少し前になるのですが2/9付神戸新聞に興味深い記事が掲載されていました。記事オリジナルはリンク先を見て頂きたいのですが、長くも無い記事なので引用します。
■毎日新聞社長ら書類送付
発言内容の誤報で小泉純一郎元首相の秘書官だった飯島勲氏の名誉を傷つけたとして、名誉棄損容疑などで告訴された毎日新聞社の朝比奈豊社長と当時の政治部長、担当記者の
8人3人について、警視庁麹町署は8日、書類を東京地検に送付した。同庁は「捜査した事件はすべて検察庁に送る刑事訴訟法の全件送致主義に基づき処理した」とし、処分に関する意見内容を明らかにしていない。
告訴状は、小泉元首相の引退表明を聞いた飯島氏が「次期衆院選で小泉氏が応援しても小泉チルドレンは負けるだろう」と語ったとする誤った記事を2008年9月26日付朝刊に掲載、飯島氏の名誉を傷つけたとしていた。
名誉毀損による刑事告訴の理由はシンプルで、飯島氏が話してもない内容をタブロイド紙が捏造して記事として掲載したというものです。民事ではなくて刑事と言うのがチョットおもしろいところですが、事の真相は「これから明らかにされるかもしれない」とぐらいにしておきます。民事も並行しているかどうかは調査不足でわかりません。
この記事の興味深いところは、さして長くもない記事であるのに非常に取材が行き届いている事です。少しおさらいですが、刑事告訴が為された時に警察はどう対応するかの基礎知識があります。原則として刑事告訴が行なわれたら、警察は正式に捜査を行なわなければならないとされています。ただこれはあくまでも原則で、実際は案件によっては窓口でかなりトリアージされるのが現実と聞きます。
トリアージを潜り抜けてめでたく正式に受理された告訴は、今度こそ正式に警察が捜査を行ないます。警察捜査は告訴の事実関係を調べるわけですが、捜査が終了すればどうなるかです。捜査の結果として告訴の案件に犯罪の可能性が高いときもあれば、逆にそうでは無い時もあります。もちろんその中間のグレーゾーンもありえます。
クロとかグレーが濃い場合はともかく、シロないし限りなくシロに近いグレーであればどうなるかですが、警察段階で起訴するかどうかの判断は行ないません。正式に受理された告訴は、警察捜査が終わるとすべて検察に送付されます。つまり送検されて、検察が起訴するかどうかの判断をすべて行なうと言う事です。記事にある、
ただし送検段階で警察からの意見みたいなものは添付されます。現物はもちろん見たことはないのですが、ニュアンスとして「この案件は是非起訴する必要がある」とか逆に「容疑は不十分なのでムニャムニャ」みたいなものまであるとされます。これが記事にある-
処分に関する意見内容を明らかにしていない
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警察は正式に捜査を行なった案件はすべて送検する
この話は前にも触れましたが、正式の捜査以外に内密の捜査と言うのは存在するようです。犯罪の可能性を疑っての内偵段階(調査段階)みたいな状態です。ただそういう状態は実は胸を張って合法的とは言い難い状態であり、あくまでも警察内部の慣例による運用みたいな感じです。内偵段階であってもこれが正式捜査に切り替わればもちろん送検ですし、告訴は受理しただけで送検と言う事になります。
さてこの記事のどこが特注かです。記事の概要は飯島氏が名誉毀損で告訴し、容疑者であるタブロイド紙関係者が「送検」された事です。「送検」と言う表現はマスコミ用語としても定着しています。またマスコミ記事は字数制限が厳しく、同じ事を伝えるにも極力短い表現を使おうとします。とくに定着している場合はなおさらです。ところがこの記事では「送検」と言う用語を避けています。冒頭の記事を引用しますが、
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発言内容の誤報で小泉純一郎元首相の秘書官だった飯島勲氏の名誉を傷つけたとして、名誉棄損容疑などで告訴された毎日新聞社の朝比奈豊社長と当時の政治部長、担当記者の
次の個所も異例の記載で、
1年と言わず1ヶ月でも構いませんが、新聞に送検記事はテンコモリあります。そんな送検記事に「送検が必然」であるみたいな丁寧な解説が加えられているのも初めて読んだような気がします。ここの続きも個人的には非常に興味が深くて、-
処分に関する意見内容を明らかにしていない
そうであれば通常のテンプレでも意見内容のフォーマットがあっても良さそうなものですが、これもまた初めて警察の意見内容がある事が記事に書かれたような気がします。短い記事であるにも関らず実にスペシャルな内容です。
こういう一般庶民が知らないような事柄を報せるのも報道の役割ですから、詳しい説明を加える事には何の異存もありませんが、この報道のみの特注テンプレにせず、スタンダードなテンプレにして頂くように切望します。せっかく作られたのですから是非有効利用して頂きたいと言うところです。