恋せし乙女の物語(第21話)旧友の来訪

 なんとか週末までたどりついで死んでたら千秋から、

「会いたい」

 との連絡があった。千秋とは大学を卒業してから会ってないから唐突とも感じたけど、

「久しぶりに部屋に遊びに行きたい」

 大学から下宿は変わってないけど、千秋にも会いたいからOKした。千秋はビールとワイン抱えて御来訪。こりゃ泊りにする気かも。

「ここも変わってないね。懐かしいよ」

 千秋らしいな。昔とちっとも変ってない。

「そうでもないよ彼氏が出来た」

 あれから何十人目だ。

「これで決まり。掘り出し物だよ」

 へぇ、千秋の厳しい条件をクリアできる男がいたんだ。そりゃ、良かった。聞くともう二年ぐらいの付き合いみたいで、

「結婚も考えてる」

 どっひゃぁ、千秋が結婚するって言うの。

「わたしだって女だよ。結婚ぐらいするよ」

 そりゃそうだけど、とりあえず式への出席は約束した。日取りはこれからだそうだけど、プロポーズはもちろんだけど親への挨拶も終わっていて、会場探しをしてるぐらいで良さそう。それから昔の友だちの消息とかの話になった。結婚してるのもいたし、子どもが産まれてるところもあった。

「出来ちゃった婚だって聞いたよ」

 もう離婚してるのいたのはちょっと驚いた。絢美の結婚の話もしたけど、

「へぇ、あのまま亀野君とゴールインしたとはね」

 千秋と絢美は少し距離があったから知らなかったのか。というか、絢美とカメ君のカップルが出来てから千秋のグループに強引に引っ張り込まれたようなものだものね。話題は尽きないって感じになるけど、ちょっと違和感がある。

 明日菜とアキラの話題を避けてる感じがする。明日菜だって今は触れたくないけど、一方で千秋に聞いてもらいたいのもあるのにだ。それなのにアキラの話題に近づきそうになると千秋は避けてる気がする。そう思ってたら、

「ところでさぁ、警察に呼ばれて大変だったね」

 いきなり来たぁ。来たのは良いけどどうして知ってるんだよ。

「あれはアキラ君の一番親しい友人が明日菜だから確認の意味だけだよ」

 そうは言うけど重大な容疑があったとしてたんだぞ。

「なにが重大よ。呼ばれたのはあくまでも参考人としてじゃない」

 それもググった。最初は参考人として呼んでおいて、容疑が固まれば逮捕するのが警察の常套手段。

「そういう事もあるけど、明日菜は本当の意味の参考人」

 でも容疑者扱いされたぞ。

「してないって、もしかしたら手引きしている可能性を考えただけ」

 ほらみろ容疑者扱いだ。

「明日菜の顔を見た瞬間に無関係ないしむしろ被害者だとわかったって言ってたよ」

 言ってたって誰がだ。まさかあの表面的にはニコやかに笑いながら、腹の中では陰険な事を企む、冷酷非情な国家権力の手先の刑事と千秋は知り合いとでも言うの。

「あのね、啓介のことをそこまで言わないでくれる」

 えっ、啓介って、まさかあの刑事のこと。それも名前呼びしてるってことは、

「婚約者の真田啓介警部補。だからここでの話は絶対の秘密にしといてね」

 するする。国家権力に逆らったりしたら拉致されて人知れず抹殺されるからね。

「どこの独裁国家の話をしてるのよ」

 千秋の話によると真田警部補は尋問の前に、

「尋問じゃなくて事情聴取だって」

 明日菜が千秋の大学時代の友だちなのはわかっていたそうなんだ。それなら、もうちょっと取り扱いを配慮してくれたって良いじゃない。

「おかしいな、言ったって聞いたよ」

 逆上しすぎて耳に入ってなかったかも。あんな状況になれば誰でもそうなるに決まってるじゃない。そんな事を考えたら千秋の顔が今まで見たことがないぐらい真剣なものになり、

「これから聞いてもらう話は明日菜にとって辛いだけでなく、ショック過ぎる話になる。でも明日菜は聞かないといけないし、ショックも乗り越えないといけない。覚悟を決めて聞いてね」

 怖すぎるよ。

「まずアキラ君にかけられている容疑は青少年保護条例二十一条第一項違反よ」

 それでわかるか! 千秋も補足してくれたのだけど世にいう淫行条例のことらしい。それって、

「十八歳未満を相手に性行為を行ったってこと」

 ま、まさかアキラが、

「明日菜が入るのを禁止されていた部屋がプレイルームだったのよ」

 聞きたくない、信じたくない。明日菜と付き合いながら他の女、それも高校生を連れ込んでいたなんて。

「高校生じゃない中学生だよ」

 ガ~ン。高校生なら援助交際とか、パパ活してるのはいるぐらいは知っている。もちろんアキラが高校生相手にやってるだけでもショックも良いところだけど、これが中学生になると頭がクラクラする。そんな兆候はいつから。

「聞きたいよね。後出しジャンケンそのものだけど、学生の時から気にはなってたんだ」

 そう言えば千秋はアキラとの交際に全面賛成って感じじゃなかった。なぜか奥歯に引っかかる言い方をしていた。あれはなんだったの。

「知っての通りアキラ君はあのイケメンでリッチだったから、そりゃ、もうモテてた。アキラ君を狙っていた女の数なんてわからないぐらい」

 それは明日菜も知っている。

「告った女だけでも両手両足ぐらいはいたはず。でも誰とも付き合っていないのよね」

 それも知っている。

「そんなアキラ君が入れ込んだのがなぜか明日菜だ。わからないでもなかったけど、明日菜って大人しい方だからちょっと意外だった」

 まあそうだった。明日菜も意外過ぎたもの。でもアキラは本当に明日菜のことを愛してくれたし、大切にもしてくれた。あれが一時の気まぐれとは思えないよ。

「アキラ君が明日菜を愛していたのは認める。だけどね、あれはある種の代用品だったとしても良いかもしれない」

 代用品? それってヤル用の女だってこと。

「ちょっと違うかな。少なくとも学生時代は本気で愛していたかもしれない。そうだね、明日菜がアキラ君の本当の性嗜好を呼び覚ましたで良いはず」

 そう言うけど、明日菜とアキラは同い年じゃない。同い年を相手にしてロリコンやましてやベドフィルなんて成立するはずないじゃない。

「普通はね。だからこそアキラ君は明日菜を選び愛したんだ」

 どういうことよ。