北の大地の春の陣

2/28付のエントリー北の大地からのニュースの続報です。詳しくはエントリーを読み直して欲しいのですが、簡単には札幌市内でも産科減少のため産科救急が支えられなくなり、なんとか維持するための提案として、

 このため、同医会は二○○八年度に向け、市の夜間急病センターに夜間の初期救急を診る産婦人科医を置き、初期と二次を分離するよう市に要請した。遠藤会長は「センターで患者を振り分け、子宮外妊娠や早産などの重症患者だけを二次救急に送れば、医師の負担が大幅に軽減される」と説明する。しかし、市は新年度予算案に、二次救急医療機関への報酬の一千万円増額を盛り込んだものの、センターへの産婦人科医配置は見送ったため、医会として撤退を申し入れた。

これに対し札幌市の回答は、

市医療調整課の飯田晃課長は「夜間急病センターに産婦人科医を配置すると、約七千万円の予算が必要になる。財源が限られる中、住民合意を得られるだろうか」と説明。三月中に協議会を設置し、負担軽減に向けた代案を話し合う。

はっきり言って「No」の回答です。当時情報が錯綜したのですが、産婦人科医会は札幌市回答に対し3月での救急撤退を通告していたようなのですが、協議会を開催することにより救急撤退を6ヶ月延期し、9月までに合意が得られなければやはり撤退するとしています。

でもって問題の協議会なのですが、3/28に開催され第1回札幌産婦人科救急医療対策協議会として議事録が公開されています。第1回は主に顔合わせと資料説明だけに終始しているのですが、主なポイントを拾ってみます。まず委員構成です。

氏名 肩書き 備考
石垣靖子 北海道医療大学大学院教授 札幌市救急医療体制検証委員会委員
岩見太市 シーズネット北海道代表
中田ゆう子 COML札幌患者塾世話人
五十嵐保男 社団法人札幌市医師会救急医療部長
井上宏 札幌市行政評価委員
遠藤一行 札幌市産婦人科医会長 光星産婦人科医院
金子勇 北海道大学大学院文学研究科教授 社会システム学
河西紀夫 社団法人札幌市医師会副会長 札幌市救急医療体制検証委員会委員
郷久鉞二 札幌市産婦人科医会副会長 朋友会札幌産科婦人科
前田實 札幌市消防局警防部長 札幌市救急医療体制検証委員会委員
館石宗隆 札幌市保健福祉局健康衛生部長
野谷悦子 有限会社うつぐみ取締役社長
野村靖宏 札幌市産婦人科医会理事 札幌東豊病院
水上尚典 北海道大学大学院医学研究科教授 産科・生殖医学分野


こういうメンバーです。(この部分は今朝の情報で追加修正しましたので、コメ欄との整合性が取れていませんが御了承ください)

ここに産婦人科医会要望書が参考資料として掲載されています。新聞記事では救急センターを作る要望だけがありましたが原本を見ると、

  1. 第3次医療機関の絶対的確保


      NICU等への搬送が必要なケースでも満床で断られる事あり。これを避けるため収容可能な医療機関を責任持って確保。


  2. 救急当番日に搬送される妊産婦さんでは不払い例が問題。


      救急当番を依頼する以上、その医療機関に対し、応分の費用(分娩料)の補填。


  3. 産婦人科救急担当医療機関への助成金の増額。


  4. 1次救急を、別に独立させて札幌市の救急センター内の一室に設置(内診台、経腟超音波装置、顕微鏡など)し、産婦人科医が後退で勤務する体制を要望する。


      予算化されなければ、本会としては平成20年4月以降、1次救急にも2次救急にも参加が不可能である。
1.〜3.がH19.6.20の要望で、4.がH19.8.末の要望となっています。この要望書が提出されたのが札幌市救急医療体制検証委員会であり、6月に要望書が提出されてから1ヶ月余りの間にここまで要望が厳しくなった事に興味が湧きます。いずれにしても産科救急撤退の話は昨年8月末に出され、今年3月になっても札幌市がゼロサム交渉をやらかしている間に時間切れになったことが分かります。また昨年8月時点で要望が出されたという事は、平成20年度予算の計画段階で要望が出され、札幌市がこの要望を取り上げることは「不要」と判断したことも分かります。

会議はこの要望書について行われるのですが、これについての札幌市側の回答の説明が行なわれています。これは会議資料の要望書に基づく札幌市の対応に書かれているのですが、

  1. 第3次医療機関の絶対的確保


    • 市立病院等三次医療機関との具体的な受け入れ体制のルール化
    • 産科救急情報調整オペレーターの設置


  2. 救急当番日に搬送される妊産婦さんでは不払い例が問題。


    • かかりつけ医の奨励、妊婦検診の受診勧奨、救急体制の適正利用等の効果的啓発・指導


  3. 産婦人科救急担当医療機関への助成金の増額。


    • 救急患者の受入数に応じた当番報酬の増額
    • 勤務医に対する相応の報酬が届くような仕組みの整備(直接、間接)


  4. 1次救急を、別に独立させて札幌市の救急センター内の一室に設置(内診台、経腟超音波装置、顕微鏡など)し、産婦人科医が後退で勤務する体制を要望する。


    • 救急センターの内科医、看護師、救急隊等に対してトリアージ能力の向上を図るなど、患者の受け入れ要請の厳密化(当面)
    • 初期体制の定点化について、機能、場所、時間帯、当番医師の確保、経費等の観点から具体的に検討(対策協議会の設置、運営)
書いてあることも重要なんですが、これらについて予算が具体的にどうなってるかも重要です。
  1. 産科救急情報調整オペレーター:466万4000円
  2. 飛び込み分娩への効果的啓発・指導:103万6000円
まずこれが具体的に挙げられています。次がちょいと複雑なんですが、助成金の増額についての現状説明がこれかと思います。

 産科があくまでもメーンでございますが、関連・周辺の診療科目として小児科という部分もあろうかと思います。赤ちゃんも含めてということを考えまして、産科をメーンとして、一部小児科の医療機関を対象として、救急当番体制に参画していただいている医療機関に、現在お支払いしている報酬を増額しようというものでございます。現在は、曜日によって額の多寡がございますが、大体1回平均いたしますと9万円程度お支払いしておりますので、年間にいたしますと3,300万円弱ぐらいになろうかと思いますが、それに対してこの金額を上乗せして、医療機関の当番体制の継続を支援していきたいという趣旨の予算でございます。

どうやら現在は、

    1回9万円で年間総額3300万円
おそらくこれより増額する分が、
    救急医療体制整備支援事業:1240万円
これがそうであるとの説明は、

この部分は、先ほどごらんいただいた1回目の御要望書の中にあった不払い問題への補てん、もう一つ、当番報酬を増額してほしいという、この2点に対応することを意識して予算計上させていただいたものでございます

さらにですが、1240万円のもう少し具体的な分配は、

実は1,240万円という金額を御説明しましたが、このすべてを医療機関に増額として配分しようということではないのですが、さっき申し上げたように、どうすれば最も効果的かということを検討する協議組織のようなものを運営するために一部費用を残しまして、1,000万円ぐらいは、一部小児科を含めて、当番に参画していただいている医療機関に何とか配分をしたいと思っています。

1240万円のうち240万円はどこに増額分を振り分けるか考える協議会の運営費になるそうです。ここで参考までに医会側が主張した不払い金額ですが、

18年度、札幌市で払わなかった患者さんは26例に達していますね。1回の分娩料35万円から、病院によっては40万円、あるいはそれを超えるかもしれません。そうすると、約1,000万円近いお金が未収になってしまうのです

おおよそですが不払い分ぐらいは助成金を増額してやろうの対策と考えられます。それ以上の産科救急担当することによる赤字分は補填しないとも考えられます。これも医会側の主張である、

救急医療というのはすべて赤字部門なのですね。これを開くと、病院は必ず損をするというような仕組みになっているのですね。幾らかのお金は出ますけれども、人件費、暖房費、光熱費、いろいろなことを考えますと、完全にマイナスになるのですね。それを、一応公的な救急医療なので、皆さん、市民のためにそれはぜひやってくださいと言われ、そして、それは赤字でも仕方がないというのは、今の時代、認められないと思うのですね。やはりそれ相当のお金を手当てすべきでないか

これは却下されている事になります。

皆様が一番気になる一次救急の分離なんですが、第1回では腹の探り合いで終わっています。札幌市側の主張は消防署の救急データにある必要数が少ないから不要であると主張し、医会側は救急データに収集されていない救急患者数があり負担軽減と言うか、産科救急体制維持のため必要みたいな話の展開になっています。

この展開も考えてみれば不思議で、去年の8月からの産科一次救急分離要望を札幌市救急医療体制検証委員会で札幌市が蹴飛ばし、宣言通り3月で撤退するとなれば協議会を新たに設けて6ヶ月猶予をすがり、またぞろ協議会で不要論を主張すると。外野から見れば今度の協議会は一次救急分離を行なうか行なわないかでなく、どうやって行なうかと思うのですが、去年のゼロサム交渉の延長戦がしたいようです。

ゼロサム交渉の意図は会議の終わりの方の事務局発言にも滲み出ています。

 まず、第1回が本日ということで、3月28日でございますが、次第に沿って御説明を差し上げたところでございます。以降、今のところの予定では、大体月1回のペースで進めたいと考えております。そして、一つのめどといたしましては、ことしの8月くらいまでに、中間報告ということで取りまとめしていただきたいと考えております。ここの部分につきましては、産科医会からも御要望ありましたとおり、まず初期の体制について具体的な対策が十分講じられなければ、4月以降については継続が難しいというお話もいただいてございますので、ここまでに具体的な対策についてぜひ御検討いただいて、結論を見出していただければと考えているところでございます。

 ただ、8月の中間報告の前までに、もう少し前の段階で、大体3回、4回くらいでしょうか、6月までの中で具体的な課題の整理をいたしまして、それで、次回のあたりからは、先ほども少しお話もありましたけれども、できれば具体的にどういう対策をとればいいのかということも御提案いただきながら、その出てきた対策等について、3回、4回の中で御協議いただきまして、7月くらいまでには、その中からどの対策のどういう組み合わせが一番効果的なのかということについて、おおむねの方向性を出していただければと考えております。その段階で、皆さんの合意として大体方向を出していただければ、その部分につきましては8月の中間報告ということで、札幌市に御報告いただくような手順で考えていきたいと思っております。

月1回のペースで協議会を開催し、3〜4回やったところで中間報告。これがおおよそ8月頃で札幌市に報告みたいな段取りを説明しています。これに対して医会側の反論は、

 我々が8月に申し上げた申入書の期限は3月31日なのですね。それで、4月からやらないというふうにお答えして、申し入れしてあるわけですね。本来は、来月からやらないのですよ。でも、札幌市のほうでは何とか対策を考えますとおっしゃっていただいたので、そこで、我々としましてはいろいろなことを考えて、それなら半年だけ延ばしましょうというふうに決めて、一応9月いっぱいというふうにさせていただいたのです。

 それで、こういう救急医療というのは、例えば8月に決めて、それでは、9月からすぐできるかといったら、そういうことはできません。ですから、少なくとも10月からスタートするなら3カ月前、そのくらい前から各医療機関に周知徹底しないと、当番票というか、夜勤票というか、そういう出勤体制をとれないですから、それを考慮していただくと、このゆっくりしたペースでは全然、我々は10月以降はできないということになりますので、それは十分お含みおきいただきたいと思います。このままでは、10月以降、できませんね。

医会側は昨年の8月段階で今年3月のデッドラインを宣告し、札幌市側が泣きついたから半年延期して9月をデッドラインにしている事の指摘をはっきり行なっています。さらに事務局サイドの8月に中間報告では10月に新体制が行えないとも指摘しています。10月に新体制を発足させ、産科救急撤退を真剣に回避するのであれば3ヶ月前には中間報告を出す必要があり、

    このゆっくりしたペースでは全然、我々は10月以降はできないということになりますので、それは十分お含みおきいただきたいと思います。このままでは、10月以降、できませんね。
どうもになりますが、札幌市サイドの意向としては3月のデッドラインを協議会開催でなんとか逃げたので、今度は協議会で小田原評定させてさらなる時間稼ぎを考えているように見えます。8月にもしも産科救急一次分離論が中間報告で認められても「予算措置が間に合わない」との言い訳を繰り出し、更なる延長協議にもつれこむ算段に思えます。

第2回以降の会議がどうなったかはまだ公開されていませんが、札幌市の思惑で会議が運営されたなら、間違い無く産科救急撤退問題「秋の陣」がありそうです。