建築業界は性善説

私も将来マンション暮らしを考えているので、強度偽装マンションの話はどうしても関心を寄せざるを得ません。またこれでも阪神大震災の経験者ですから、その辺は尚更だと思っています。

昨日の参考人質疑のニュースを見ていましたが、改めて建築業界の凄まじさを垣間見るような気がしました。最近テレビで吠えまくっていると言うヒューザーの小嶋社長。大変アクの強そうな人物で、いかにも「やり手」の雰囲気を漂わす人間である事は画面越しからもよくわかりました。良くは知りませんが、一代で激戦のマンション業界で頭角を現すぐらいですから、手腕は相当なものだろうと言う事ぐらいは想像がつきます。

ただし上品とは縁の遠いキャラクターであることもまた明白です。べつに会社の社長であるからと言って上品ぶる必要はないのですが、少なくとも国会での質疑ですから、あれでも精一杯「上品」にしていたに違いありません。精一杯であれですから普段はもっと凄まじい事だけは容易に想像がつきます。これもまた誤解を招くかもしれませんから注釈を入れておきますが、社長が「下品で荒々しそう」でも犯罪的でも悪人の象徴と言うわけでもありません。

何が言いたいかといえばマンション業界と言うか、建築業界の気風と言うか、風土みたいなものを体現しているのではないかと感じてしまったのです。激昂して荒げる声、不満をストレートに出す所作などです。国会なのであの程度なのでしょうが、業界内の折衝や打ち合わせではあの数倍、数十倍の勢いであろう事は間違いないでしょう。そういうのが建築業界の常識であるように思えました。

そんな中継場面の後、コメンターとして日本建築なんたら協会の役員とか言う人が、ボソボソと今回の事件について解説をしていました。キャスターの質問は芸の無い一直線の切込みで、「なぜこんな事が起こり、なぜチェックできなかったか」の繰り返しではありましたが、こういう時にはかえってこんな愚直な切り口の方が効果的なのかもしれません。

ボソボソとした返答でしたが、その内容はおおよそこういう風に解釈できると私は感じました。「現在の建築業界のチェックシステムは性善説に基づいて行なわれている。だからこういう不正が行われる事は想定外である。」との事です。つまり関係者全員が誠心誠意、良質の建築物を作るために精魂を傾けており、そこに不正や手抜きなどが生じる余地が無いとの前提で物事が考えられていると言う事だそうです。

今回の強度偽装マンションだけではなく、手抜き建築、違法建築などは表面化している分だけでも幾つあるか数え切れないぐらいあるでしょう。また表面化しているものを氷山の一角として、人知れず手抜きされているものの数は莫大であろう事は誰しも考えています。ところがボソボソとした返答内容はそういう事をする人間は原則としてありえるはずもなく、今回の事件は業界の極悪人がたまたま集まった例外事例とでも言いたい様でした。

この回答を聞いていると、先日から物議を醸している与党幹事長の発言と一脈相通じるところがあります。あの「悪人探しばかりに熱中していると、マンション業界は大変な事になり、景気にも影響する」です。昔から建築業界と政治は密接に結びついており、どうやら与党幹事長と建築業界とでは裏で決着の構図をすでに描き終わっており、両者ともそのシナリオに基づいて粛々と事を納めにかかっているような気がします。

どうやらこのままでは被害者は二重ローンを押し付けられ、政治家は事を穏便に決着させてタンマリ政治献金をせしめてニンマリするのが、この騒ぎの結末になりそうで、胸が悪くなるような気持ちにのみさせられました。