恋せし乙女の物語(第23話)アブとノーマル

 ロリコンとか、ましてやペドフィルなんて堪忍して欲しいよね。そもそもだよ、そんな歪んだ性癖があること自体が許せない。ああいう歪んだ性異常者はなんとかならないものかな。そしたら千秋は少し複雑な表情になって、

「なにをもって正常とか異常も時代によって変わるのよ」

 そんなもの決まってるじゃない。

「じゃあLGBTはどう考える」

 えっとお、

「LGBTはあくまでも少数派であって、異常とか歪んでるなんて言えばドヤされるよ」

 それぐらいは常識なのは知ってるけど、

「性癖とか性嗜好ってとにかく範囲が広すぎるところがある。そもそも正常って何かからになるからね」

 話はそこまで広がるのか。言われてみれば、異性を愛するのが正常なんて言えばLGBT問題で集中砲火を浴びてしまう。そうなると性行為のやり方はあるけど、バックが異常とか、騎乗位が犯罪的とか、坐位が変態って言えないよな。

 体位なんかほぼ無制限みたいなものだ。あきらかに異常と言うか、絶対にやられたくものならアナルはある。そうだよ、女だって突っ込まれるのは前が常識で、後ろなんて考えたくもないもの。

「ゲイなら通常行為そのものになるじゃない。それにゲイだけの専売特許でもない」

 うぅぅぅ、悔しいけど知っている。女だってアナル性交の知識はあるんだよね。仕入れ元で多いのはBLだ。きっとBLであんなに気持ちよさそうに描写されるものだから、興味を抱いて後ろも受け入れる女はいるんだよ。

 だからアナルと言って犯罪行為とは言えない。愛好者は少ないだけで、やってる人はやってるぐらいになってしまう。でもさぁ、あれを正常とは言えないよ。

「性行為を正常と異常に分けるのは無理があるのよね。だから、そうだね、ノーマルとアブぐらいに分けた方が良いんじゃないかな」

 ノーマルとアブって正常と異常を英語で言い換えてるだけじゃないか。千秋の見解はどうなんだ。

「猥談で盛り上がられるのがノーマルで、そこでも持ち出せないのがアブ」

 でひゃあ、こりゃまた大胆な。女同士の猥談って男より強烈って良く言われるけど、

「フェラぐらいならやり方講座まで出て来るじゃないの」

 明日菜に蘊蓄垂れたのは千秋だろうが、

「オモチャも珍しくもない」

 あんなもの出てくるものかと言いたいけど、割と出てくる。

「だけどアナルになると普通は出ない」

 誰が出すか! そんなもの自慢気に話せば変態とか色情狂と思われるじゃないか。なるほど、アブとノーマルの境目ってそんな感じなのか。

「オモチャだって使われたの体験談は出るけど、セルフでの過激な使用法は出ないだろ」

 同意を明日菜に求めるな。それに過激ってなんなのよ。言わんとするところはわかるけど、過激なら男にやられたって話せるものか。だいたいだよ、過激なオモチャの行き着く先は、

「SMになると隠すでしょ」

 当たり前じゃない。SでもMでも、そんな性癖をうっかり話せば大変な事になっちゃうよ。そっか、そっか、アブに属するような性行為は他人に知られたくないって事と考えれば良さそうだ。

 ノーマルが知られても良いとか、知って欲しいって訳じゃないけど、女同士の猥談で出してもさして気にならないレベルってことになりそうだ。これもあくまでも女同士って範囲になる。彼氏にも男友だちにも、

『やっぱりバックは最高』

 こんなものが話せるもんか。自分がヤリマンでビッチであるって宣言しているようなもんじゃない。

「そうそうそんな感じ。彼氏のクンニがたまらないとか、大きくて、逞しくて、夢中になっちゃうとかもね」

 彼氏となら二人のベッドで興奮しまくれば出て来るかもしれないというか、それを突っ込まれながら白状させられたり、あえて叫んで興奮を高めるのはある。だけどあれはアレの熱狂時間だけで、ベッドを下りたら口にもできるものか。千秋ならやりかねないけどね。でも、でも、そうなると、

「性行為では当人同士の同意の範囲はとにかく広いのよ」

 そ、そうなるのか。もっとも同意がなければ即レイプでアウトだけどね。

「性行為って秘め事だから司法は基本的に介入できないのよ。だから当人同士の合意による免責範囲はひたすら大きいってこと」

 だったらなんでもありって事になるの。

「傷害になって訴えられたらさすがにアウトだ」

 そりゃ傷害は絶対にダメだろ。

「でもないところがある。明日菜だって初体験の時は痛かったし、出血もしたでしょ。あれも傷害にはなるけど訴える女はいないよ」

 初体験とはそういうものだけど、見ようによっては傷害と言えなくも無いのか。

「SMなんか凄いよ。だってだよ、素っ裸にされてて身動きが取れないようにロープで縛り上げられ、あられもない姿を隠しようも出来なくされるじゃない」

 そ、そういうSMがあるのは知識として知っている。

「その状態で言葉の暴力を浴びせられるだけじゃなく、ムチやローソクだって出て来るじゃない」

 それがSMだけど、

「これって普通なら余裕で暴行罪じゃない。ムチで怪我したり、ロウソクで火傷したら傷害になるよ」

 でもそうならないのは当人同士の合意の性行為だからか。こりゃ、範囲は途轍もなく広いよ。

「輪姦体験まで試みる女もいるぐらいだからね」

 そんな女がいるものかと言いたいけど、乱交パーティがこの世に存在するぐらいは知っている。もちろん行ったことも、行く気もないけどね。でもあれって輪姦に限りなく近いはず。だってだよ、見ず知らずの相手を何人も何人も相手するはずだもの。

「刺激を求めあった一つの方向性だろうね」

 乱交パーティなんて絶対に参加しないけど、アレってそもそも日常世界の行為じゃないのよね。日常であれこれあるモラルを解き放った世界として良いと思う。だってだよ、アレで求めるのは感じること、そしてイクことじゃない。

「女が全員そうじゃないけど、そのイク世界に入れればそうなるよね。明日菜も入ったものね」

 言うな。でも、入ってしまったし、入れることが出来て嬉しかったのもウソじゃない、あの熱狂の世界では、より感じるための刺激へのブレーキは麻痺するところもある。より強い刺激により、より感じる事がすべての目的みたいになっていくのはわかる。あれって一種の麻薬みたいなものかもしれない。

 乱交パーティで得られる刺激は見知らぬ男を次々と経験できる点はあるのかもしれない。さらにそう言う場の空気だけでも強烈過ぎる刺激になるのかもしれない。そんな強烈な刺激を知ってしまうと、その刺激をまた求めてしまうのだろうな。

 彼氏とのアレでも刺激を求めあうけど、乱交パーティならさらに強烈のはず。そこにSM的要素が加味なんてされようものなら、現代のソドムとゴモラになりそうだ。それにしても千秋は詳しいだけじゃなく、アブへの理解が前向きだ。

「男にも色んな性癖があるからね。それに合わせるのも惚れた弱味かな」

 千秋はたしかに男の切り替えはドライだったけど、付き合っている間は尽くし型じゃないかと思うぐらいなのよね。じゃあじゃあ、すべて経験したとか。

「すべてじゃないよ、それなりにぐらい」

 千秋の『それなりに』は空恐ろしい。きっと前と後ろをオモチャで貫かれた上で固定され、完全に身動きが取れなくされた上で、そこからスイッチオンの放置プレイで泡吹くまで悶絶、さらに失神するまで経験したとか。

「あははは、明日菜はやられたの? 妙に具体的で詳しいじゃない」

 ギャフン。あ、あるはずないでしょうが、

「でもそれぐらいは妄想するよね」

 だ か ら、同意を求めるな。だけど妄想ならしたことはある。言っとくけどそんな妄想をするのは異常でも変態でもない。どんな女でも多かれ、少なかれするんだよ。いわゆる被レイプ願望ってやつだ。

「好きなシチュエーションはやっぱりSM?」

 うぅ、それもあった。けどね、ここを誤解する男が多すぎる。妄想と現実はまったく違う世界なんだよ。もし現実でそんな状況に陥ったら死に物狂いで拒否するよ。でも千秋なら、

「それはわたしだってそう。惚れた男の趣味に合わせるのとはまったく別の話だからね」

 だけどさ、千秋の経験が豊富なのは間違いないじゃない。そんな千秋を満足させている今の彼氏とやってるのは凄いのだろうね。

「あのねぇ、人を淫乱みたいに思わないでくれる。そりゃ、満足してもらうようには頑張ってるけど」

 千秋が頑張るはとにかく怖いんだけど

「明日菜もあったでしょ」

 言いたくないけどあった。とても口に出来るようなものじゃないけど、あれこれはあった。始まりは明日菜の下草だった。あのロリコンのペドフィルの変態野郎は剃りたがったんだよ。そんなもの絶対に無理って頑張ってたけど、あれだけ頼み込まれたら最後はウンと言っちゃったのよね。

 でもさぁ、女は濃さにもよるけど、TPOとして下草の処理はするの。濃い人だけじゃなく生え方によってはショーツからもはみ出しちゃうし、水着なんかになったらモロなのよ。はみ出してるのを見られたくないし、見られた恥しいなんてものじゃない。

「そう言うけど明日菜のあそこはパイパンじゃない」

 言うな。それにパイパンじゃない。こん畜生と思うぐらい薄くて範囲が狭いだけでちゃんとあるんだから、

「というか、剃ってるかどうかなんて誰がわかるものか」

 だから言うな。これもコンプレックスの一つなんだから。その程度だから押し切られて了解してしまったのはあるけどね。

「それ以外は?」

 あんなもの千秋にだって言えるか。でも、なんとなくアブに傾く女の気持ちだけはわかった気がした。やりたい訳じゃないけど、求められると拒否しきれないところがあるんだよね。それで一度許すとOKになっちゃうし、次のアブ行為への拒否も弱くなる流れかな。

「秘め事の秘め事たるところかもね。明日菜みたいなネンネでもそこまでやるんだもの」

 だからそこまで言わせるな。ああまたムカムカしてきた。明日菜のあるかないかの下草を剃り落したのもロリータ性の強調のためじゃない。そこからだって、

「ありえる範囲のアブだよ。ちょっと激しいカップルなら、誰でもやってる範囲じゃない」

 そこまで知ってるわけないでしょうが。明日菜で大問題なのは、相手がロリコン変態野郎だったことなんだ。それに嬉々として協力して、喜ばされていたなんて、どこまで行っても救われないよ。

「ロリコン変態野郎じゃなかったら良かったの」

 そ、それはって、そんなもの答えられるか。

「その辺はネンネだね」

 ほっとけ。