おもいで話

2日続けて鬼門の法律論をやらせて頂いて神経をかなり使いましたので、少し肩の力が抜く事の出来る話題にします。3/11付琉球新報より、

八重山病院、手当底突く 医師数人、当直・時間外を拒否

 県立八重山病院(伊江朝次院長)が資金不足のため、3月の職員の時間外勤務手当が支払えない状態になっていることが10日、分かった。医師の当直手当は時間外勤務手当で支給されているため、数人の医師が当直を含めた時間外勤務を拒否しており、最悪の場合は診療体制に支障が出ることもある。

 伊江院長は「支払わないということではなく、今、手持ちの現金がないので、病院事業局と調整して何とか資金確保をしている」としている。県の知念清病院事業局長は「なぜこのような状況になったのか具体的な話を聞き、正当な理由があれば、当然出すべきだ」と話している。

 県立病院を運営する県病院事業局は資金不足で一時借入金に頼る運営が続いている。昨年度までは毎年、10月からの時間外勤務手当の支払いを繰り延べして借金返済の財源とし、年度が変わると新たに一時借入金を借り、時間外勤務手当を支払っていた。

 本年度は抜本的な経営改善のため、一時借入金に頼る運営をやめようと時間外勤務手当については原則、当初予算の範囲内で執行するよう、各病院に求めている。八重山病院には本年度約1億5千万円が措置されている。

 伊江院長は「入院患者が増えたため、時間外勤務が増えている。またこれまで不在だった脳神経外科医が着任したことや法定福利費の増加が人件費を押し上げている」と理由を説明した。「患者が来れば対応する。知事部局とは違い、予算にあった事業をすればいいというものではない」と当初予算内での措置には限界があるとの見方を示し「手当を含め、地方公営企業に合った給与制度に見直す必要がある」と話している。

どこが肩の力が抜く事の出来る話題なんだと言われそうですが、一通りの批判は既に他のブログで出尽くしているので、思いで話を中心にしたいと思います。

私も県立病院勤務の勤務の経験があるのですが、勤務当時に聞いた職員の時間外勤務の支給割合は、看護婦が9割、検査技師が5割、医師が2割5分とされていました。その話が本当に正しかったかどうかは、当時の私は研修医で、なおかつ当時の研修医の身分は日勤月給の日々雇用でしたから、時間外手当なんてものには縁がなかったので不明です。もちろん今はどうなっているかなんてもっと不明です。

そんな職員の時間外手当でしたが、とある年度始めにに医師が妙にニコニコしていました。どうも満額の時間外手当が支給されているとの事のようで、医師なら分かると思うのですがまともにもらえば「こんなにもらってエエのか」みたいな声にもなります。別に規定通り時間外手当をもらって悲しいわけもなく、検査技師も含めて嬉しそうだったのは覚えています。

そのまま定着すれば良い話だったのですが、案の定、無理が出てきます。記事にある八重山病院同様に、勤務先だった県立病院も時間外手当の年間予算は決まっており、満額支給なんて大盤振舞を行なえばたちまち予算不足に陥ります。何故、そんな大盤振舞をしたかと言えば、異動してきた会計担当の事務職員が、異動前の職場と同じように時間外手当を支給したのが原因だったとされます。

会計担当の事務職員も早く気がつけば良かったのですが、前任者の申し送りも悪かったのでしょう、3ヶ月ぐらいして年間の時間外手当の予算の残りが乏しくなっているのを、おそらく他の事務職員に指摘されて初めて慌てたそうです。その病院に勤務するまで考えもつかなかった事だったと仄聞します。慌てたところで県の年間予算で組まれていますから、足りないからといって右から左に湧いてくるものではありません。

大慌てで元の支給額に戻したのですが、大盤振舞で使い込んだ穴は埋まりようもありません。さらにと言うわけではありませんが、看護師、検査技師は組合の力が強く、従来の支給割合に戻す事はなんとか可能のようでしたが、予算不足になったからと言って、それ以上の削減は大騒動になります。やむなくというか、ごく自然に予算の穴埋めは医師の時間外手当の削減で行われる事になります。

削減率は大きかったようです。夏には「時給500円」の声が聞かれ、年が明ける頃には「100円もない」なんて話が出ていました。詳細は聞いていないのですが、最終的には「50円」なんてのも耳に挟みました。親しい事務職員がいたので少しだけ聞いたのですが、穴埋めに必死の会計担当は、最終的に残りの予算を年度の残り月で等分し、減らせない看護師、検査技師の分を先に支払い、残ったわずかな額を、医師の時間外勤務時間に合わせて等分していたとされます。

まあ、それでも今から思えば平和な時代で、医師は毎月の残業時間と支給額の少なさに仲間内で悪態をつきながらも、勤務は平常とまったく変わらず行なっていました。さらに言えば「年間通したら、結局去年と変わらんと言うことか」なんて苦笑いの声も聞かれました。それで納得して話が済んでしまう牧歌的な時代のお話です。もちろん時間外手当の支給額のジェットコースターのような変動については一言も説明はありませんでした。

それから思うと時代は変わったものだと思います。「手当が出ないのなら働けない」みたいな真っ当な主張が堂々と出来る日が来るなんて夢のようです。考えてみればその方が正常の感覚で、八重山病院は県立病院であり、そこの常勤医は県職員となり、同じ県職員でありながら時間外手当が出ないのなら怒って当然です。怒らずに笑い話にしていた昔が異常で、怒って問題を表面化させた方が遥かに正常です。

やっぱり当時の医師の姿勢は問題だったと思っています。私が傍らで体験したような事は、全国どこにでもあるような話ですが、そういう事を問題化させずに、小さく収めてきた積み重ねが今に通じている部分は多分にあると思っています。だからどうにか出来たかは時代が違いますから、一概に責められませんが、この記事を読んで思い出した次第です。