ツーリング日和30(第15話)インスタスポット巡り

 岡崎公園展望台から先にはバイクじゃ無理らしくて引き返したけど、ここを右に行くってことは壇山の方に戻らないって事よね。

「ピストンはつまらんやん」

 そりゃ、そうなんだけど、この道だってなんなんだよ。まさか豊島で林道ツーリングをやらされるとは思わなかったぞ。コータローは愛する妻を酷い目に遭わせるのが趣味のサディストなのか。

 これが結婚してからわかってくる相手の本性ってやつのはずだ。こんなもの同棲したぐらいで見抜けるはずないよな。ぎゃぁ、リアが滑った。落ち葉って怖いのよ。転んだら、どう責任を取るつもりだ。

「死ぬまで保証や」

 だったら殺されたら終わりじゃないか。陰険極まるコータローのことだから、たんまり生命保険に入れてるはずだ。こんなところで谷に落ちたら、それこそ白骨化したって見つからないもの。たんまり生命保険をせしめたコータローは他の女と、

「やっと人家が見えて来たぞ」

 やったぁ、ついにコータローの陰謀を打ち破って生き延びられたぞ、思い知ったか。

「なにを思い知るんや」

 とはいえ狭い道だな。コータローは分かれ道の前で少し考えて、

「右に行ってみよ」

 すぐに分かれ道があり、

「う~ん、左に行ってみるか」

 だからナビを積めって言ってるだろうが。せめてナビを取り出して見ろよな。とは言うもの迷路みたいだ。それでも海が見えて来たぞ。うわぁ、道が三つに分かてる。ここは、気分として真ん中よね。

 やっとセンターラインこそないものの、路側もかもちゃんとある広そうな道に出て来たぞ。えっ、またそんな怪しげな道に入ろうって言うの。なんて愛が無いのよ。あれだけの山道で疲弊した妻を労わる気持ちも無くなったのか、

「唐櫃の清水いうて」

 綺麗な石組になってるけど、喉の乾いた弘法大師が掘り出したのが始まりで霊泉越水とも呼ばれるとか。霊泉越水なんてなれば万病に効くが定番だけど、

「上に三つの水槽と下に大きめの水槽があるやん。あれは水槽ごとに野菜を洗うとことか、洗濯物をすすぐところって決まってるねんて」

 ここで地域の奥さんたちは井戸端会議に花を咲かせていたとか。井戸端会議は井戸から水を汲み上げるけど、ここのは湧き水だからラクチンそうだ。

「それとあっち見てみい」

 あっちって来た道の方よね。なんか錆び錆びの遊具の出来損ないみたいなのがあるけど、

「空の粒子やねんて」

 なんだそれ。現代アートはようわからん。唐櫃の清水の守り神みたいな荒神社にもお参りして、コータローがナビと睨めっこしてるじゃないの。

「もうメシでエエか」

 良いに決まってるじゃないの。山道が辛かったのは道が悪かったにもあるけど、それ以上に空腹が辛すぎた。だって朝食抜きじゃないの。医者なら健康に良くないのは常識だろ。千草は飢えてるんだ。

「ちょっと遠回りになるけど、ここしかあらへんみたいやねん」

 唐櫃の清水から引き返すと広い道になるけど、ここはどうも島内周回道路の県道で良さそうだ。これを家浦に向かって五分ぐらい走ると。

「ここみたいや」

 二階建てのレンガ造り風の外壁の店だ。民宿もやってるみただけど、とにかくメシだ。メニューは・・・これリーズナブルだ。ハンバーグ定食が八百円でトンカツ定食が八百五十円じゃないの。

 千草はハンバーグ定食にしてみたけど、目玉焼きも付いてて、サラダもしっかり盛ってあって、味噌汁に大盛ご飯が嬉しいよ。やっと人心地がついた気分だ。どうもこの店は観光客向けと言うより地元の人向けの店でもあるようだけど、

「そやけどタコピリ辛とかニシ貝のハーブ岩塩焼もあるで」

 高いからパスだ。だって朝食だぞ。

「ハンバーグ定食を食べながら言われてもな」

 コータローはあれこれ豊島の名所的な店を探していたみたいだけど、平日が休みとか、予約が必要とかもあったし、

「営業開始が十一時とか十一時半とかばっかりやねん」

 それは良くないよ。だって小豆島へのフェリーの時刻は十二時十分でしょ。

「そうなんよ。ルート的には、フェリー乗り場がある唐櫃の辺にあったら良かってんけどあらへんねん」

 こんな島だものね。食べれたら満足だし、これはこれで美味しいよ。HPも回復したから今度は唐櫃方面に。わぉ、なんと、なんと、センターラインが現れたぞ。海に向かっての下り坂でコータローはバイクを停めて、

「インスタスポットやねんて」

 なるほど。まるで道が海に向かって走って行くように見えるって事だね。そこからもワインディングで下ってくけど、海が見えるのは嬉しいな。街に入ってきたけど唐櫃のはず。やがて道は突き当りになるのだけど、

「ここもインスタスポットとして有名やそうやねん」

 ここって思ったけど、たしかにこういうのは他に見た事ない気がする。T字路になってるのだけど、低い堤防の向こうに海が見えて、その真ん中にカーブミラーなんだけど、これが一本のポールから左右にあるんだよね。

 さっきの下り坂のところもそうだけどバイクや自転車を停めて写真を撮ってる人が多いのよね。もちろん千草も撮ったよ。この二か所は豊島の観光スポットでも定番中の定番なんだってさ。

「もう一つ定番行っとこ」

 なんか広場みたいなところの奥に妙な形のバスケットゴールがあるけど、

「勝者はいないって現代アートやて」

 こうなると判じ物だ。ボードはアメリカ本土みたいで、そこに六つのバスケのゴールがあるけど、こういうのって、

「あったな。芸能人のゲーム番組」

 これだったらさ、ごく当たり前のバスケのゴールの方が喜ぶ人が多いのじゃないかな。

「それは言わへんのがお約束やろ」

 スポーツ用具とアートを一緒にするなって事だろうな。現代アートも満喫したから港に行こう。