運用を確保するための措置等〕
    • 適正な運用を確保するため、次のような措置等を講ずることとしてはどうか。
      1. 苦情処理制度を設けることを義務付けること。
      2. 重大な違背があった場合は、労働者の年収に一定の割合を乗じた補償金を対象労働者に支払うものとすること。
      3. 要件違背の場合、行政官庁は、改善命令を発することができること。改善命令に違背した場合は、当該対象労働者を通常の労働時間管理に戻す命令や制度(全体)の廃止命令を発出することができるものとすること。

    • 要件違背の場合に、労働基準法32条違反等と整理するとともに、別途自律的労働時間制度の手続違反として厳正な履行の確保を図ることが考えられないか。

あんまり話を広げると混乱しますので、誠に申し訳ありませんが、この制度が医者に適用される可能性があるのかに絞りながら分析してみたいと思います。重複しますが、適宜再引用しながら追いかけてみます。

分かりやすいところに「対象労働者の要件等」があります。ここにはまず3項目の対象条件と付加的条件が2項目加えられています。まず条件の一つ目ですが、

    使用者から具体的な労働時間の配分の指示がされないこと、及び業務量の適正化の観点から、使用者から業務の追加の指示があった場合は既存の業務との調節(例えば、労働者が追加の業務指示について一定範囲で拒絶できるようにすること、労使で業務量を計画的に調整する仕組みを設けていること)ができるようになっていること。
これはごく素直に医者には適合が難しい条件です。「使用者から具体的な労働時間の配分の指示がされないこと」となっていますが、これを字義通りに医療に適用すれば、外来時間は医者が好きな時間に設定できる事になり病院は大混乱となります。宿日直業務も同様で、個々の医者が自律的に具体的な指示無しで勝手な時間に行なえば、奇跡でも起こらない限り365日穴無く埋められることはありえません。オンコールと称しての自宅拘束も使用者の具体的な労働時間の指示になると考えるのが自然でしょうし、「この時間は休みの時間」と医者が自律的に判断すれば呼び出しは不可能だと考えられます。項目の一つ目は医者には適用不可能という事になります。

次に二つ目ですが、これは2項目からなっています。

  1. 週休2日相当の休日、一定日数以上の連続する特別休暇があることなど、相当程度の休日が確保されることが確実に見込まれること。
  2. 健康確保のために健康をチェックし、問題があった場合には対処する仕組み(例えば、労働者の申出により、又は定期的に医師による面接指導を行うこと)が整っていること。
実態はまったく満たしていませんが、厚生労働省の理解ではこれは満たしていると考えざるを得ないですね。

そして3つ目ですが、

    年間に支払われることが確実に見込まれる賃金の額が、自律的に働き方を決定できると評価されるに足る一定水準以上の額であること。
これがいわゆる年収条項で、経団連が年収400万で「世界に誇れるホワイトカラーの証」と主張している項目です。さすがに400万は駆け引きで1000万ぐらいを妥結の腹積もりと伝えられますが、これは満たしています。

3項目中2項目は医者は満たしています。ただし3項目中一番肝心と考えられる項目を、医者に適用するのは普通に読めば難しいと考えます。では安心かといえばなんとも言えません。こういう物は拡大解釈が行なわれるのを前提に設定されています。どんな屁理屈が並べられるかわかりませんが、ありそうなものとして

    使用者は具体的な労働時間の配分の指示は行なえないとなっているが、業務の遂行に重大な支障が判断される場合に限り、ある一定の指示は認められるものとする。
これぐらいの抜け穴を作れば医者だって適用される可能性は十分あります。

続いて「導入要件」を見てみます。

  • 労使の実質的な協議に基づく合意により、新制度の対象労働者の範囲を具体的に定めることとするのが適当ではないか。また、年収が特に高い労働者については、協議を経ずに対象労働者とすることができるようにすることが考えられないか。
  • 対象労働者の範囲を労使合意で具体的に明確にする際には、当該事業場の全労働者の一定割合以内とすることが必要ではないか。
  • 就業規則において、適用される賃金制度が他の労働者と明確に区分されており、賃金台帳に個別に明示されていることが必要ではないか。

これについては医者は抵抗のしようがありません。医者には実質労働組合がありません。組合が無いので労使協議では圧倒的に不利です。またその上に「年収が特に高い労働者については、協議を経ずに対象労働者とする」となっていますから、業務命令でチョンのような気がします。また「当該事業場の全労働者の一定割合以内とする」ですが、コメディカルが対象外となれば、医者全部をWEにしても「一定割合」については問題無しです。

う〜ん。鵺みたいなもので使用者の腹一つ、運用一つで医者に適用できないとは断言はとても出来ません。と言うよりどんな屁理屈を並べても適用するように拡大解釈をするように思えてなりません。心配しすぎと誰か言ってくれないですかね・・・。