常駐発言再考

この話は続やっぱりそうなるかで一度扱ったのですが、皆様からコメントを頂き、コメントを返す過程で思いついた事です。「もう飽きた」と言われそうですし、「新ネタは無いのか」とお叱りを受けそうですが、蛇足の3回戦とします。これもしつこいですが、問題の議事録を再掲します。

枡田勇委員産婦人科がどうなるのか出産を控えた妊婦の不安は大変だ。契約ができなくても3カ月ほどいてくれるのか。通院している人たちにはちゃんと説明しているのか。
湯浅英男事務長 医師との契約交渉と同時にそのことも話をしており、契約ができない場合でも相当の期間はいてくれることを確信している。妊婦の状況によって2〜3カ月は心配しないよう医師から説明している
枡田委員医師から休みの要求があるのは当然のことで、市長の言う休日の買い上げは労基法で認められていない。
市長医師から休日の応援がいない場合にそれに見合う手当の要求があり、買い上げの表現は適切ではないと思う。
枡田委員休みのない労働環境をどう考えているのか。
湯浅事務長雇用形態は常勤ではなく常駐となっている。拘束は月、水、金の外来診察、入院回診、出産で、そのほかは自由時間。院内の部屋で待機しているが、リラックスできる時間もある。常勤の休日は当てはまらない。
市長緊急な状況でこの1年、1人で助産師とやってくれる覚悟で来てもらった。もし交渉が決裂しても3カ月ほどはいてくれると思う。議会の意見を踏まえて来週早々には医師と交渉したい。
三鬼孝之委員現状の報酬で更新できればよいと思うが、休日分を保証すれば5520万円に上乗せとなり、6千万円以上となってしまう。他の医師との感情も出てくる。1人の医師で年間の出産数は150人が限度とされ、この1年で152人と限度を超えている。苛酷な労働が続けば医療事故も懸念される。市長が示している4800万円はともかく、粘り強く更新できるよう交渉してもらいたい。
三鬼和昭委員昨年はいろんな状況から政治判断で5520万円となった。市長は今回4800万円を提示しているが、1人での厳しい労働条件でどの額が妥当なのかわからない。市長の交渉を見守りたい。
内山鉄芳委員産婦人科がなくなると妊婦にとって紀南病院や松阪に行くのは大変なことを考え、5520万円を認めた。全国的に産婦人科医師が不足し、年間150人の出産が限度とされることも考えると、5520万円が高いのか安いのかわからない。他の医師との感情問題もある。4800万円に下げても他の医師との確執は避けられないと思う。院長を含めて他の医師と話し合って納得してもらえれば4800万円でも5520万円でもよい。産婦人科がなくなると患者も減る。
市長内科を中心に医師はとにかく医療に努力してくれている。この1年、5520万円で院長に院内の医師を説得してもらった。それでも医師から「われわれは懸命に働いている。次の報酬は納得できるように」と何回か直訴を受けた。院内の感情も踏まえて慎重に検討して4800万円を提示した。
高村泰徳委員院長給与を最大限度に抑えた交渉をしてもらいたい。
津村衛委員市長はフェアではない。交渉中に金額を公表したのは自己防衛だ。妊婦は安心して医師の診察が受けられないし、不安を駆り立てた。
市長報酬額が注目されている。双方の考えをオープンにして議会や市民がどう考えるのか、決して公表したことはマイナスとは考えていない。
津村委員公表の結果、妊婦には不安を抱かせてしまった。4800万円や5520万円の報酬は10年も続かない。4800万円で1年だけでも続けてもらい、その間に三重大にも要望して存続に取り組んでもらいたい。
浜口文生委員市長が提示した4800万円には反対だ。議会でこんな議論をしなければいけないことは不愉快だ。1年前の交渉で議会に相談もなく5520万円を決めたことがボタンの掛け違いだ。他の医師も理解しているとの説明だった。産婦人科医師を除く現在18人の医師の平均給与はどの程度なのか。
湯浅事務長平均で年収約1500万円。
浜口委員提示の4800万円は3倍以上だ。他の医師がむくれるのも当たり前であり、市長のやることは後手後手だ。こんなことでは他の医師が三重大に帰ってしまう。もっと早く議会に基本的な考えを示すべきだった。6万3千人の署名は三重大や県に出したもので、市長への要望ではない。4800万円を出すこと自体が話にならない。


医師がいなければ総力を挙げて探せばよいのに、1年前にそれもしなかった。仮に3千万円で医師を公募すれば大学の助教授クラスが飛んでくるという話もある。風聞として産婦人科医師の開業時の話がいろいろ入ってくる。第一に他の医師が納得できる額が求められるのに話にならない高額だ。
市長6万3千人の署名は三重大や知事に出したものだが、病院開設者の市長の責任も当然のこと。1年前に私も医師確保に努力してきたし、病院のホームページでも募集したが、自治体病院で給与額は出せない。医師が見つからない状況で、手取額から計算して5520万円で来てくれることになった。産婦人科を残すために判断した。今回は手取額の条件も踏まえた中で4800万円の提示は市として最大限の額。
浜口委員それは市長の詭弁(きべん)であり、1億円でも出すはずだ。だから事前に議会に市長の基本的な考えを示すべきだった。自治体病院は給与額を公表できないというが、医師個人の給与は個人情報保護法に抵触するものの、個人情報でない公募額には問題はないはずだ。1年前に医師との間で報酬額を公表しない約束をして話を進めていた。4800万円はむちゃくちゃな額だ。
枡田委員4800万円に減額したが、その根拠を他の医師や市民にどう説明するのか。
市長医師側の希望には手取額があり、その額から逆算すれば4800万円になる。
枡田委員4800万円に休日分をプラスすれば実質は5千万円以上になるのか。
市長三重大からのアルバイト医師で時給7千円。産婦人科医師はそれ以上の時給を求めているので、アルバイト医師がいないと5千万円以上になる。
中垣克朗委員長紀南には新宮を含め産婦人科医師が9人もいる。紀北は1人だけだ。この問題をどうするのか考える必要がある。9月に出産を控えて松阪の病院へ行った人もいる。里帰り出産でも家族が心配している。尾鷲市だけの問題ではなく、国レベルで対応しなければならない問題だ。市長攻撃は誰でもできる。とにかく頑張ってもらいたい。
市長産婦人科医師不足は国の問題であり、厚労省などに対応を陳情した。現実には妊婦の不安があり、現在の医師は責任感が強いので契約ができなくとも数ヵ月は残ってくれると確信しているので安心してほしい。
三鬼和昭委員仮に別の医師が来ても三重大の応援は難しい。高額報酬でも市民が必要とするのなら更新できる交渉が必要だ。

前回さんざんツッコミを入れたので重複は出来るだけ避けます。前半最大の山場である契約は「常駐」発言ですが、この常駐契約自体は出席者はさして不思議な契約と思っていなかったと解釈できます。枡田勇委員の質問に対し、湯浅英男事務長が常駐契約と返答し、議論は続く三鬼孝之委員議員の発言に展開しています。三鬼孝之委員の発言を再掲しますが、

    現状の報酬で更新できればよいと思うが、休日分を保証すれば5520万円に上乗せとなり、6千万円以上となってしまう。他の医師との感情も出てくる。1人の医師で年間の出産数は150人が限度とされ、この1年で152人と限度を超えている。苛酷な労働が続けば医療事故も懸念される。市長が示している4800万円はともかく、粘り強く更新できるよう交渉してもらいたい。
三鬼孝之委員の発言の前提としては、産婦人科医師の契約を5500万円のままにし、そのうえ新たな要求である休日保証を受け入れた時の懸念を表しています。要点をピックアップすれば、
  1. 休日保証を認めれば新たに休日時間外手当が発生し、結果として産婦人科医師への支払い分が増える。
  2. 産婦人科医師への報酬が増えれば、他科の医師との軋轢が高まり、他科も市民病院から引き上げる危険性を危惧する。
  3. 産婦人科医師への報酬を回収したくても、増収のための分娩数増加は既に産婦人科医師の労働能力の限界を超え、その結果として医療事故でも発生すれば市の負担がまた増える。
b.とc.の発言は容認できます。b.についての見解はやや微妙ですが、産婦人科医引き上げでショックを受けている市としては、産婦人科医を優遇する余り、引き上げが他の診療科に波及することを懸念する発言が出るのは理解できる範囲です。c.についても非常に冷静な判断と正確な知識に基づいた発言かと思います。

しかしa.は相当興味深い発言です。産婦人科医の休日保証は、1年目の休日2日の労働が骨身に沁みた上での要求と私は考えます。仕事から完全に解放され、心身ともにリラックスして鋭気回復に努める時間の要求だと思います。当然と言ってよいはずですが、この要求にはその間の代替要員の配備も含まれていると考えます。ところがこの委員の見解は、当該日の名目が休日に変わるだけで、勤務内容は全く変わりが無いとの前提で発言されています。どっちみち働かすのだから、名目が休日に変わった分だけ支払いが増えることのみを懸念しています。つまり産婦人科医はどうせ働かすのだから、休日なんて認めるほうが損ではないかと受け取れます。

すこし三鬼孝之委員の発言に絡みましたが、実は医師の休日論議はこれで終わりなのです。後はまったく触れられていません。この市では一人の日本人との労働契約として「常駐」なる形態を無条件に認め、休日を取る事を認めない事を当然とし、さらに契約更新にあたり、要求された休日は、実質昨年どおり24時間拘束で働くことを当然としているのです。市議会で問題の焦点となったのは、公認の休日を認めることによる時間外手当発生への懸念のみです。休日は名目だけで昨年どおり24時間拘束で働かせることには、誰一人疑問を感じていません。

べつに医師でなくともそういう扱いは「酷い」と感じると思います。またそんな事が真剣に公式に論じられた場が日本であることも不思議です。こういう考えが市議会の常識となった背景はなんなんでしょうか。この市があるところは周知の通り、交通不便の僻地です。人口2万5千に満たない典型的な貧しい地方小都市です。こういう町に他所から来て住んだ事のある人間ならご存知かと思いますが、住民は閉鎖的です。滞在者には非常に好意的な面がある一方で、移住者には極めて排他的な側面があります。簡単に言えば10年住もうが、20年住もうが、死ぬまでよそ者扱いを受けると言うことです。

5500万と言う年間報酬も大都市部より遥かに巨額の印象があります。そこまでは調べていませんが、下手すると市内の高税納額者の筆頭かもしれませんし、少なくとも3本の指に入っていても不思議ではありません。この市で屈指の「お金持ち」と思われいてもなんの不思議もありません。さらに悪いことに市民の誰もが知っている公開された事実であると言うことです。私の故郷も、妻の故郷も似たり寄ったりのところですので容易に想像がつきます。

「お金持ち」と似た理由なんですが、医者と言うだけで相当な目で見られることも確かです。良い意味でも悪い意味でも別種の人間として取り扱われます。大都市部でもある程度ありますが、地方、それも僻地とされるところでは幾層倍も強い傾向があります。ある程度良い意味の別種の時もありますが、ほとんどは悪い意味での別種のことが多いと思います。

すこしまとめますと、この産婦人科医への処遇の基本は、

  1. よそ者である。
  2. 法外の報酬を支払ってやっている。
  3. 医者である。
この三条件がそろうと、もはや一人の人間として産婦人科医を見る必要性は無いと判断されるようです。ではどういう意識で産婦人科医を見ているかといえば、高額リースの医療ロボットとして考えているようです。そう考えれば議論は理解しやすくなります。

高額リースの医療ロボットであるなら、病院内に常駐は当然ですし、24時間365日拘束に疑問なんて抱きようはありません。年間2日の休日も、機器の定期点検日であると考えれば必要にして十分です。高額機器の独断契約で市長を攻撃するのもありでしょうし、契約更新にあたりリース代の割引き交渉が議題に載っても不思議ありません。例の委員のハイライト発言も「オレならもっと安い業者からリースで契約できるぞ」と理解すれば、ありふれた発言です。

この議会の唯一の誤算は、ただの医療ロボットであると信じ込んでいた産婦人科医が、実は意思も感情のある人間だったことでしょう。医者だって人間であると言う事を学習してくれれば、今回の騒動は市長や議員にとって良い勉強になったと思います。ただしかなり高い授業料だったような気が私にはしますが・・・。