乳幼児手当見送り

5/22付の毎日新聞記事より

小泉純一郎首相が18日の経済財政諮問会議で、少子化対策の一環として政府・自民党が検討している乳幼児手当(3歳未満)の新設について「新しい制度を作るより、今ある児童手当を充実させればいい」と否定的な発言をしていたことが、21日分かった。政府内には従来「乳幼児手当を作っても抜本対策にならない」との見方があり、首相が追認したことで乳幼児手当新設は見送られる見通しとなった。

 乳幼児手当は児童手当に上乗せされるもので、政府の「少子化社会対策推進会議」の専門委員会(主宰・猪口邦子少子化担当相)が少子化対策の目玉の一つとして検討。効果を疑問視する委員がいたため、15日の報告書では直接の言及を避けたが、猪口氏が18日の諮問会議に提出した「新たな少子化対策について」とする文書で、親への支援策の柱として明記した。

 首相はこれを否定し、現行制度の拡充に言及した。ただ、政府関係者によると「抜本的な対策の必要性を指摘したもので、児童手当を拡充すべきだというニュアンスではない」という。児童手当は、今年度から支給対象を0歳〜小学6年に拡大(以前は0歳〜小学3年)し、親の所得制限も緩和した。公明党は「少子社会トータルプラン」に一層の拡充を盛り込んでいる。

 少子化対策をめぐり、諮問会議の民間メンバーは抜本対策として社会保障予算の配分見直しを提唱している。首相は18日の諮問会議で、少子化対策の財源として雇用保険3事業予算の一部を転用する厚生労働省案も否定、同省は検討を断念している。

そなまま読めば誰でもわかる文章ですが少し蛇足をします。乳幼児手当については「少子化社会対策推進会議」では直接の言及を避けていましたが、猪口大臣が「新たな少子化対策について」と銘打った文書で明記して経済諮問会議に提出しています。ところが首相は「新しい制度を作るより、今ある児童手当を充実させればいい」と否定し、首相の児童手当拡充発言もまた、「抜本的な対策の必要性を指摘したもので、児童手当を拡充すべきだというニュアンスではない」と政府関係者が否定しているそうですから、「却下」と読めばよいと考えます。

確かに少子化対策で、この手の育児手当的なものが効果があったとの先例はありません。効果があるとの証拠が無ければ、厳しき財政難の折、「却下」も致し方なしと一見妥当な決断に見えます。しかし良く考えてみれば、少子化対策はいくつかの国で行なわれていますが、限定的な方法で非常に有効な対策はなかったかと記憶しています。つまり少子化の原因はこれだから、その原因解消のためにかくかくの施策を行なえば問題解消なんて単純な問題では無いということです。

少子化対策にある程度成功したフランスは非常に厚い手当を支給しています。ところが同じように厚い手当を支給しているドイツははかばかしい成果を上げていません。フランスとドイツの差はいろいろありますが、ドイツの不成功例のみを重視して考えればこの手の手当の有効性には疑問がつきます。しかしフランスの成功例が手当の支給無しで可能だったのかと言われれば、これも大きな疑問符がつきます。

私は厚い手当の支給は少子化対策の必要条件であると考えます。しかし十分条件では無いということです。つまり厚い手当の支給だけでは少子化対策に効果は必ずしも期待できないが、厚い手当の支給無しでは少子化対策は始まらないような位置づけではないかという事です。厚い手当を支給した上で、さらに各種の施策を充実して初めて効果のある対策になりうると言う事です。

少子化対策は治療の確立していない難病に似ていると思います。まず原因が良く分からないですし、放置すれば確実に病気は進行します。また治療に成功しているところもありますが、その治療法を分析しても鍵になる治療法を見つけ出せない。また同じような治療を施しても必ずしも成功しない事もあると。

そういう時に医者が治療法の選択を迫られた時どうするか。成功した治療例の治療方法を、自分で出来るものは可能な限り行ってみます。それでも治療が思わしく進まない時は、自分では出来ない治療が出来るところに治療を依頼します。簡単に言えば「効果がありそう」と言われる治療法を根こそぎ行ってみると言う事です。

治療法には原因に対する一点突破で可能なものはあります。たとえばインフルエンザに対するタミフル投与みたいなものです。ところがもう一方で多種多様な治療法を組み合わせて初めて成果が得られるものがあります。ガン治療なんかがそれに近いかと思います。ガン治療では抗がん剤だけ、手術だけ、放射線療法だけで治るものは少数派です。それだけで治る事もありますが、症状の進行によりそれらを複合的に組み合わせて治療効果を上げます。少子化対策もそれに近いような印象を抱いています。

乳幼児手当はそれだけでは少子化対策の決定打にならないでしょうが、それ抜きの対策では効果は期待しにくいように思えてなりません。最初の一歩から遅々として始まらない少子化対策の熱心さに驚かされます。この調子では他の少子化対策も「他国で有効であった証拠が無い」との論拠で次々と却下されていきそうです。そもそも決定打になる対策なんてどこにもないのですから、却下するだけなら幾らでも理屈を並べられると言う事です。

少子化対策も実際に目に見えるほど人口が減り、年金を始めとする社会保障が目の前で崩壊し、人を雇うにもどう逆さに振っても払底した状態にならない限り、誰も真剣に考えないと言う事のようです。考えてみれば現在の政府の要人、政治に多大な影響力を持つ財界人たちの誰一人、自分の生きている間に少子化問題で困る人間はいないのですから、これもしかたが無いということでしょうか。少子化問題も焼野原にならないと誰も身近な問題として考えないと言う事です。まあ労働人口で言えば、外国人労働者を受け入れればそれで解消であるとの本音も彼らにはあるようですから、少子化が進行し焼野原になる事さえ「想定内で望ましい」と舌を出している気もしています。