女神の休日:あとがき

 今回は完全なサイドストーリーです。テーマは旅もの。とりあえず豪華クルーズさせたのですが、とにかく豪華クルーズ船なんか聞いた事しかないので大変でした。モデルにしたのはクイーン・ヴィクトリアですが、船内地図と断片的な情報を基になるべく豪華そうな旅行にしたてたつもりです。

 とはいうものの、想像の旅をさせただけでは話が紡ぎきれません。小説にするにはなにか事件が起こる必要があります。これのネタに糞詰まってしまい、途中で投げ出しそうになっています。

 とりあえず共益同盟なる敵役を作ってはみたのですが、これをコトリとユッキーが退治したところで焼き直しも良いところです。うんうん唸った末に引っ張り出したのがイナンナの冥界下りのお話。

 これをナレーター役のミサキにやらせるアイデアが浮かび、なんとか最後まで引っ張れました。ただ冥界下り部分で興が乗り過ぎて、全体が膨らみ過ぎ、小説一冊分相当に収めるのに往生しています。

 それと何回も何回も構想が途中で変更になり、その度にゴッソリ書き直しが繰り返された苦労作ですが、書き終れば楽しめたと思います。次回作への伏線も張れてメデタシ、メデタシです。

女神の休日:旅の終り

    「さて、晩御飯食べに食堂車行こうか」
    「今日もですか」
    「当然よ、これも仕事だからね」
 モスクワからウラジオストクまでの世界最長の鉄道ですから食堂車も当然あります。なかなか立派な食堂車なのですが、値段はちょっと高級なファミレス程度でしょうか。オーダーの仕方によりますが、朝食で千円程度、昼食で千五百円程度、夕食で二千円程度ぐらいです。

 内容的にもそんなものですが、ロシア人には割高感があるようで、乗客の多くは持ちこみで自炊している人が多いようです。シベリア鉄道と言っても、オリエント・エクスプレスみたいな豪華観光列車ではなく、庶民の移動手段でもあるので、食堂車は割と、いやかなり空いています。でも食堂車に着くと既にパンパンの満席状態、

    「待ってました」

 こんな感じでヤンヤの大喝采が起ります。コトリ副社長はあちこちの客車に遊びに行かれ、そこでシコタマのウォッカとあれこれ食べ物を奢ってもらっていますが、

    「ちゃんと返礼しとかんと」

 そういって食堂車を貸切にして次から次に招待、無料食堂車状態ですから、そりゃ満席になります。さらに、

    「いくよユッキー」
    「まかせとき」

 食堂車の通路でお二人が、

    『♪ストップ 星屑で髪を飾り
    ノン・ストップ 優しい瞳を
    待つわ プールサイド
    ズキズキ 切なくふるえる胸』

 これを完璧な振り付きで。もちろんウインクだけではなく、延々とメドレーで。

    「ミサキちゃん」
    「は~い」

 ウインクやピンク・レディなどの二人組ならイイのですが、三人以上になるとミサキも駆り出されます。

    「今日はパフュームのお披露目よ」

 パフュームとなるとそれなりに練習が必要で、ミサキも朝から二時間ばかりみっちりと。ほかにもモーニング娘からAKB・・・シベリア鉄道の旅はミサキにとって振付を覚える旅にもなっています。これも盛り上がると見物客も次々に参加して来るもので大変です、

    「ハラショー」
    「ハラショー」

 遊んでいるようにしか見えなくもないのですが、

    「宣伝、宣伝」

 そうなんです、いつのまにか停車駅に手配し準備させていたエレギオン・グループの試供品を配りまくっています。いわゆる知名度を上げるって奴ですが、ようやるわってところです。もちろん、

    「エレギオンを宜しく」

 これも随所に付け加えています。食堂車への対策もバッチリで、スタッフには十分すぎるほどの心づけ。客室乗務員にも同様に。ですから、ミサキたち三人組が何をしても大歓迎で、むしろ心待ちにしている感じです。

    「ミサキちゃん、広告費で落としといてね」

 はいはい、落とさせて頂きます。そんなシベリア鉄道の旅も明日は終点のウラジオストクです。食堂車でのショーも終ってから、

    「コトリ、今回のバカンス、おもしろかったんじゃない」
    「そやな、時差ボケにあんまり苦しまんで済んだし」

 コトリ副社長は時差には本当に弱くて、ロンドンとウィーンの時差一時間でも、

    「なんとなく調子悪い」

 ワルシャワとモスクワの二時間となると、

    「だから時差って嫌い」

 どんだけ敏感なんじゃと感心させられるぐらいです。

    「コトリ、次は四人で行きたいね」
    「そやな、いっそシオリちゃん連れて五女神で旅行したら面白いんちゃう」
    「それって二千年ぶりじゃない」
    「そやな、日本に来た時は三人寝取ったし」

 加納さんにも女神の秘密教えたもんね。

    「ユッキー、どこ行こうか」
    「長いのは難しいね」
    「シオリちゃんとこもそうやろから、二泊とか三泊、せいぜい一週間ぐらいやろな」

 そうそう、欧州視察にシベリア鉄道は許しませんからね。往復で二週間は論外。

    「ミサキちゃん、どっかの福引で、五人で三泊四日ぐらいの温泉ツアーが景品になってるところさがしといて。わたしかコトリが行って、絶対当ててくる」

 そりゃ、お二人が女神の力を使えばそう出来るでしょうが、よくそんなケチ臭いことを、

    「加納さんの接待にして交際費で落とします。福引の景品ではあまりにも失礼です」

 どんだけの大会社のトップやと思てるねん。世間体ってものがあるでしょうが、

    「ところでミサキちゃん、マルコが恋しいんちゃう」
    「もちろんです」
    「お、言うね。帰ったら燃える?」
    「当然です。灰になるまで燃え尽きます」

 早く会いたい。あの冥界から脱出できたのは、やはりマルコのおかげ。マルコがいなかったら、ミサキはどこかで屈していてもおかしくありません。

    「お二人も、早く相手を見つけ下さい。今のままじゃ『欲しい欲しい詐欺』ですよ」
    「ありゃ、一本取られた」
    「ホントだわ」
 地上に戻ったミサキは再び無防備平和宣言都市状態に戻っていますが、まだ残っている能力があります。これも日に日に見えにくくなっていますが、今のミサキにはまだ神が見えます。ユッキー社長と、コトリ副社長の神がありありと見えます。なんと美しく、気高く、強大な神であることか。偉大な神の姿をしっかりと瞼に焼き付けておきます。

女神の休日:シベリア鉄道

 視察は順調に進み、モスクワからシベリア鉄道に乗り込みます。頑張って二人用個室を並びで二つ確保して、ウラジオストックまで七日間の旅になります。時差ボケの心配がなくなったコトリ副社長はルンルン気分ですが、ミサキはさすがにウンザリ気分。ユッキー社長はというと、

    「コトリ、おもしろそうじゃない」
    「だろ、だろ、やっぱり旅は地面か海の上を通らなくっちゃ」
    「飛行機も悪くないけど」
    「うんにゃ、次からのヨーロッパ視察はシベリア鉄道にする」

 これ、どれだけ忙しいと思っておられるのですか。七日間の鉄道旅行はウンザリですが、そのかわり時間が売るほどあるので、ようやく今回の事件のことをゆっくりお二人に聞かせてもらえます。

    「どこから話そうかな。かなり複雑だからね」
    「そやねん、結果はああやったけど、わからへん部分も多いんよ」

 まずはウイーンでのユダとの会談からになりました。

    「ユダはかなり話してくれたよ」
    「あれでですか」

 あの時のユダの話は共益同盟からの災厄呪いを受けて、それを行ったのはニンフルサグじゃないかだったはず。

    「ユダの話のポイントは幾つかあるんだけど、女神が災厄呪いを人にかけるには、一度は見る必要があるの」
    「わかるかなミサキちゃん、ヴァチカンなり、ローマにニンフルサグは来てたのよ。それでユダを見て災厄の呪いをかけちゃってるのよね」

 どういうこと、

    「ニンフルサグなら神が見えて当然ってことよ。ユダを見たにも関わらず、ニンフルサグはユダに災厄の呪いをかけてるのが不自然ってこと」

 そっか、そうだった。災厄の呪いを神にかける時には、余程の力の差がないと無理のはず。魔王戦の時に言ってた。

    「つまりニンフルサグはユダの神が見えてなかった」
    「そういうこと」

 そう考えるんだ。

    「ユダはニンフルサグがエレシュキガルに取り込まれたのも知っていたはずよ」
    「どういうことですか」
    「ユダはイナンナがアンだけでなく、エンキもエンリルも倒してしまったのを知ってるじゃない。でもニンフルサグについては話さなかったでしょ」
    「そうですが」
    「エレキシュキガルに取り込まれたはずのニンフルサグが現れたから、ユダは慎重になっていたで良いと思うわ」

 だから共益同盟のナルメルをカードにするのをユダはためらっていたとか。

    「ユダの情報でもナルメルとエレシュキガルの関係が読み切れなかったはず」
    「コトリもそれでエエと思う。ナルメルがエレシュキガルの手先なら、乗り込んで行くのはリスクが高すぎるやろ。エレシュキガルはニンフルサグだけではなくエンキドゥでさえ取り込んでるぐらいやからな」

 あの会話でそこまで読み取らないといけないんだ。

    「もっともね、エレシュキガルが本当に今でも存在しているかは、ユダと話した時には疑問だったのよ。これが確信に変わったのがザルツブルグ」

 共益同盟の使者を始末した時ね。

    「あれはコトリもビックリした。伝承通りだったからね」
    「そうなのよ。思い出すのに苦労した。エレシュキュガル伝承はホントに断片的だったから。コトリと大汗かいて思い出した」
 伝承によるとエレシュキガルはいわゆる悪神を取り込みますが、これは神を倒してのものではないそうです。悪しき行いをした神の宿主が亡くなり、次の宿主に移る間に取り込んでしまうとなっていたようです。

 取り込まれた神はエレシュキガルが形成する冥界に送り込まれますが、そこで神は意識の影にされてしまうそうです。これがいわゆるエレシュキガルの軛です。

    「影にされると、冥界の中では実体があるようになるけど、力が落ちるみたい。ニンフルサグやエンキドゥの感じからいうと十分の一ぐらいかな」
    「でも強そうに見えたって」
    「それが影なのよ。影としての見かけの強さは残っても実体としての強さはガタ落ちってところなの」
    「じゃあ、冥界から出てきた神はどうなんですか」
    「エンキドゥの場合は冥界の実体のままだったで良さそうなの。だから一日ぐらいしか地上にはいられなかったみたいなの」

 エレシュキガルの軛ってそこまで強烈なんだ。

    「ではあの泡のように溶けるのは」
    「影には命がないぐらいかな」
ここもよくわからないところだそうですが、エレシュキガルの軛は意識の魂を吸い取ってしまってるのじゃないとしていました。意識の魂と言うのも妙な表現すが、ある種のゾンビ状態が一番近いのではないかとしていました。

    「ナルメルはどうやって冥界の神を外に連れ出したのですか」

 お二人は顔を見合わせて、

    「ミサキちゃんさぁ、冥界に入った時にどう感じた」
    「どうって、陰気なイヤなところって感じでした」
    「進んで行ったら?」
    「第一の門で空気が変わった気がしました」

 そしたら、

    「やっぱりそうなのね」
    「それぐらいしか思いつかへんもんな」

 冥界の神にとっては、あの胸糞悪い空気こそが快適なんだろうとしてました。

    「それって」
    「あくまでも仮説だよ。入口から大門までの間は冥界の神にとっては猛毒が充満している地帯で、とても通り抜けられなかったんじゃなかったのかもしれない」
    「猛毒と言うか一種の結界みたいなもんかもしれへん」

 冥界の境はあの第一の門で、第一の門があったあの広場に通じる洞窟には冥界の神は入れなかったとか。そうなると、

    「ナルメルとは通れたのですか」
    「うん、通れただけやなく、入口を見つけたんやと思う」
    「ナルメルはどうやって冥界の神を地上に連れ出したのですか」
    「たぶん取り込んだんやろ」

 あっ、そっか。あの第一の門への道は地上の神なら通れるんだ。ミサキも通れたもの。そうだとしたら、

    「ナルメルも地上の神」
    「それも取り込めるタイプの奴」
    「だったらアレキサンドラやザルツブルグの使者に冥界の神を宿らせたのもナルメル」
    「そう考えるのが順当やと思う」

 そうだったのか。ん、ん、ん、

    「ひょっとしてエンキドゥのケースは死者復活の術じゃなかったとか」
    「いやあれこそ真の死者復活の術だったかもしれない。エンキドゥの宿主は亡くなり、次の宿主に移るまでの間にエレキシュガルに捕らわれ軛を架せられたと考えて良さそうなの。これを強引に地上に復活させたのが、エンキドゥへの死者復活術」
    「エレシュキガルの軛が架せられたエンキドゥは、自力では新たな宿主に移れなかったとも見れるのでは」
    「どうしたのミサキちゃん。冥界に下ってから冴えまくってるよ」

 冥界の神はエレシュキガルの軛のため第一の門から先には進めず、さらにエンキドゥに用いられた死者復活術でも次の宿主に移れず冥界に引き戻されちゃうんだ。ナルメルは冥界の神を取り込むことによって第一の門の先を突破し、さらに冥界の神を宿主に自在に宿らせることが出来たから、冥界の神は絶対服従したんだ。

    「ミサキもそうですが、ナルメルにもどうしてエレシュキガルの軛がかからなかったのですか」
    「これもたぶんだけど、宿主の中の神へは影響せへんのやと考えてる。イナンナだって帰ってきてるし、エレシュキガルの軛なんかかかってないし」

 言われてみれば。そうだイナンナといえば不思議なことが、

    「ミサキでも勝てた冥界の神に、イナンナはどうしてあれほど無力だったのでしょうか」

 ユッキー社長とコトリ副社長は、

    「一番難しいとこやってんよ。共益同盟の本部を襲った時に、ナルメルが地上に居たら話はシンプルやってんけど、冥界に逃げ込まれたらどうしようがあったんよ」
    「そうなのよイナンナですら、あれだけの目に遭った冥界に逃げ込まれちゃったら手が出せなくなるじゃない」

 それはそうなんですが、だからミサキがってのも変です。

    「とにかく行って帰って来たのがイナンナ一人やから困り果ててんけど、シノブちゃんからナルメル情報があってんよ」
    「どんな情報ですか」
    「ナルメルもかつてはエエ奴やったって」
    「はぁ?」

 シノブ専務の調査も大変だったみたいですが、ナルメルも生き残りの神で、さらにユダ・タイプ。つまりは蓄財型。

    「名誉欲もあったみたいで、本気で騎士になりたかったみたいや。まあ上流階級に入り込んで商売するのに必要やっただけかもしれんけど」
    「良くわかりましたね」
    「あははは、実はユダ情報や」

 えっ。えっ、えっ、ユダの情報だって、

    「でも冥界で見たナルメルはそれほど強いとは」
    「ミサキちゃんが言うと、おかしみがあるな」
    「ふんだ、どうせミサキは無防備平和都市宣言の神ですよ~だ」

 ユッキー社長が苦笑いしながら、

    「ミサキちゃん、そんなことで怒らない、怒らない。ナルメルの話を聞いた時に思いつたのよ。地上の神は冥界に下れるけど、冥界では力が反転するんじゃないかって」
    「反転ですか?」
    「そう」

 神の能力にも攻撃するものと、恵みのものがあります。どちらも兼ね備えている神もいますし、ミサキのように恵みオンリーの神もいます。覇権欲に溢れた武神なら攻撃特化でしょうか。

    「善と悪ぐらいに単純化してもイイかもしれないけど、どうも反転するだけでなく相殺するらしいのよ。だからイナンナは冥界で無力になったぐらい」
    「ではナルメルも相殺されて残った力が、ミサキが冥界で見たもの」
    「そうなる。だから無防備平和都市宣言のミサキちゃんが、冥界では重武装侵略都市宣言に変わるぐらいかな」

 だから冥界ではミサキはあれだけ強かったんだ。でも、これはあくまでも仮説のはず。

    「もしその仮説が外れていたら」
    「その時はね・・・」
    「ユッキー、もうその話はエエやん。上手いこといったんやし」

 この話もコトリ副社長が席を外している時に聞かせてもらいました。ナルメルが冥界に逃げ込んだ時に、ミサキを使うかどうかは、二人でかなりもめたそうです。最終的にユッキー社長が意見を無理やり押し通し、ミサキは冥界を下ったのですが、コトリ副社長は、

    『ミサキちゃんが戻らへんかったら、五千年の友情は終りや。死んでもらう』

 ここまで言ってただけではなく、

    『ユッキーが死ぬときはコトリも死ぬ。抱き付きでフル・パワーの一撃を喰らわす』

 密着状態からの一撃の効果は凄まじく、舞子の魔王戦の時でも、ふらふらの無理やり出した二撃目で魔王に瀕死の重傷を負わし、巻き添えを食ったコトリ副社長も生死の境を彷徨ったぐらいです。これがフル・パワーとなればユッキー社長の神は死に、放ったコトリ副社長の神も死にます。

    「ミサキちゃん、たいした話じゃないよ。それぐらいの覚悟は当たり前のことだし。こうやって上手く終わればオシマイよ」
    「ホントにミサキが帰らなければ、やる気だったのですか」
    「やってたよ。わたしも逃げる気なんかサラサラ無かったから。それだけのこと」

 そこまでお互い覚悟を決めてミサキを冥界に送り込んでたんだ。

    「ミサキちゃんが冥界に下った後だけど、コトリと手分けして同盟本部の神の残党狩りやったんだけど、アッサリ済んじゃった。後は冥界のドアの前でスタンバイしてたんだ」
    「食糧とかは」
    「ルナに運んでもらってた」

 酒盛りしながら待ってた訳じゃないんだ。

    「ゴメンやってた。ルナが気を利かせたのかビールまであったもんだから、つい。もちろん最初の数日だけだよ」
    「もう、まあイイですけど。どれぐらい待つつもりだったのですか」
    「とりあえず一ヶ月ぐらいは待つつもりだったから、早く済んで良かったわ。でもね、御手洗が遠くて往生したの。地下には無かったのよね」

 だよな、あんな地下に水洗便所作るの無理だろうし。

    「ところでミサキちゃん、最後に脱出する時にどうして一撃使ったの」
    「ドアがなかったし、押してもビクともしなかったので」
    「えっ、内側にはなかったの。ゴメン、あると思ってた」

 あの、その、時々開けて見てくれても良かったと思うのですが、

    「見たこともあるのよ。でもあれって外開きじゃない。階段ホールに開いてる時はちゃんと内側もドアだったの」

 別に閉めなくとも、

    「あれねぇ、開けっ放しに出来ないの。開けるには秘術が要るんだけど、すぐに閉まっちゃうのよ」

 それでもミサキが入口に到着してから一撃を放つまで相当な時間があったはず。

    「それもゴメン。開ける秘術って、けっこうパワー使うのよ。それとね、そういうドアって内側からは簡単に開くことが多いし、ミサキちゃんが到着したらノックぐらいするからわかるだろうって」

 いつもながらの土壇場勝負で危なかったのだけはわかります。

    「そのドアを開く秘術ってもしかして・・・」
    「そうよ、パリ行きの飛行機の中でコトリと検討していた秘術。あの時には死者復活の秘術と考えたてけど、よく考えればそれはイナンナだって知らないはず。知っているのは冥界に入る方法じゃないかって」
    「じゃあ、ナルメルも」
    「どこかで見つけたんだろうねぇ」

 そこにコトリ副社長が御帰還。

    「コトリ、出来上がってるね」
    「いやぁ、ウォッカのストレートは効くは」
    「何杯飲んだの」
    「わからへんぐらい」

 コトリ副社長は旅の暇つぶしに三等客室の方によく遊びに行かれます。ロシアは国家としてはかなり陰険な印象の国ですが、ロシア人自体はお人よしが多いみたいで、大いに盛り上がり、ウオッカをとにかく御馳走になるようです。

    「ところでエレシュキガルはどうなったのですか、ナムメルもです」
    「死んだんじゃないのかなぁ」
    「えっ」

 ミサキが一撃で地上界へのドアを強引にこじ開け助けられた後に、冥界が崩れていくのが見えたそうです。

    「ところでミサキちゃん、どれぐらいの神を倒したの」
    「正確には数えてませんが」
    「だいたいよ」
    「第一の門だけでも百人ぐらいいましたから・・・五百人ぐらいかも」

 社長と副社長が笑い出し、

    「そりゃ凄いは」
    「まるでターミネーターみたいね」

 しかたないでしょう。あれだけレイプ魔に囲まれれば、

    「それでさ、ナルメルを倒した宮殿から、冥界を脱出するまでに神に出会った?」
    「いえ、誰も見ませんでした」

 さらに門が廃虚になっていたことを伝えると、

    「冥界の神は全滅しちゃったでイイと思うよ」
    「あれだけで全滅ですか?」
    「あれだけって言うけど、神人口からすれば五百人って莫大よ。わたしもコトリも、会ったことのある神は、ミニチュア神まで全部足しても百人届かないもの」

 神の総数は不明だけど、エラムやシュメールにたどり着けた神は五千人にも満たない推測もあるものね。その一割って言えば物凄いもんね。

    「冥界はエレシュキガルと取り込まれた神のバランスで保たれている部分もあったと思うから、短期間の内にそれだけの数が消滅すれば、なにも起らない方が不思議だわ。冥界の建物が急速に廃虚化したのがそのせいだと思うわ」

 そうかもしれない、

    「そこで最後にミサキちゃんは一撃を放ったじゃない。あれって、エレシュキガルの内部からの一撃になるじゃない。そりゃ、強烈だと思うからエレシュキガルが死んでも不思議ないと思うよ」

 社長と副社長が見えたのは、冥界の崩壊だけでなく、冥界のドアがあった地下まで続く、ラセン階段があった竪穴の崩壊まであったそうです。

    「いやぁ、あれはビックリしたもんな」
    「ホント、生き埋めになるかと思ったもの」

 なんとか地上の階段室にたどりつけたのですが、

    「竪穴まで崩壊したもんな。ナルメルは可哀想やけど生き埋めやな」
    「掘りだすのも不可能だと思うわ」

 危機一髪だったのがよくわかります。

    「強大なエレシュキガルがそれで死んだのでしょうか」
    「たぶんだけど、エレシュキガルは自殺した気がしてる」
    「どういうことですか」

 竪穴の崩壊が不自然だったとしています。崩れかけてはいたそうですが、ちょうどミサキたちが階段室に到着するのを待っていたかのように崩壊したそうです。

    「エレシュキガルは自分の仕事が終わったと思ったのかもしれん」
    「でもエレシュキガルは意識を封じていたのでは」
    「そうやねんけど、ミサキちゃんの一撃で目が覚めたんちゃうやろか」
 もうわからない世界です。神の世界の謎は深すぎてすべてはわかりませんが、エレシュキガルが亡くなったのなら、二度とあの世界に行かずに済みそうなことだけは安心しています。あんなところは、もうコリゴリです。

女神の休日:再びルナの家

 目覚めるとベッドの中。それにしてもひどい夢だった。夢って見てる時はリアリティがバリバリだけど、考え直すとご都合主義の矛盾がテンコモリなのよね。だってさ、無防備平和都市宣言とまで言われた、人畜無害のミサキが事もあろうに、冥界で大暴れって笑っちゃう。

 あれっ、左手になんか付いてる。あのチューブみたいなものはなによ。ひょっとして点滴とか。右手もなんか重い。いや誰かが握ってる。握ってるのは、

    「ユッキー社長、ユッキー社長」
    「ミサキちゃん、意識が戻ったの・・・」

 それだけ言うと涙がポロポロ。

    「コトリ副社長は」
    「今は寝てる」
    「ミサキは」
    「ちゃんと帰って来れたよ、あの冥界から地上に」

 あれは夢じゃなかったんだ。ミサキは本当に冥界に行き、ナルメルを倒し地上界に帰って来てたんだ。

    「ミサキちゃん、もう少しお休み。色々聞きたいだろうけど、今は休むのが大事。次に目覚めたらルナに何か作ってもらうから」

 それだけ聞いてミサキは再び眠りに落ちてしまいました。次に目覚めた時にはコトリ副社長が右手をしっかり握ってくれていました。

    「おはようって、言っても夕方だけどね」
    「ミサキは一日中眠ってたのですか」
    「もうちょっと長いよ、今日で五日目だよ」

 そうこうしているうちにルナが食事を持ってきてくれました。日本ならお粥ってところなのですが、ますはクリームスープ。それにマッシュポテトみたいなもの。これがかなり濃厚で、

    「これはピュレよ。そうねぇ、マッシュポテトに牛乳、生クリーム、バターがたっぷり入ってるぐらいのものよ。ホントは肉出したかったんだけど、メグミが日本人じゃ重すぎるって」
 フランスの病人食って日本とかなり感覚が違うみたいで、弱ってるなら栄養をぶち込めみたいです。でもこの時のミサキには合ってたみたいで、翌日にはかなり元気が出てきました。さすがは美食の国ってところです。

 社長も副社長も話してくれなかったのですが、ルナの話では、ミサキが担ぎ込まれてから社長と副社長が交代で癒し治療を続けてくれていたようです。もっともルナに言わせると、

    「あれって日本の風習なの。とにかくずっと手を握り締めてるのよ。それはまあイイとしても、その後がゲソッて感じで疲れ果てるのよ。そう、ぶっ倒れて寝るって感じ。いったい何してたの」

 ミサキにはわかります。ミサキは世界最強の神の治療を受けてたのです。

    「それとメグミって医療に詳しいのね。入院はさせたくないって言うから往診に来てもらってたのよ、大きな声では言えないけど、持ってくる薬品、医療機器の指示まで全部やって、実際の治療も全部やってた。クレール先生が余りの手際の良さにビックリしてた」

 ユッキー社長なら余裕で可能です。それでも目覚めるまで五日かかったのですから、かなりどころでない消耗だったのは良くわかります。十日過ぎる頃にはミサキもほぼ全快、ついにビールにありつけます。テーブルにはルナの心づくしの御馳走がずらりです。ルナは、

    「フランスの産業界を救った英雄にカンパ~イ」

 ユッキー社長もコトリ副社長も、

    「エレギオンを救った勇者にカンパ~イ」

 ミサキがナルメルを倒し共益同盟を崩壊させたのは間違いないようですが、疑問がテンコモリあります。ただルナもいるので話しにくい。小声でユッキー社長に、

    「ルナはどれぐらい知っているのですか」
    「う~ん、適当。だからわたしやコトリの話に適当に合わせといて」

 そんな適当なこと言われても・・・ま、いつものことか。聞いてるとお二人は、かなり巧妙な作り話をされてるようです。さすがにウソをつくのはお手のもの。なんてたって神ですものね。それでも祝勝会みたいなものですから、それなりに盛り上がって、

    「ところでミサキちゃん、体はもうだいじょうぶ」
    「はい、すっかり元気に。ビールだって、ワインだって美味しく頂けます」
    「そこでなんだけど・・・」

 これはやばそうな、またトンデモ経費落としの相談とか。

    「サザンプトンに着いてから三週間ぐらい経っちゃったじゃない」

 ミサキが冥界に居た期間は一週間ぐらいあったそうです。そうなると神戸を出てから六十五日ぐらいになるものね。

    「いくらなんでもバカンスが長くなりすぎてるのよね」

 うん、確かに。

    「だからサザンプトンから後は、ロンドン及びウィーンの視察と、パリ支社の視察の体裁にしたいの。パリ支社の視察はとりあえずミサキちゃんの意識が戻ってからコトリと済ませといた」
    「でもロンドン支社とウィーン支社は荷物運びをさせただけじゃ」
    「だからロンドンとウィーンは支社の視察じゃなく、現地視察にしておきたいと思うのよ」
    「はぁ」
    「作文任せたわよ」
    「でも実際にやったのは・・・」
    「ミサキちゃんも共犯だからね」

 う~ん、バカンスが長くなってる言い訳は必要だから、ここは目を瞑るか。

    「それと、もうちょっと視察の範囲を広げておくわ。ベルリン支社、ワルシャワ支社、モスクワ支社の視察を予定しといて。コトリをヨーロッパまで引っ張り出すのは大変だから」

 それもそうだ。コトリ副社長はトコトン嫌がるからなぁ。このさい、視察しておくのもイイかもしれない。

    「でね、モスクワからだけど、大規模ロシア視察をしたいのよ」
    「大規模ですか?」
    「エレギオンHDはロシアにちょっと弱いところがあるし」

 それはある。

    「でね、コトリの提案だけどシベリア鉄道で帰ろうって」
    「シベリア鉄道って・・・」
    「明目は日本からヨーロッパの貨物輸送にどれだけ期待できるかの実地調査」

 でもそれだけ回るとまた日数が、

    「そこんとこ、よろしく」

 ま、いっか。共益同盟戦はミサキにとってはまさに死闘だったし、ミサキももう少し休みが欲しいし、なんとかしよう。ユッキー社長は別の話題をルナに振って、

    「ちょっとお願いがあるんだけど」
    「なに」
    「一人預かってくれない」

 誰かと思えばマリーのこと。

    「メグミがコネとは珍しいね」
    「まあ、いろいろあってね」
    「できるの」
    「才能はある。でも経験が必要」
    「フランス語は」
    「怪しいけど、そこがイイと思ってる。フランス語ぐらい話せないとね」
    「わかったわ。世話になったし。鍛え上げてエレギオンに送ってあげる」

 ユッキー社長も優しいな。そこまで目をかけられる社員なんて滅多にいないもの。ただ、マリーも大変だろうな。ルナはミサキたちに会ってる時は上品で穏やかなお嬢様風だけど、ビジネスの場に立てば、

    『フランス食品業界の女王』
 こう呼ばれて畏怖されてるのだもの。そのルナが本気で鍛えたら厳しいなんてものじゃないと思う。でもそれだけ力も確実に伸びるよきっと。ルナだったら十年、いや五年もあればエレギオンに送り込んでくれても不思議ないもの。マリー、頑張ってね。ミサキも時々チェックはしとくから。

女神の休日:地上へ

 ぶっ倒れたナルメルを見下ろしながら、どうするかは途方に暮れる思いなのよ。そりゃ、あんな野郎の愛人になるなんて真っ平ゴメンだけど、その代償の冥界暮らしもウンザリしそう。それに暮らすたって、どうやって暮らすんだろこんなとこ。

 とにかくなんにもないところ。冥界は真っ暗じゃないけど、夕暮れ時の薄暗さ。それが全然変わらないから、時間の経過の感覚はとっくに麻痺してる。入口から七つの門とその付属施設、宮殿はあったけど。他はなんにもないのよこれが。

 売店や食堂どころか、家一軒見かけなかった。それどころか鳥とか犬とか猫もまったくいないし、虫一匹いないのよ。草や木だって第三の門にあっただけ。あれだってあの時の食べ物同様にミサキを騙すためだけにあった気がする。あれって何食わされたんだろ。気色悪いけど、食べちゃったからあんまり考えようにしとこ。

 冥界って、食う事や眠る事さえ不要の退屈地獄にも見える。オシッコさえ出ないもの。そこで唯一やれるのが何故かアレ。アレしかやる事ないから究極まで煮詰まって暴走の果てかな。世の中煮詰まり過ぎるとロクなことにならない見本にも思える。

 第三の門はガチレズ集団だったけど、第四の門の建物の中に踏み込んだら、鎖で吊るされてるのや、変な椅子に縛られてるのがいて、なんかの罰でも受けてるのかの思っていたけど、ここまで来ればもうわかる。

 第三の門はガチレズ集団だったけど、第四の門はSM集団だ。第五の門は男だけしかいなかったからガチホモ集団やろ。ガチホモ、ガチレズ、SM以外は特定できないけど、女が男を襲うとか、両刀使いの乱交とかあったのかもしれない。

 おそらく各門はそれぞれの性的指向で別れてて、冥界の神は自分の性的指向にあったところに居着き、中には巡回するのもいたかもしれない。そんな冥界でのミサキの価値はガチホモ集団を除いて、

    『ウブ』
 子どもが二人もいて、実年齢で五十歳にもなるミサキがウブってするのも変だけど、あくまでも比較の問題。あっちは何千年もこれだけに熱中してる超がいくつ付くかわからないベテランだから、極限まで練り上げられた熟練のテクニックで、ウブ同然のミサキをヒィーヒィーいわせて泣かせるのが楽しみぐらい。

 だからかもしれないけど、戦うと言うより、捕まえにきてた気がしてる。殺しちゃったら意味ないからね。泡になって殺されるんだって、神なら飽きるほど生きてるから、文字通り命より大事ってところで良さそうな気がする。

 でもイナンナってどんな目に遭わされたんだろう。叙事詩も読み方だけど、ひょっとしたらガチホモ門は除いてフル・コースだったとか。もしそうだったら、絶対に他人に話さないだろうな。社長も副社長にも冥界下りの話をするのを嫌がったのはわかる気がする。


 そんな事ばっかり考えててもしょうがないんだけど、とにかくこれからどうするかよね。宮殿前の乱闘で脱がされた靴はなんとか見つけたけど、服はもうどうしようもないのよこれが。ナムメルの前で脱ぐ時に裂けちゃってもうボロ布同然。

 宮殿の中も見て回ったけど、とにかく服が一着も見つからないどころか布きれ一枚見当たらないのよ。冥界の神を溶かした時に服も一緒に溶けてから、冥界の服ってのも神が自分で生み出したものかもしれない。

 こんな何にもない宮殿にいたところで仕方がないから、とりあえず第三の門まで戻ることにした。あそこは冥界の中で一番地上に近い感じがしたもの。冥界は暑くもなく、寒くもなく、昼も夜もないから裸でもなんとかなるけど、なんか落ち着かない。

 そりゃ、そうよね、素っ裸で歩くなんて露出狂でもなきゃ普通はしないもの。突破してきた七つの門だけど、帰りに見るとボロボロ。まさに廃虚みたいになってた。それもミサキが見てる間にも廃虚化が進んでいた。

 期待していた第三の門も同様。あれだけ瀟洒だった屋敷も門も見る影もなく、服のカケラさえ見つからなかった。なんなんだこれは、さすがにガッカリしちゃった。理由は推測するしかないけど、あの門や建物さえ、神の力で維持していたとか。その冥界の神が滅んだら、建物も滅ぶってことで良いみたい。

 ナルメルには冥界の女王になるっていったけど、女王も何もミサキ一人しか残っていない感じ。いや、神が死んだナルメルが宮殿にいるか。どうしよう、宮殿に戻って人になったナルメルに相談するのもあるけど、神が去ったナルメルじゃ役に立たないだろうな。ましてや、結果的に男と女が一人ずつ残ったからって一緒に暮らすのも気が乗らない。そうなると入り口だったところに戻るしか今は考えられないわ。


 問題なのは殆ど出れた神はいない事なのよね。すっごく強大だったはずのニンフルサグやエンキドゥだって出れなかったんだ。出れなかったが故にナルメルに屈してしまったともいえる。

 出れたのはイナンナがやった身代わり方式かエンキドゥのバイパス方式。エンキドゥ方式は無理そうだからイナンナ方式に期待するしかないんだけど、今のところ身代わりはいそうにないのよねぇ。

 でも身代わりはいないけど、イナンナ方式は再考の余地はありそう。イナンナの時はフル・コースでやられまくったとすると、門の機能は健在じゃん。あの身代わりって、門を逆に戻る時の通行料ぐらいに見たらどうだろう。代わりに行ったのはドゥムジだからガチホモ地獄に・・・それはもうイイか。

 ミサキの場合は門どころか冥界の神まで皆殺し状態にしてるから、帰りもフリー・パス。イナンナもエレシュキガルの軛にかかっていないから、ミサキも表口から出られれば地上界に無事戻れる可能性はあるかも。

 ミサキはひたすら陰鬱な道を戻ります。第二の門、第一の門の廃虚を通り過ぎて、洞窟はやがて行き止まりに。えっと、えっと、この辺のはず。なんとなく見覚えがあるし、空気だって入った時にはゲッて感じのところだったけど、冥界の神殿とかに較べると遥かにマシな感じがするもの。きっとここは地上界に一番近いところのはずよ。

 入って来た扉はやっぱりないけど、あれはきっと中からは開けられないというか、ナルメルしか開けられない細工が施されているでイイ気がする。さてどうしよう。押したぐらいじゃビクともしないし。ここを突破できないと帰れないじゃない。

 ダイナマイトでもあれば吹き飛ばせると思うけど、そんなものが冥界にあるとは思えないし、女神の力で突破するには・・・シノブ専務の一撃よね。あれは物凄い威力だった。見たのはデイオルタス事件で監禁された船室からのものだけだけど、船室の天井をぶち破っただけじゃなく、ブリッジまで貫いて操船不能にしちゃったもの。

 でも一撃ってどうやって放つのだろ。やっぱり教えてもらっとけば良かった。たしか、とにかく集中してパワーを一点に絞って押し出すらしいのだけど、ヒントはそれだけしかないし。ぶつぶつボヤいて悩んでても仕方ないか。とにかくやってみよう。

    「集中、集中」
 ミサキは呪文のように唱えながら、とにかく右手の指先にパワーが集まるように念じまくった。最初はなんにも起らなかったけど、やっているうちに体内のエネルギーの流れを感じて来たの。そうなの、この流れ方、流し方は癒しのパワーを送る時のものに近い感じじゃない。だったらミサキにも出来るはず、ひたすら念じ、パワーを指先に集めるように、あれこれやってるうちに、指先にパワーがドンドン集まる感じがしてきた。なにか痛いぐらいに集まったと思った瞬間に、
    『ドッカ~ン』

 なんか出たけど物凄い爆風にミサキも薙ぎ倒されちゃった。もうもうたる煙が立ち込めたんだけど、薄れゆく意識の中で、

    「よくやったわ。ミサキちゃん」
    「ルナのところにビールも冷やしてあるで」
 これだけ聞こえて意識を失いました。助かったのかも・・・しれない。