続々々無過失補償制度を厚生労働省が検討

まだ海の物とも山の物とも固まっていないこの制度ですが、検討している段階で情報を発信しようと言う姿勢で今日も続けます。いろんな疑問や懸念が真剣に考えれば浮かんでくるのですが、昨日頂いたコメントから「パンドラの箱を開ける」可能性のある事が浮かんできたので、重複する部分もありますがエントリーします。

この制度の具体化が行われようとしている背景は、危機が進行する医療の中でとくに危機的であり崩壊の明らかな徴候を示している産婦人科救済です。これについては異論が少ないかと思います。厚生労働省自体も「産婦人科医不足の解消の切り札」と明言しているようです。本当に切り札になるかどうかは昨日までも論じ、また思慮深いコメントを頂き、これからも課題点についてもう少し煮詰めていこうと考えています。

そんな中で元田舎医様のコメントにギクリとしました。再掲させて頂きます。

ふと思ったのですが、結局これって、現行では訴訟を起こさない限り「障害児には健康で文化的な最低限度の生活を保障できない」というのを政府が認めたことになるのでしょうか?

元田舎医様のコメントの趣旨とは少しずれるかもしれませんが、ハタと気がついたことがあります。この制度は産婦人科医療救済の為に作られようとしているのは上述した通りです。救済の手法論として、産婦人科医の訴訟リスクを軽減させる事が目的なのも周知の通りです。産婦人科医の訴訟リスクはいろいろありますが、その中でも最大のものと考えられる脳性麻痺訴訟に焦点を合わせたものであるのも前提と言ってよいと思います。

だから悪いとは言いませんが、こういう制度への視線は産婦人科救済のみに立ちすぎていると感じます。この制度が成立しある程度有効に働いた時に恩恵を受けるのはもちろん産婦人科医です。産婦人科医に福音となるために作ろうとしている制度ですから、産婦人科医に恩恵が無ければ困ります。もう一方で患者側からの視線を考えなければなりません。患者側からの視線もいくつもあり、これまでも御指摘のあった医療ミス隠し的な問題や遡及措置の問題なども重要ですし、考えを巡らす必要があるのですが今日は保留としておきます。

今日問題にしたいのは患者側から見て「なぜ脳性麻痺児だけ巨額の補償が為されるのか」という疑問です。患者側から見て脳性麻痺による障害児も、先天奇形などによる障害児も、障害児であるという点で変わりはありません。そんな中で脳性麻痺児だけ別格に扱われる理由を当然のように求めるかと考えます。この疑問に対し的確に答えることが出来るでしょうか。

現代医学で脳性麻痺児の発生原因として、分娩時の不適切な処置によるものは非常に少ない事は医学的に証明されています。この話は一般の方々の常識とは少し違うかもしれませんが、医学的には相当部分まで検証され常識化しています。ではいつ脳性麻痺が起こるかといえば、胎内で何らかの理由により発生しているとされます。そこから先は簡単に調べられる事ではなく、現在では原因不明とされています。

今回の制度はこの医学常識もある程度反映されていると考えています。それが故に脳性麻痺児に無過失補償という考えが生まれると私は考えています。ここで話が飛躍しますが、そうなれば脳性麻痺児は分類として先天奇形の一つと見なす事が出来そうな気がします。他の明らかに見て分かる先天奇形とどれ程の差があるかと言う事です。ここで脳性麻痺の原因は先天的なものではなく、分娩時も含め後天的なものであるとすれば、今度は過失論が重くなってしまいます。

そうなれば脳性麻痺以外の先天奇形による障害児も同等に補償するのが筋という事になります。さらに言えば後天的な原因の障害であっても、過失によらないものであるならこれも補償に加えるべきだと話が広がる可能性もあります。言い出したらきりがなくなるかもしれませんが、成人発症の難病についてもこれを除外する理由が簡単には見つかりません。

産婦人科医救済と言う本音の前提があるにしろ、患者側から見れば障害者への平等の救済を求める様になるのは当然の事かと思います。患者側からこの制度を見れば障害児救済制度そのものです。脳性麻痺児だけ救済される障害児であり、他の原因の障害児は救済されない理由を誰が納得できるように説明できるでしょうか。

冒頭でパンドラの箱の例えを出したのはこの点です。脳性麻痺児を救済すればやがて他の障害者すべてに手厚い救済を施さざるを得なくなります。施す事に何の異論もありませんが、そうなれば財源論争は医療者側負担なんてレベルの話ではなくなり、文字通り巨額のものに膨れ上がります。膨れ上がっても別に構わないのですが、結局誰がどう負担するかに帰着します。

う〜ん、消費税に最後は行き着きますね。