素人の経済学

消費税引き上げが確実になっている政治情勢を見ながら少し考えた事です。

歳入を増やすには税収を増やす事です。その他雑収入や国債発行もありますが、ここでは単純に税収を増やす事と考えます。税収を増やすには二つの方法が在ると考えます。すなわち

  • 税率を増やす(増税する)
  • 課税対象額が増える(景気が良くなる)
えらく単純に分けましたので玄人の方からツッコミが入りそうですが、簡単にはこの2つかなと考えます。このうちどちらを優先すべきかは、景気が良くなるの方の気がします。税を単純に理解すれば、収入に対して一定の割合を徴収するものですから、元の収入が大きくなれば税収は増えます。景気がよくなれば懐具合がよくなりますから、税収は自然に増えるということです。景気が良くなって懐具合の良い時には、税金が取られても痛いなりに十分我慢できます。税金を取られても手許に残る金はそれなりにあり、なおかつ給与アップも期待できるからです。増税も景気の良い時には我慢しやすいものです。痛いのは痛いでしょうし、「せっかく増えた給料なのに、これだけ税金で取られたら、残った分はこれだけだ」のボヤキも出るでしょうが、それでも手許に残る分は増えますからまだ我慢できます。

非常に安直な結論ですが、景気が良ければ自然に税収は増え、そのうえ増税も可能となります。国家財政もこれなら安泰です。それぐらい景気は重要なものだと思います。重要である事は私が言うまでも無く周知の事で、大げさに言えば政治とは景気対策に費やされているとも言えるような気がします。他にも重要な事は政治にありますが、財政が確立していないと何も出来ないと考えるからです。

一方で景気は長年にわたり幾多の経済学者が研究分析を続けているにもかかわらず、未だにそれを確実にコントロールする方法は編み出されていません。現在ですら、なぜ好景気になったか、なぜ不景気になったかを後から分析する事は可能ですが、今の不景気を脱却するための間違いない処方せんを持つ者はいないと思います。それぐらい景気とは扱いがたい代物といえます。

国家の経済運営の基本は、景気の悪い時には財政出動を行なって、人為的に景気を下支えするというケインズ理論が今のところ下敷きになっているような気がします。ケインズ理論は経済理論のうちでも比較的有効だったものの一つで、現在でもある程度通用します。ようするに景気が悪ければ借金をしてでも人為的に景気を盛り上げ、その借金は景気が回復すれば税収回復で補うと理解しても良いと思います。

つまり景気さえよくなれば国家財政はすべて良い方に転んでいくというものです。経済運営でもっとも重視すべきなのは景気であり、景気を下げるような施策は極力避けなければならないのが鉄則と考えます。ここで増税というものをもう一度考えます。先ほど景気の良い時には増税も可能と書きました。では景気の悪い時に増税すればどうなるでしょう。

景気の悪い時には課税される国民の収入も減っています。収入が減っているところに税金が増えればますます収入が減ります。収入が減れば生活を縮小せざるを得なくなります。生活を縮小されれば物を買わなくなります。誰もがものを買わなくなれば景気が冷え込み不景気がより悪化します。不景気が深刻化すれば収入はますます減り、今度は税収のための課税対象額がやせ細ります。増税により税収が増える分と不景気により課税対象額が減って税収が減る分のバランスは重要です。

現在は経済指標では景気は回復していると喧伝されています。統計上はいざなぎ景気を超えたとか言われています。しかし多数の人間の実感として、一時の大不況は脱したかもしれませんが、好景気であると言われても違和感しか残りません。正直なところ「どこの世界の話だ」と言いたい人が多いと思います。この辺のギャップは平均値を用いるからだと説明する人がいます。

平均値はその分布が適正であれば実態をよく表します。逆に分布に偏りがあれば、実態とはかけ離れたものとなります。たとえばある業界が10社あり、1社が1億5000万円の黒字であり、残り9社が5000万円の赤字でも、平均なら1社1000万円の黒字です。ところが実際は業界の9割が赤字で苦しんでおり、業界全体が1億円の黒字で大盛況と評されても違和感しか残りません。

現在の日本の経済状況がそんな感じであるとの指摘が散見されます。ごく一部の「勝ち組」企業が大きな収益を上げ全体の平均を押し上げていますが、「勝ち組」になれなかったところは相も変わらず不況でもがき苦しんでいるという構図です。新自由主義政策は勝ち組を大いに勝たせ、マクロの経済指標を改善させています。ただし改善されたのはマクロであって、詳細を見ると恩恵を受けた人数はごく少数派で、大多数の人は平成不況の暗い雲の下にいると取れます。

それでもこのまま景気回復が続けば、それらに人々にも回復の恩恵は遅れて広がっていくとの見方があります。これまでの日本の不況ではそうでした。ただし今回は様相が違うような気がします。今回の景気回復の手法は新自由主義です。景気刺激の効果は強いですが、副作用として弱肉強食が伴います。弱肉強食の副作用は強いものがますます強くなり、弱いものはますます弱体化する性質を持っています。この経済政策の下では弱いところは浮かばれる可能性が非常に低いという事です。

勝ち組として我が世の春を謳歌できる比率は5%程度とする計算があります。この辺は幅もあるでしょうが、それでも9割近くが負け組に甘んじる可能性があると言うことです。ここで間違い無く言えるのは9割もが勝ち組なる可能性は皆無であるという事です。今度の景気回復で恩恵にあずかる事の出来る人間は、少なく見積もったら5%、多く見積もっても2割が限度だと考えます。実際は1割前後かなと思います。それ以外の人間は負け組です。いつ晴れるかわからない不況の空の下で暮らす事になります。これは新自由主義の必然の結果です。

長い寄り道でしたが、政府は統計上の好景気を拠り所に増税を企画しています。それも消費税という形式でです。消費税の逆進性は説明不要と思いますが、逆進性で恩恵をさらに受けるのは勝ち組、さらに負担が圧し掛かるのは負け組です。増税での景気へのデメリットは上に述べたとおりです。そのデメリットを計算しても税収確保が確実であるとの見解であるのなら、負け組の増税による生活縮小の影響は景気を左右するほどの影響力は無いと判断したことになります。つまり勝ち組さえ大事にしていれば、負け組がいかに生活で苦しもうが、日本の景気には影響は微々たる物だと考えているのと同じ意味と解釈できます。

実感と実態が乖離している事は社会ではよくあります。実感が実態に追いついたときもう取り返しのつかない状態になっていることも多々あります。日本の格差社会の実態が実はもうそこまで進行しているんじゃないかと恐怖しています。出来得ればこれが考えすぎでありますように。