ツーリング日和23(第20話)明姫幹線

 社長のマンションにお出迎えだ。社長夫人が待ってるとは恐縮だけど社長は、

「会社の研究室に行っております」

 そ、そうなるか。それでも驚くほど変わってるのだよな。だって毎日家に帰るようになったんだもの。ところで社長夫人・・・・

「それはやめて下さい。会社とか公式の場では仕方ありませんが、プライベートでは流花とお呼び下さい」

 じゃあ流花夫人。

「お願いですから流花とお呼び下さい」

 山麓バイパスから西神中央を目指してまずは出発だ。流花が星雷社に入った頃を思い出すな。社長から宜しくって感じで営業に配属になったのだけど、あの時は社長が何を考えているのかと思ったもの。だってだぞ、御指名で美玖に新人教育をさせやがったんだ。

「とんでもございません。まだ高卒の右も左もわからない流花に当時の主任であった部長が、それこそ社会人のイロハから教えて頂きました」

 たしかにイロハからだったけど、美玖の新人教育はとにかくアンゴルモアの恐怖の大王だから、逃げ出してしまわないかとあの時ほど心配したことがなかったもの。よく耐え抜けたものだ。辛くなかったのか。

「辛くなかったと言えばウソになります。ですが、あの時の流花には他に行くところなどありませんでした。ここで逃げ出したらすべてが終わるとひたすら耐えました」

 そうだったよな。体を売るところまで追いつめられていたものな。それでも美玖だぞ。

「そりゃ、もう怖いなんてものではなかったです。呼吸の仕方まで厳しく指導されましたから。ですがあの教えを身に着けられたからこそ、今の流花があります。部長には本当に感謝しています」

 なぜかそうなるんだよな。

「立場は変われども流花は部長の永遠のしもべです」

 こうやって最後は例外なく美玖の崇拝者になってしまう。そうだそうだ、プライベートの美玖に会った感想は、

「あのツーリングに行く前は正直なところドキドキしていました。今度はバイクの乗り方まで指導されるのじゃないかと」

 あははは、美玖ならやりかねないけど、

「あんなに話しやすくて優しい人なのに驚かされました」

 すっかり友だちになってたものな。

「それにしても忍者ハットリ君から今の部長になられた時は驚きました。誰だかわかりませんでした」

 そりゃ、わからんよ。ボクだって初めて見た時には誰だかわからなかったもの。

「専務が部長に惚れた理由がよくわかりました」

 そこはそうじゃないけど、あんなもの説明したってわかんないだろ。そう思われているのなら、それで良いか。そしたら美玖は、

「そこは違います。剛紀が惚れたのは忍者ハットリ君の美玖であり、剛紀の愛を確認してから今の美玖に戻っています」

 そんな説明では余計に混乱するだけだろうが! 全部説明してたらひたすら長くなるし、あの出張の夜の事件なんて他人に話せるものじゃない。

「え、えっとどこに専務が惚れられたのですか?」
「性格です」

 美玖の性格はツンデレだ。もっともツンとなれば七洋の夜叉であり、アンゴルモアの恐怖の大王のツンだ。どれだけの恐ろしいものか流花も骨身に沁みて知ってるはずだ。一方のデレも強烈なんてものじゃない。どれだけ泣き虫で心配性なことか。

「誰がツンデレなのですか。立派なヤンデレです」

 ヤンデレを立派と言うな! 妙な誤解をされるだろうが。まあヤンデレ気質もあるのは否定しない。とにかく惚れたらこれでもかの一途だ。そこにツンデレまで乗っかるから素直じゃないところは多々ある。

「ヤンデレなら剛紀の足元にも近づけません」

 ボクをヤンデレにするな。でもまあ、そうかもしれない。惚れたとなると一途は美玖ごときに負けるものか。

「似た者夫婦なんですねぇ」

 そんな下らない話で盛り上がりながら西神中央から国道百七十五号バイパスに。第二神明を潜り、明石川を渡り、仏壇の浜屋がある交差点を右折。これは県道二十一号だけど、直進すれば明姫幹線にそのまま入れる。

 明姫幹線に入ると西明石駅をすぐに潜る。これもややこしいところだけど、第二神明の位置付けは国道二号バイパスで、国道二号は別にある。当たり前か。明姫幹線は国道二五〇号になるけど、ルートとしては国道二号のさらに浜寄りになる。

 だから昔は浜国道と呼ばれ、今でもそう呼ぶ人もいる。これを国道二号の下道のバイパスとして整備されたのが明姫幹線と思えば良いと思う。

「今なら浜バイパスと呼ぶ人もいるそうです」

第二神明も加古川バイパスに接続するのだけど、明姫幹線も直進していくと加古川バイパスに繋がる。

「これで美玖も痛い目に遭っています」

 無料ナビの限界で今でもそうなる事が多いみたいなのだけど、ナビでルート設定をすると加古川バイパスを走りたがるんだよな。

「あれだけ新神戸トンネルは嫌がるのに」

 無料ナビでも高速道路や有料道路を除外する機能はあるけど、加古川バイパスも、姫路バイパスも、龍野太子バイパスも自動車専用道ではあるけど無料なんだ。だからすぐにそっちにルートを設定したがる。

 ちなみに新神戸トンネルは阪神高速道路の管理下になっているから、どうも阪神高速として認知している部分があるみたいでナビは逆に走りたがらない。無料だから文句も言いにくいところだ。

「小型バイクが走れるかどうかの違いがありすぎます」

 そう思う。バイクでも中型以上ならクルマと走れる道は同じだ。小型になると高速と自動車専用道が走れないのはシンプルだが、有料道路になるとまさしく多彩だ。自転車でもOKのところもあれば、原付でも一種はダメとかだ。

「有料ナビは高すぎます」

 需要の関係になるものな。だからツーリングルートにその手の道路がある時には事前にチェックしておくのは重要なんだ。

「志戸坂峠トンネルは鵺みたいなものでした」

 あんなものあそこ以外に存在するものか。さてと、加古川バイパスの高架が見えて来たな。高架の下を進んで行くと、

「次の信号を左折します」

 明姫幹線からの国道二五〇号はこちらになるだけど、対抗二車線の市街地の国道なんだよな。さらにだぞ、

「次の曽根の交差点を右折し、橋を渡って突き当りを左折です」

 さすがに自信がないし、あくまでもたぶんだけど、国道二五〇号って大昔の山陽道じゃないかと思ってる。山陽道は江戸期には西国街道になっているけど、江戸期には明石から大久保に向かうルートがメインになってたはずなんだ。

 新しい方の西国街道が国道二号になったぐらいの理解で良いはずなんだけど、明姫幹線が整備された時にルートの関係で北側にずれ、加古川バイパス接続で明姫幹線が終わるものだから南に強引に引っ張り込んだぐらいにも思えるかな。

 今日のルートは美玖が決めたけど、他にも裏道みたいなルートは地元の人なら知ってるとは思う。だけどそこまで美玖に望むのは無理あるよ。ボクだって無理だ。とにもかくにも道の駅みつまで耐え忍ぼう。