たった50万!

7/28付Asahi.comより抜粋、

資力の乏しい容疑者に国が弁護人をつける「国選弁護」制度で、法務省は「資力」の基準額を50万円にする方針を固めた。現金や預貯金の合計が50万円以上になる場合、国選ではなく、まずは私選弁護人を弁護士会に選任してもらうよう申し出ることが本人に義務づけられる。関係者からは「基準額が低く、制度からこぼれ落ちる人が多くなる」と懸念する声もあがっている。

ちなみにこれまでは、

    本人が「貧困その他」にあたると申告すれば、保有資産などを問われずに、ほぼそのまま国選弁護を受けられた。
そうです。つまり申請すればほぼフリーで国選弁護士が付いてくれたわけです。それに対し「資産のあるものは私選弁護人を依頼すべきだ」の声(誰の声だ!)があがり、ある一定の資産があるものには私選弁護人を選ぶ事を強制させるそうです。

これまでも資産のある者は私選で腕の良い弁護士を雇っていました。やはり国選弁護士では十分に自分の権利主張を守ってくれないと思うからでしょうし、国選でも良い弁護士に当たるかもしれませんが、外れる率が私選より遥かに高そうと感じていたからです。ただし弁護料は決して安くありません。そんなに詳しいわけではありませんが、事件の性質によってはすぐに数百万なんて事もあるそうです。全部が全部数百万ではないでしょうが、少なくとも訴訟全部で10万程度なんてことはないのは確実です。

そんなこんなを考えながらも、ある一定の資産があれば原則私選にするのも筋は通らない話ではないと思うのですが、その「ある一定の資産」の基準が怖ろしく低いと感じるのは私だけでしょうか。たったの50万です。最初私は500万の誤植かと思ったぐらいです。不動産や貴金属を除くそうですが、預貯金で50万あれば私選にすべしとのことです。

そうなると先ほど「高いそうだ」と書いた弁護料が気になります。50万で弁護なんて可能なのでしょうか。法務省が50万で私選可能とした根拠を書いてあります。

  1. 平均世帯の1カ月の必要生計費は約25万円
  2. 刑事事件を受任した私選弁護人の平均着手金は約25万円
弁護料の詳細は本当に良く知りませんが、着手金だけで後は追加料金は不要なのでしょうか。着手金25万だけで、結審まですべてやってくれるのでしょうか。また種々のケースはあるでしょうが、刑事事件で起訴されたら、ほとんどの人は職を失います。本人だけではなく家族や下手すると近い親族まで巻き添えを食う事さえ珍しくありません。とくにマスコミが嗅ぎつけて、マスコミが「有罪」と断定したら、社会的制裁と称する猛烈な言論のリンチが降り注ぎます。裁判中は収入がゼロに等しくなるケースが多いと考えます。

収入がゼロに近くなっているのに、預金50万円で、25万の着手金を支払い、25万円の1ヶ月の生活費を払えば、翌月はどうするのでしょう。1ヶ月で裁判が結審すると言うのでしょうか。1審だけで終われば良いですが、控訴して2審に進む場合もあるでしょう。2審に進んでも着手金25万で全部カバーしてくれるのでしょうか。

おそらく資産が無くなればその時点で国選に切り替わると言う趣旨なんでしょうが、手持ちの資産を食い潰した後で無いと国選は認めないと解釈すればよいようです。ある一定の資産があれば私選にする原則は理解できなくもありませんが、ある一定のラインが低すぎると思うのは私だけでしょうか。

それとこの短い記事では記載されていませんでしたが、預金を含む現金資産の計算方法も気になります。例えば住宅ローンを抱えていたらどうなるのでしょうか。これは負債として預貯金と相殺してくれるのでしょうか。クルマのローンだってそうです。世の中の人はローンを抱えていても幾らかは手持ちの現金を持ってます。ローンを抱えながら手持ち資産50万にどれほどの富裕性があるのか良く分かりません。

格差社会の富裕層には痛くも痒くもないどころか、無縁の世界の国選制限ですが、格差社会の多数派である貧困層には頗る重い負担です。医療も大手を振って「命の沙汰も金次第」に進ませられつつあります。司法もまた同じく「命の沙汰も金次第」に驀進するようです。凄い世の中に急速に変質している事が肌身に感じます。

それにしても漠然と書いてある「資産のあるものは私選弁護人を依頼すべきだ」は誰が言ったのでしょうね。「声」と言えばまるで世論がそう言っているようにも受け取れますが、寡聞にして私は知りません。きっと名前を推察させる事さえ書けないぐらい畏れ多い人の声なんでしょうね。少なくとも多数派の貧困層ではなく、少数派の富裕層の勿体ない御意見であろうぐらいは推測できますが、どうなんでしょうか。