「ついてなかった」ような気も

MSNニュースから、

小泉純一郎首相は6日夜、首相公邸で自民党執行部メンバーらと会食し、北朝鮮弾道ミサイルを発射したことに関連し「(自分は)ついている。プレスリーの所に行っている時にテポドンが撃たれたら格好が悪かった」と語った。出席者が「首相はついてますね」と問いかけたのに応じた。

 小泉首相は日米首脳会談で訪米中の先月30日、故エルビス・プレスリーの旧宅「グレースランド」をブッシュ大統領の案内で見学。プレスリーをまねた派手なポーズを披露し、「夢がかなった」などと喜んだ。

首相のコメントの意は、プレスリー邸でのお楽しみを邪魔されなくて良かったと素直に読み取れます。私のような一般人がもしアメリカに旅行に行っていたら、当然「ついていた」と感想を漏らします。今回はそれほどでもなかったかもしれませんが、前のNY自爆テロなんかのあおりを受けたら、日本に帰るのさえ大変だったでしょうからです。今回のミサイル発射も、もしテポドンがまともに飛んでいたら、全米が警戒態勢になっただろうからです。

首相も退陣を決め、盟友ブッシュ大統領との最後の気軽な外遊が邪魔されなくて良かったと思っているのでしょう。しかしいくら退陣を決めているとは言え、小泉首相は現役の日本の最高責任者です。北朝鮮のミサイル発射の意図は様々に分析されていますが、誰の眼にも明らかな事はアメリカと日本に対するメッセージである事です。メッセージが穏やか過ぎる表現なら脅しと言えます。

これに対する対応はおそらく政府部内で必死で検討中でしょうが、最終的にはアメリカ追随以外の選択枝はありません。そのアメリカの最高責任者であるブッシュ大統領と、事件直後にさしで直接話し合う機会を逃したのは「ついている」と言えるでしょうか。むしろ「ついていなかった」様な気がします。もちろんそうなれば小泉首相が楽しみにしていたプレスリー邸での会食は無くなったか、あっても地味な物になったかもしれませんが、世界の重大事件の真最中に解決の方向性の鍵を握る最重要人物との会談が出来なかったことの方が惜しまれてなりません。

そういう政治パフォーマンスの機会を失った事を惜しいと小泉首相は感じなくなったようです。そういえば記者会見の回数も「もうすぐやめるから」で減らすと宣言し物議を醸しています。9月に辞める決意が間違いない事はわかりましたが、それでも辞めて次期首相に引き継ぐまでは掛け値なしの内閣総理大臣です。首相が辞めると宣言したからと言って、世界の事態は待ってくれません。待ってくれないというより、そういう政治的空白が生じる時期に相手は動きます。そんな事は国際政治の常識です。

もっともブッシュ大統領との会談直前や会見中にミサイル発射があり、なんの準備もなく会談に突入する事を回避できたのを「ついている」と表現した可能性はあります。首相の外交音痴にも定評がありますし、ブッシュ大統領の外交センスも相当偏りがありますから、二人が事前の十分な準備もないままに会談し、トンデモない合意でもしたら後の収拾が大変だと言う考え方もあります。

それをもって「ついている」との表現であるなら何をか言わんやです。東アジア情勢はしばらく緊迫する事だけは間違いありません。何がどう転んで予想外の事態に進展する可能性があるか分かったものではありません。逃げたくても日本はイヤでも当事者にならざるを得ない立場に位置しています。最悪の時には、首相が文字通り国の命運を一人で即断しなければならない状態が来る可能性さえあります。現時点では「そんな事態は絶対に来ない」と言い切れる人間は少ないと思います。

プレスリー邸での楽しい会談が邪魔されなかったのが「ついている」のか、突然の緊急事態にさしで会談することが回避できたのが「ついている」のか、はたまたその両方なのかは憶測に過ぎませんが、私には千載一遇の機会を逃して「ついてなかった」様に思えてなりません。