続々バイクも恋も若葉マーク(第36話)蕎麦切りの歴史

「後はカノンに任せた」

 ここでワンツーリターンをされるとは。蕎麦自体は縄文時代に伝わったされるぐらい古いのだけど、これが蕎麦切りになったの戦国時代ぐらいとされてるのが通説かな。

「そんなに遅いのですか」

 うどんは古くは麦切りと呼ばれてみたいだけど、蕎麦切りが遅かったのは麺にするのが難しかったらかもしれないよ。小麦粉は練ればグルテンが出て来て麺になるけど、蕎麦にはグルテンが含まれてないからね。

「やっぱり信州発祥説になるかな」

 甲州説もあるらしいけど、要は米が育ちにくいところのはず。食糧不足になりやすいところだから、なんとかして蕎麦を美味しく食べようとして生み出されたんじゃないかな。発祥が信州かどうかは言い出したら果てしなくなるかもしれないけど、信州全体に早くから広まったぐらいは言っても良いはず。

 と言うのも、蕎麦どころとして有名なところは、江戸時代の大名のお国替えに端を発してるところが多いとされてるのよ。

「出石も信州から大名が引っ越してきて、その時に蕎麦職人を連れて来たのが始まりとなってるじゃない」

 もうちょっと言えば信州にお国替えになった大名とその家来が、信州そばの味を覚え、次の引っ越し先でも食べたいと思ったぐらいだ。江戸だって信州から持ち込まれた蕎麦が大ヒットしたからだってされてるもの。

「関西はさらに遅れてのはずですよね」

 そうなってるはず。蕎麦切りはよほど日本人の好みに合ってたみたいで、今では全国どこでもあるものね。でも古来からのものじゃなくて、江戸時代に突然出て来たみたいな新顔で良いはずだよ。関西はうどんって言うけど、蕎麦好きの人は多いだろ。

「うどんとお蕎麦がセットみたいにメニューにあります」

 グルテンを含まない蕎麦粉をどうやって麺にしていたのかは謎だけど、後世のそば職人が蕎麦粉だけの麺を打つ技術を編み出したからじゃないと思うな。どうしてもボロボロ崩れるから、それこそ山芋とかのツナギを入れたぐらいじゃないと思ってる。

 そんな蕎麦切りの革命を起こしたのが江戸のはず。ツナギに小麦粉を使う二八蕎麦の発明だよ。スーパーとかで売ってる蕎麦は全部そうのはずなんだ。これは他のツナギを使うより格段に作りやすくなったと思うんだ。

「蕎麦と言えば二八蕎麦って言いますものね」

 二八蕎麦が生まれたのは享保年間とするのが定説みたいだけど、それ以前から蕎麦粉と小麦粉を混ぜて麺にするのはポピュラーだったとする説もあったな。小麦粉が多い方が麺にしやすいだろうけど、

「小麦粉の方が安かったとか」

 そんな気もする。と言うのも小麦粉八割、蕎麦粉二割ってのもあったらしくて、それの評判が悪かったなんて話も残っているとか、いないとか。たぶんあれこれ配合を変えた末に二八蕎麦になっていたぐらいかも。

「それにしても、たぶんとか、おそらくが多いですね」

 アオイも歴研会員だからこれぐらいは覚えといて。歴史って記録されたものを探る学問じゃない。けどね、記録されてる事なんてわずかしかないんだって。

「とくに食べ物みたいな日常的なものは乏しいなんてものじゃないんだって」

 歴史で記録されるものは大事件だもの。それこそ、有名人が何かをしたとかの類が中心だ。その有名人が何を食べていて、何が好きだったかさえまず記録に残されてない。

「王朝文化華やかなりし頃も、武家社会になっても宴会はやってるけど、その内容の記録さえ残ってる方が珍しいぐらい。蕎麦みたいな庶民の食べ物なんてもっとってこと」

 服装すらそうだもの。古いものは絵巻物が頼りだし、江戸時代だったら浮世絵かな。そんなものさえない時代となると、完全に謎になるのが歴史だ。蕎麦みたいなポピュラーなもので、しかも戦国時代ぐらいに誕生したものでもこれぐらいしかわからないって事だ。

「ゴメン、ゴメン。カノンはだいぶ歴研派に寄ってるからね。山学の歴研は旅研派でもOKだから、別に知らなくてもかまわないよ」

 カノンは今でも中間派だ! まあ和食の歴史も考えてみればミステリーなんだよね。日本で最初の豪華料理は、それこそ大和朝廷時代の宴会料理のはずだけど、どんな料理だったかなんて誰も知らないはず。

 貴族文化が華開いた平安時代の王朝料理も断片的にしかわかってない。そういう公家の時代は武家に取って代わられるのだけど、

「武家の宴会料理が本膳料理だけど・・・」

 ここまで歴史が下ると残される記録も増えて来るけど、その本膳料理が現在の和食の直接の先祖かと言われたら微妙過ぎる。エッセンスは入ってるだろうけど、和食の御馳走料理と言えばなんだかわかるだろ。

「懐石料理です」

 あれって禅寺の精進料理からのものじゃないの。それを茶の湯が取り入れて茶懐石にしたはず。だったらさ、和食のルーツは中華料理になるじゃないの。この辺も精進料理が日本に伝来してから、それこそ変わりまくり、

「当時だったら、日本で中国と一緒のは作れないだろ。同じ材料があるとも思えないよ」

 言い出せば王朝料理だって中国の影響はあったはず。本膳料理ですら、

「あの頃の文化の力関係から無いとする方が無理あるよ」

 さらに本膳料理だけじゃなく、王朝料理のエッセンスも懐石料理に入ってるはずだものね。

「美味しければ、それでハッピー」

 それが結論だ。メシは理屈で食べるものじゃない。

「どこかの国は起源説が大好きだけど、あの熱意は理解できないな」

 とくに料理は意味無いな。料理の歴史なんかどこの国もあやふやなのは万国共通だ。とくに古いものほどそう。そもそも、いつ誰が作り出したなんか、わかってる方がレアだ。それにさ、料理に関してはオリジナルの味なんて絶対視されないのよね。

「海外に行って、本場の味を食べてガッカリした話なんていくらでもあるじゃない」

 オリジナルがその国に住んでいる人の好みに合わせて改良されるのは当たり前で、その時点で別物になってしまってる事なんていくらでもある。料理のルーツや起源なんて、グルメ気取りが能書きを垂れるぐらいの価値しかないよ。

「やっぱり、食べて自分が美味しいと思うものが最高だ」

 そろそろ帰ろう。神戸までは遠いぞ。