ツーリング日和30(第12話)直島

 宇野から直島への航路は風戸ってところと、本村ってところと、宮浦ってところに三本あるみたいだけど、フェリーが就航してるのは宮浦行きだけ。でもそれだけ航路があるってことは利用する人も多いのだろうな。

 動画の人も、しまなみ海道を越えて、尾道から走って来てこのフェリーに乗ったはず。だから、どうしたって話じゃないけど、しばしの船旅だ。それにしても徒歩の人が多いな。地元の人もいるだろうけど観光客も多そうだ。

 デッキに出ても、これだけ乗り込んでたのか。直島って三千人ぐらいが住む、周囲が十六キロぐらいの小さな島なんだよ。そんな島にこれだけの観光客が集まるのは、

「千草もその一人やろうが」

 まあ、そうだ。なんでも現代アートを積極的に取り入れたとかで、売り文句は現代アートの聖地とか、なんとか。そういうところは他にもあったと思うけど、かなりの成功例ぐらいで良いはず。

 しばしと言うか、二十分ほどの船旅で直島に到着。ゲートが開いていざ上陸だ。これで直島にもモンキーの轍を刻めたぞ。というかさ、直島のフェリー乗り場でデラックスじゃないの。だってだよ、こんな広い屋根があるところなんて初めてだよ。

「これもアートなんやろか」

 どうだろ。フェリー乗り場からまず向かったのは、隣接している赤かぼちゃ。港の芝生広場の海寄りの端っこぐらいにポツンって感じであった。回りがだだっ広いからそんなには大きく見えなかったけど、近づいてみるとこれは大きいな。

「なんでかぼちゃで、なんで赤いんやろ」

 千草聞くな。それが現代アートのはずだ。へぇ、中はくり抜かれていて入れるようになってるのか。

「子どもの秘密基地みたいやな」

 それわかる。そんな遊具が明石公園にもあったはず。

「土管を埋め込んだトンネルみたいなやっちゃろ。今でもあるんやろか」

 どうなんだろうな。そうそう港の前にはレンタルバイクやレンタル電動自転車が何軒かあって、徒歩で来た人は借りる人も多いみたい。なんでも、わざわざバイクで乗り込むより割安だそう。

 赤いかぼちゃを見たら海岸線沿いに沿って南下。これはシーサイドロードではあるけど、結構な登りだ。モンキーのエンジンも張り切りだした。

「小さな島やけどアップダウンが多いさかい、自転車やったら大変やそうや」

 サイクリストなら楽しめるだろうけど、一般の人にはキツ過ぎるとか。たしかにそんな感じみたい。だからレンタルもバイクと電動自転車になってるそう。峠越えで着いたのが地中美術館。

 てっきり地中海美術館と思い込んでたけど、そうじゃなくて地中にある美術館なんだ。モネの睡蓮もあったけど、これが、

「現代アートってやつやろな」

 それとだけど、この作りってもしかして、

「千草でもわかったか。県立美術館と同じや」

 安藤忠雄か。そうなると、さぞ使いにくいんだろうな。

「そのうちカビだらけになるんちゃうか」

 安藤作品だものね。この辺一帯は地中美術館も含めてベネッセグループが作ったものだとか。ベネッセって進研ゼミのところよね。

「岡山が本社やねんて」

 そうだったのか。社会還元ってやつだろうな。それは良いのだけど、地中美術館のもう少し先にゲートがあって、バイクどころか自転車も進入禁止になってたから迂回する事にした。これも結構な山越えだな。なんとか海岸線に下りて来たら、こっちにもベネッセのゲートがあるのか。

「ここは見とかんとあかんやろ」

 ゲートの手前に駐輪場と書いてある広場みたいなのがあったから、そこにバイクを停めさせてもらった。その駐輪場からも見えてたのが石の鳥居なのだけど、あれって火山の噴火でもあったの。

「そうやのうて、砂が溜まって埋まってもたんやと思うわ」

 千草でも手が届くぐらい低いのだけど、これが何故か天空の鳥居って呼ばれてるとか。なんでだろ。そこから引き返してベネッセのゲートに。徒歩なら通れるのよ。見える、見える、突堤の先に黄色のかぼちゃだ。

 こっちは中に入れないのだけど、港にあった赤いかぼちゃと対になってるぐらいで良いはず。

「こっちの方がカボチャやな」

 赤いかぼちゃはあんまり食べたくないものね。赤と黄色のかぼちゃを制覇したから北上だ。着いたのが本村だけど、こっちに町役場があるらしいから島の中心街になるぐらいかな。ここの見どころは家プロジェクト。

「先に宿に行こうや」

 そうだ、そうだ。あの動画のカブの女が泊った宿はどこなの。

「ここや。今日泊るで」

 たしかにここだ。うどん屋と併設されてたものね。カブが似合うって言ってたけどモンキーだって似合うぞ。

「なに張り合ってるねん」

 なんか動画巡礼みたいなことやってるけど、コータローによるとかなり編集が入ってるみたいで、

「編集なんか勘違いなんか、そもそもどうやって撮ったかわからんわ」

 フェリー乗り場のシーンは本村港だろうって。宮浦港とは違うものね。そこから突堤でフェリーを見ながらカブと一緒に乗って来たって言ってたけど、

「上陸シーンはオレらと同じ宮浦港や。どう見ても一緒やからな。そやから宮浦から本村に移動したはずやんか」

 本村港でも旅客船が見えたから、演出であの船て来たって言ったはずだって。それぐらいは許容範囲で良いともしてたけど、

「灯台が謎過ぎる」

 動画の感じなら街をぶらつきながら見つけたと言うか、見かけたって感じで、コータローもそのつもりで探したみたいなんだけど、

「どない探しても直島にあらへんねん」

 やっと探し当てたのだけど、

「あれって男木島にあるねんよ」

 男木島は直島の南東ぐらいにあって、男木島灯台にはキャンプ場もあるそう。小さいけど町もあるから、灯台を動画に組み入れるためにわざわざ行ったのかと思ったそうだけど、

「男木島は直島からも宇野からも行けへんねん。行こうと思うたら高松からになるねん」

 ひょぇぇぇ、それじゃあ、行けるわけがないよ。もし直島から撮ったのならかなりの望遠レンズが必要そうだけど、

「あの女の子はカメラも得意そうやけど、そこまでの望遠レンズを持って行くとは思えへん」

 だからどうしたんだろうって。いかにも直島にあったら似合いそうな灯台だったけど、あれってもしかして。

「言わぬが花やろ」

 そんな話をしながらブラブラと家プロジェクトを見て回った。でもさぁ、でもさぁ、これが現代アートなんだろうけど、

「言うな。百年先なんか誰にもわからん」

 現代アートを頭から否定する気なんて毛頭ないけど、こういうアートって残って行くんだろうかと思うことがあるのよね。そりゃさ、今に残る芸術品だって、出来た頃はそう思われていたのかもしれないけど、

「オレらの孫世代になったら古典になってるかもしれんやん。そやけどな、残るんは、ほんの一握りや。オレかって現代のアートの端っこぐらいで仕事はしとるけど、まず後世には残らんやろ」