恋せし乙女の物語(第33話)作戦会議

 絢美も涼花も結婚してる。涼花はまだ子どもはいないけど絢美は、

「実家に頼んどいた」

 涼花だって旦那さんの了解をもらってるのもね。

「久しぶりの独身気分だ」

 だから、

『カンパ~イ』

 持つべきものは友だよ、ビールが美味い。こういう相談なら千秋の方が適任なのだけど、結城君と花屋敷さんとなると無理がある。だって結城君も花屋敷さんも知らないものね。まずだけどここまでわかっている事を、

「そ、それは・・・」
「気持ちはわかるけど・・・」

 結城君にも会ってすべてがわかった。あの合コンに花屋敷さんが参加したのは結城君に会いたかったからだ。子宮を失い、落ち込み、なんとか這い上がって来た時に想いが抑えきれなくなったとしか考えられない。

「明日菜を紹介してるじゃない」
「そうよ、それも後でダメ押ししてるじゃない」

 それがあの夜の花屋敷さんの目的。

「だったら明日菜が」
「そうよそうよ」

 それじゃダメなんだって。花屋敷さんは自分の果たせなかった夢を誰かに託そうとしていた。その相手に選んだのは結城君の初恋の相手の明日菜だった。これはそれだけが理由じゃない。

 花屋敷さんは知っている。高校の時は明日菜から結城君を奪い取った形になったけど、結城君の本当の心は明日菜にあるって。だから付き合い始めてからも結城君の心を引き寄せようと懸命だったのよ。

 女として辛かったと思う。目の前にいる恋人の本当の心が別の女にあるんだよ。でも花屋敷さんはあきらめたくなかったんだ。それぐらい花屋敷さんも結城君のことを心の底から愛していたんだよ。

「だったらさぁ、元鞘で良いじゃない」
「お医者さんだよ、こんな玉の輿乗るしかないじゃないの」

 だ か ら、それじゃ、花屋敷さんの献身が報われないじゃない。合コンの夜の表向きの目的は明日菜と結城君の元鞘だった。だけど、秘められた真の目的は復縁だ。

「だったらわざわざ明日菜を呼ばなくて良いじゃないの」
「自分が結城君の前に座れば済む話じゃない」

 それが出来ないってしてるんだ。花屋敷さんんは極限の状況をあえて作ったはず。あれだけの酷い別れ方をしての突然の再会。さらに明日菜と結城君のセッティング。そんな状況でも結城君に振り向いて欲しかったんだ。

「それって無理があり過ぎるよ」
「ダメ出しやってるようなものじゃない」

 そうじゃない。あの状況でも花屋敷さんに振り向き、復縁するぐらいの気持ちが花屋敷さんには欲しかったんだ。それぐらいの愛がないと結ばれないじゃない。

「あっ」
「そうだった」

 花屋敷さんは病魔に女の当たり前の幸せを奪われてしまってるんだよ。あれを引け目、負い目に思わない女なんていないと思う。だから一度は女としての幸せをあきらめていたとしても不思議に思わない。

「そうなるよ」
「いくら花屋敷さんでも」

 取り戻しようのないハンデなのはわかる。けどね、けどね、考えようじゃない。花屋敷さんが出来ない事は一つだけじゃない。それさえ許容できる相手がいれば済む話だ。

「そりゃ、子どもが出来ないとか」
「わざと子どもを作らない夫婦はいるけど」

 そう、その一点さえ認め合えばノー・プロブレムじゃないの。

「結城君はそうなの?」

 聞けるかそんなもの。さすがにあの夜に花屋敷さんが秘密にしている子宮全摘のことは話せなかった。ましてや子宮を失った女を恋愛対象、ましてや結婚相手に出来るかなんて聞き出せるものか。

「それはそうだけど、それを確認しないと成立しない話じゃない」
「そうだよ。どっちかと言わなくても少数派だものね」

 明日菜は違うと思うの。結婚は恋愛の究極型の一つじゃない。

「それは言い過ぎ」
「明日菜も結婚すればわかると思うけど・・・」

 うるさい。これはまだ結婚してない男女の話なんだ。結婚はね、子どもを作るためにするのじゃない。結婚した結果として恵まれるもののはず。

「一緒じゃない」
「どう違うの?」

 違う、絶対違うはず。子作り目的が結婚なら、相手の美醜とか、性格じゃなくて、相手の生物学的優秀さ、遺伝子要素を最重視するはずだ。でもさぁ、そんなものに血眼挙げて結婚相手を選ぶ話なんて聞いたことが無い。

「まあ少しぐらいは考えるけど」
「遺伝病とかあると躊躇するかも」

 話を戻す。結婚とは相手を愛して愛し抜くことが最優先で、結婚する時にどんな子どもにしたいなんて二の次のはずだよ。

「あれこれ考えなくもないけど」
「まずは元気に生まれ欲しいだよね」

 そりゃ、子どもが成長すればあれこれ考えるだろうけど、子作りは結婚の目的じゃなくオプションみたいな面があると思ってる。

「出来ないとウルサイんだけど」
「孫の顔が見たいとかね」

 それは未婚の明日菜さえ言われてる。もうぶっちゃけで言うね、本当に愛して愛して愛し抜いた相手との結婚なら、子どもの有無は二の次のはずなんだ。結婚のオプションとして子どもが出来ればそれで良しだし、出来なければそれで良しでしょうが。

「ロマンティストだね」
「明日菜らしいけど」

 ギャフン。もっとも絢美や涼花の意見もわかる。夫婦に子どもが出来るか出来ないかは、夫婦生活を続けていくには大きすぎる影響があるぐらいは知っている。いくら言葉で飾り立てても現実はシビアだものね。

「やっぱり無理あるよ」
「少なくとも結城君がその条件を受け入れる気がないと成立しないよ」

 結城君なら受け入れてくれそうな気がするんだけどな。

「明日菜の希望的観測でしょ」
「他に選択の余地が無ければともかく、結城君なら他をいくらでも選べるもの」

 でも今はいないのは確認したし、結婚願望だってあるのも確認してる。

「だったら、話は簡単じゃない」
「そうよそうよ、そんな回りくどい事をする必要なんてないじゃない」

 どういうこと?

「結城君がずっと大事に想っているのは明日菜じゃない」
「幸か不幸か売れ残ってるのだから、行くっきゃない」

 あのね、明日菜がアタックしてどうするの。

「それが花屋敷さんの願いだし」
「結城君の夢でもある」

 こいつら!!!

「高校の時の結城君は明日菜にどうかと思わないところもあったけど」
「誰かわからないぐらいイケメンに変ってるんでしょ」

 合コンでずっと前にいても気づかなかったぐらい。

「あの頃も医学部志望で良物件だったけど」
「今は本物のお医者さんになってるし、それもエリート研究者なんでしょ」

 そうだと言ってた。

「花屋敷さんのことは可哀想だし、同情もするけど」
「今こそ結城君を奪い返すチャンスじゃない」

 だから奪われていないって、

「そういうけどさぁ、もし高校の時が叶っていたら」

 別に叶えさせたいと思ってなかったと言ってるでしょ。

「変態野郎との黒歴史は刻まれなかった」

 それを言うな。