規制改革・民間開放推進会議の答申

7/29付YOMIURI ONLINEより抜粋、

政府の規制改革・民間開放推進会議(議長・宮内義彦オリックス会長)の中間答申案の全容が28日、明らかになった。
一層の少子高齢化に備えるため、外国人労働者の受け入れ拡大を求め、新たな分野として、社会福祉士介護福祉士を明記した。

外国人労働者の受け入れ問題は一筋縄では考えられないものです。「外国人を差別するのか」と正面切って詰問されたら、「そうではない」とその場では答えるでしょう。しかし大量に流入してくる事になれば、それによる社会変化に日本が対応できるかどうかに自信がありません。労働者を大量に受け入れた先例である、イギリスやフランス、ドイツの状況を聞くと、日本人がもっと上手にこなせると胸を張って答えられる人間はどれほどいるのでしょうか。

医療で重要なものの一つにコミュニケーションがあります。患者と医療者の意思疎通と言い換えても良いと思います。これが非常に難しいものです。日本人が日本人として共通の文化背景を持ち、native speakerとしてなんの不自由も無く日本語を駆使できても難しいものです。それをカタコトの日本語と異なる文化背景で可能かどうかに不安を禁じ得ません。

そもそもこの答申は根本のところでややおかしいと感じます。記事なので記者が適当に省略しているのでしょうが、社会福祉士介護福祉士が足りないのなら増員したらどうなんでしょうか。この二つの職種が超不人気職種であり、誰もなり手がないのならともかく、私の知っている範囲ではそれなりに人気がある職種だったと記憶しています。外国人労働者を受け入れなければ足りないほど、なり手が足りないのでしょうか。

それと小児科医として一番腹立たしいのは、少子高齢化を既定事項のように考えている姿勢です。高齢者人口がこれから急増するのは統計上の必然です。しかし少子化の進行を抑制するのはこれからの重要課題であるはずです。お飾りの批評はありますが、形だけであっても少子化担当大臣を置き、少子化の抑制に政府を挙げて勤めるはずであるのに、この答申案ではそんな事は実を結ばないの前提で物事を考えています。

この会議の議長やそれに巣食う委員の本音は今や隠すどころか、堂々と開陳しているのが現状です。彼らの医療への狙いは最早明らか過ぎるほどです。米国型の混合医療を日本で実現させ、医療本体は株式会社にして利益至上主義とし、保険もまた公的保険を可能な限り縮小させて、民間保険が無ければまともな医療を受け入れられないようにする事です。そうなる事の利権は10兆円から20兆円以上になるため推進には異常なぐらい熱心です。

そういう彼らが運営する病院で大きなネックになるのは医療者の人件費です。日本人なんて莫迦らしくて雇えないと言う事です。そこで大量の外国人労働者流入させれば、劇的に人件費が安くなります。社会福祉士介護福祉士は出丸で、本丸は言うまでも無く医者、看護師です。そこを安価な外国人労働者に置き換える事で莫大な利益を参上できると計算している事でしょう。

彼らの本丸は医療だけのものではありません。医療で外国人労働者の大量流入が可能となれば、他の産業分野にドカドカと外国人労働者を大量に使いたい本音をあからさまに公表しています。国内製造業は人件費の増大により国際競争力を失いつつあり、これを挽回するには安価な外国人労働者の大量採用が不可欠と信じて疑いません。

諮問会議のメンバーの企業はきっと潤う事でしょう。笑いが止まらないぐらいの利益をその懐に入れてニンマリするのは間違いありません。ただし笑うのは彼らだけです。まず大量の外国人労働者の存在が治安を悪化させるのは不可避の事です。「そんな事は無い」との論者にいくら力説されても私は絶対に信じません。治安悪化の問題は西欧諸国が直面し、種々の対策を採ったにもかかわらず、どこも成功したところはありません。未だに「これだ」という効果的な対策は見つかっていないのです。

また一旦外国人労働者が解禁となれば、必要量以上の人数が流入してくるのも先例が明らかにしています。さらに一旦流入すれば、不要になったから返還すると言う事を掌を返したようにできない事もまた事実です。大量のトルコ人労働者の流入を受け入れたドイツがこの対策に巨額の予算をかけているのも有名な話です。

諮問会議のメンバーは外国人労働者大量流入の恩恵だけを受けるでしょうが、政府を始めその他の国民は負の面ばかりをかぶる事になります。もっともそうなっても諮問会議のメンバーは、負の面への対策に自分の懐から決められた税額以上の支出はするはずもありません。またぞろ消費税だとかなんだかとかで、その他国民からの税金でこの対策を行なうことになります。

今となってしみじみ思うのですが、小泉改革の原動力の一つである諮問会議とは一体なんだったのでしょうか。改革なるものを行なえば、必ず利益を得るものと不利益を蒙るものが発生します。全員が公平に利益を分配される事はありえないのです。常識的に考えて、改革案の検討とは利益享受派と、不利益損害派の利害調整の場となるはずです。ところが不利益損害派の人間は「抵抗勢力」として悉く排除されました。

表向きの理由は抵抗勢力がいれば改革案が骨抜きにされるのを防ぐための大義名分が掲げられています。立派な大義名分ではありますが、抵抗勢力を排除した後、集められたメンバーは悉く利益享受派であるという構図にそら怖ろしいものを感じざるを得ません。彼らは間違っても中立派ではありません。彼らはそれぞれ巨大企業の代表者であり、彼らの唯一にして無二の目的は自らの企業の利益を図ることです。

彼らが「規制緩和」の甘い言葉の下に繰り広げた政策は、ひたすら自企業が儲かるためのものばかりです。そんな事が小泉政権の間、ごく当たり前のように濶歩しているのです。生まれた結果は政権に密着した少数の勝ち組と、そんなところには発言すら出来ない大多数の負け組です。天下を握った勝ち組はさらに自己の利益のみを拡大させる政策を、我が物顔に推し進めています。

有効な抵抗勢力すらない医療なんて惨めなものです。良いように食い荒らされて、彼らが甘い汁を吸い取れるような状態に遠慮会釈無く追い込まれています。マスコミと言う大プロパガンダを膝下に抑えている彼らは、医者に物さえ言わせないように封じ込めさせています。世論の関心を引くような正論が少しでも出始めたら、それを打ち消すに余りあるほどの医者の不正事件をこれでもかと言うほど連発させます。一見まともそうな記事を載せても、そこには濃厚な恣意を込めた歪曲が織り込まれています。

一つだけ希望があるとすれば旧来とは違い、情報伝達の手段としてネットが急速に発達している事です。ここには大マスコミや政府とは言え容易に介入できません。介入したくて仕方が無いようですが、ネット世界はあまりに広大で手のつけようが無いというところです。それに彼らは未だにネットの力をそんなに評価していません。しかしネットの力はここ数年でも急速に伸びています。

私は伸びゆくネットの影響力と、旧来のマスコミプロパガンダの影響力の分水嶺がもうすぐ来ると考えています。ただし残念ながら今ではありません。少なくとも後数年は必要でしょう。そこまでの間に勝ち組の一極支配が完成してしまうか、はたまたそこまで持ちこたえて情勢を覆せるかが日本のこの先に大きな影響があると見ます。もちろん医療もです。

自分の構想に少しばかり酔う気分ですが現実は厳しいですね。なんと言ってもやっている事はささやか過ぎますからね。