無過失補償制度を自民が検討

9/7付毎日新聞からです。

 自民党は7日、「医療紛争処理のあり方検討会」(座長・大村秀章衆院議員)を発足させ、多発する医療事故への対応策づくりに着手した。当面は、出産時の事故に関し医師の過失を立証できなくとも患者に金銭補償する「無過失補償制度」の創設に向けた議論をスタートさせ、年内に法案化への道筋をつけることを確認した。

 医療事故に絡む04年の民事訴訟は1110件で、10年前の約2倍。うち産科は143件で、件数では(1)内科(272件)(2)外科(228件)などに次ぐ4位だが、医師1000人当たりでは11.8件で最も多い。厚生労働省は「産科医の不足は訴訟リスクの高さが招いている面もある」とみており、被害者救済策に加え医師不足対策にもなるとしている。

 同制度に関し、日本医師会は税と妊産婦負担を財源とするよう主張しているが、政府は医師側に負担を求める考え。同検討会は厚労、法務両省、警察庁と財源や運営主体、補償すべきケースなどを検討し、年内に結論を出す方針だ。その後は、第三者機関による事故原因究明制度なども議論する。

医療危機のうち訴訟問題で医者が熱望している三課題、すなわち専門家による第3者審査機関、原則刑事免責と並ぶ無過失補償制度設立の動きです。第3者審査機関についてはどんなものになるか分かりませんが、厚生労働省が2008年発足を目指して検討すると言っていましたから、それに続くものと言えます。

この件については女医の愚痴先生が8/28に虚脱として既にエントリーされておられます。これもそのまま引用させて頂きます。

無過失保障制度について、日本医師会が今月8日、政府の公的支出と妊産婦の負担金を財源にした無過失補償制度の構想を発表している。これに対し、厚労省は「政府の公的支出は難しい」としており、産婦人科医側に負担を求めたい考えだ。補償の範囲については、母親と新生児の両方の被害を対象とする方向となっている。

国策を指導していく人たちの政策はどうしてこうもピントはずれなのだろう?産婦人科医に払えって?????え〜〜〜〜!頭の中に無数のクエスチョンマークが散乱した。昨今の理不尽な扱いを省みず、更に首を絞めろって?過失のない、やむを得ない病変であっても保証せよとおっしゃるのか?内科も人事ではないが、本当に、今現在も現場で頑張っていらっしゃる産婦人科医の先生方に敬意と・・・恐縮ながら同情申し上げる。

医療の諸対策がおかしなものばかりでうんざりするが、これまたメガトン級のmiss policy!になること間違いなしと、虚脱するばかり。

無過失補償制度設立のためには、2つの大きな問題が立ち塞がります。

  1. 財源をどうするか。
  2. 誰が無過失を認定するか。
女医の愚痴先生が虚脱されたのは財源問題です。医者が無過失であるのに、なぜ医者負担で補償しなければならないかという素直な疑問です。言い分は良く分かりますが、そこをあんまり強調すると患者側から「医者が無過失と言うのなら、患者は無過失の上、被害者である。なぜ患者が負担しなければならないか」と反論されます。患者側からそう言われれば、私如きの知恵ではそれを十分納得させる再反論が思い浮かびません。では政府の主張どおり医者が負担するのに賛成かと言われれば、女医の愚痴先生ではありませんが、無過失分まで医療側が全額補償するのに釈然としないものは残ります。

せっかく無過失補償制度が出来そうな気運があるのに、医者と患者の負担二元論で対立するのは好ましいとは思えません。もう少し根っ子からこの制度の趣旨を考えて誰が負担するかを考えるべきでしょう。なんと言っても無過失と謳っているのですから、誰の責任でも無いという前提があると考えます。前提として誰かが悪いという犯人さがしの制度では無いと言う事です。現在の司法制度では過失が無いところに補償は発生し無いという大原則があり、無過失補償制度は過失が無くとも被害が出れば補償するという制度だということです。

つまり過失を犯した責任者がいなくとも、被害者は厳然と存在するのですから、それを救済すべきだという制度なのです。言葉は悪いですが、今回は分娩に伴うものに限定して検討されるそうですから、分娩保険のようなものと解釈すれば良いかと考えます。分娩保険となれば、これを負担するのは当事者という事になります。当事者とは医者であり、産婦という事になります。原則としては当事者で折半が妥当な負担ではないかと考えます。

もちろん医者の中には「過失が無いのにその上で補償までさせられるか」の思いがある事は分かります。過失が無ければ現在では補償は全く不要であったのに、この制度では過失が無くとも補償させられるとは不可解だという声も出るとは考えます。ただそこの所の責任論に固執するとこの制度は進まなくなる怖れがあります。医者の言い分は私も医者なので理解は出来ますが、理解は出来てもこれを前面に押したてると猛烈な反発が出てくるのは容易に予想されます。

原則として折半と言いましたが、制度の運用ですから負担の分担が曖昧になる方法を行なうのがベターと思います。長々と書き連ねましたが、医療側と患者側の負担があまりにも明瞭になれば、その負担割合を巡って政治になる懸念が十分あります。そうしないためにも無過失補償制度と大見得を切るのではなく、上述した分娩保険の性格を強く押し出すべきじゃないかと考えています。

類似のものを強いてあげれば自動車の強制賠償保険のようなものです。分娩に当たっては必ず分娩保険に入らなければならないとし、その負担は医療側と患者側で折半すというものです。入ることを拒絶するなら、過失の無い分娩事故が発生したときに補償は無いというシステムです。もちろん私が考えたシステムも現在の厳しい現状から不都合は幾らでも数えられますが、あくまでも私見と思ってもらえたら幸いです。

もっと本音を言えば、負担の割合をもっと曖昧にするために全額国庫補償とするのがベストだと考えています。国庫補償といっても回りまわって、納税者全体が負担しているのですから、これがもっとも負担者が曖昧なシステムです。無過失補償制度の財源問題と「誰が負担するか」の問題は大きな問題ですし、制度の誕生を願う者としては不毛な患者 vs 医師の二元対立にだけならないように祈っています。

財源問題でえらく手を取られてしまいましたが、もう一つの問題である誰が無過失を認定するかです。ここで現在の司法システムを利用するのは避けるように制度設計をしてほしいと熱望します。過失の認定を現在の司法制度に委ねると、今まで以上に医療訴訟が増加する可能性を危惧します。訴える方にしてみれば、訴訟に勝てば賠償金、負けても無過失補償となります。もし訴訟に勝っての賠償金の方が無過失補償より相場が高いとなれば、まず1回戦は訴訟での風潮が強まってしまうと考えるからです。

これもまだまだ具体的な話が出ていませんので、限られた情報でのお話と御理解ください。