恋せし乙女の物語(第12話)千秋

 しばらく絢美は告るかどうか悩みまくってたけど、ついに告って、今は幸せそうなラブラブカップルになってる。とにかく口を開けば、

「シンがね・・・」

 シンというのはカメ君の名前が信一だから。惚気まくられて大変だもの。カメ君にはスマートさはないとは思うけど、優しさと誠意の塊みたいな人なのは散々に聞かされた。それにカメ君も絢美がずっと好きだったことも。

 なんか聞きながら両想いってイイなって思ったよ。それも蓋を開けてみればそうだったなんてロマンチック過ぎる。それで心が通じ合えばルックスなんてものは些細なものになってしまうのかもしれない。

 絢美を見てるとそうだものね。絢美はね、またイメチェンしたんだよ。大学デビューからギャル風をやってたけど、今は清楚系になってるもの。なってるって言うより元に戻ったとした方が良いのかもしれない。

「違うよ。高校の時は陰キャの地味子だから進化だよ」

 あは、そうかもね。今の絢美は陰キャの地味子じゃない。清楚だけど明るくて可愛い女になってる。それってやっぱり、

「シンが気に入ってくれて、毎日毎日褒めてくれて・・・」

 はいはいラブラブなのは耳タコです。愛する人により気に入ってもらいたくなるのだろうな。あれは媚びてるのと違う気がする。きっと愛する人に染まって行くってやつじゃないかな。この辺は経験ないからわからないよ。

 染められると言えばカメ君もそうかもしれない。カメ君はファッションも野暮ったいところはあったんだ。それが決して派手じゃないけど、なんか垢抜けてきてると思うのよ。元が元だからイケメンとは言い難いけど、清潔感とか全然違うもの。

 絢美の高校時代は陰キャの地味子ではあったけど、ファッションには興味もあったし、敏感だったのよ。実家が美容室だからね。だから大学デビューでギャル風にもなれたのだけど、カメ君の変化は間違いなく絢美の影響のはずだ。

「シンは元が良かったのよ」

 だから、惚気はイイって。絢美が清楚系になったのは、カメ君の変化に合わせたのかもしれない。そうだね、自分が手掛けたカメ君に一番似合う女になったとかね。いずれにしても、お熱いったらありゃしない。


 絢美が幸せそうなのは素直に嬉しいのだけど、同時に寂しくなった。だってなんのかんのと高校時代からの親友だものね。でもカメ君とカップルになったら、今までみたいな付き合いはやりにくくなるのよね。

 そりゃ、カメ君とカップルになったからと言って縁が切れるわけじゃないし、学校でもサークルでも会ってるし、話もしてる。でも当たり前だけど絢美の中の優先度が、

 カメ君 〉 明日菜

 怒ってるんじゃないよ。絢美がカメ君との時間を優先するのは当然だし、カメ君と過ごす時間が楽しいと思うはず。その中に明日菜が割り込むのは変だものね。友情と愛情は別次元の話ってことだ。

 それにしてもどこまで行ったのかな。あの様子なら、全部行ってそう。行ってない方が不思議か。高校生じゃないんだものね。高校生カップルだって最後まで行くのはいるはずだけど、大学生のハードルはもっと低いはずだもの。

 そうなると次は同棲になるかもね。カメ君も下宿生だから、そこに絢美が転がり込むとか。逆だって構わないけど、愛し合ってるカップルなら行かないわけがない。ああ、羨ましくて仕方がない。


 絢美との仲が疎遠とまで行かないけど、アフターファイブじゃなかった、うちの大学ならアフターシックスに絢美と過ごす時間がなくなってしまったのは現実。ゼロじゃないけど、会ったとしてもカメ君がセットなんだよ。

 カメ君がセットなのは学校でもサークルでも一緒だから、独り身の明日菜はさすがに居心地が悪い。そんな時に知り合ったのが千秋だ。千秋も同学年なだけど、どうして友だちになれたのか不思議な人。

 まあ千秋から声を掛けられて、なし崩しに友だちになったのが真相だけど、キャラと立ち位置が違い過ぎる、千秋は陽キャ。それもサバサバ系もあるカラッと明るい子。ボーイッシュな雰囲気も強いけど男や女に関わらず友だちが多いタイプ。それより何よりモテる。モテるだけの愛嬌と魅力があるのは明日菜だってわかるもの。

 千秋と友だちになれたお蔭で、千秋の友だちとも交友関係が増え、だからになるけど飲み会やコンパも増えた。知り合いの少ないコンパへの参加は気が進まないところもあったのだけど、

「この子が明日菜だよ。みんな仲良くしてあげてね」

 こんな感じで千秋が紹介しまくってくれるから、馴染めた感じかな。その千秋だけど一部に尻軽女だとか、ビッチだと陰口を叩く人もいる。これは当たっている部分もあるけど、誤解の方が多い。

 千秋はモテるから彼氏はすぐに作れる。そりゃ、あれだけの数に言い寄られればね。だけど彼氏の見切りが異常に早いところがある。長くて三か月ぐらいじゃないかな。それこそ一週間どころか三日とかもあったはず。

「合わない男と付き合うのは時間の無駄でしょ」

 誰だって恋人に対して理想はある。理想の重点の置き方、さらに好みは変わって当然だけど、千秋が重視するのは、どう言えば良いのかな、付き合う男女の対等性ぐらいの感じなんだ。デートが割り勘主義なのもそうみたいだけど、

「互いに無条件で信用できること」

 これもわかりにくそうだけど、まず相手からの束縛は嫌ってるで良いみたい。男と女が付き合えば、どうしたって相手を束縛する面は出て来る思う。束縛と言えば聞こえは悪いけど、たとえば恋人なら自分だけを見て欲しいとか。

「当たり前じゃない。他の女に色目を使いまくる男なんてお払い箱だ」

 まあそうなんだけど、そうさせないための束縛を恋人に課そうとする人は多いはずなんだ。たいした話じゃないけど、他の男友だちと親しくしたりするのに苦い顔をするとか、男からの電話やLINEの内容に神経質になるとか、

「それがおかしいと思うのよ。気になるってことは信用できていないってことでしょ」

 それは理屈だけど、そうされるのが愛してもらっていると嬉しがるのもいるって言うじゃない。

「アホらし」

 千秋に言わせれば、愛するとは絶対の信用を相手に置いてることになるらしい。絶対の信用があれば、相手を疑うこと自体が存在せず、相手が裏切るのじゃないかと思う事自体が存在しないとかなんとか。それって嫉妬をしないってことかと思ったけど、

「するに決まってるでしょ」

 どうにも最後のところがわからん。千秋の頭の中では整理されてるみたいだけど、明日菜が聞いても具体的な理想像を思い浮かべるのが難しいところがある。だけど一端はわかるというか、なにをしてるかは見えてる。

 理屈はややこしそうだけど、どうも相手が異性の友人と会おうが、話そうが、気にするのがおかしいになり、ましてやそれを妨害しようとする行為は理解できないぐらいになるのかもしれない。

 だからかもしれないけど、千秋は彼氏が出来ても平気で男友だちと飲みに行く。もちろん千秋だって彼氏が女友だちと会っても気にもしない。それはそれで気楽そうだけど、そこまで認めることが出来る男って少ない気がする。

「みたいだね。簡単な事なのに」

 さらにドライなところもあって、付き合うにしても、別れるにしてもあっさりしていて、別れても後腐れが少ないみたいで、元カレとも仲良く飲みに行ったりするのよ。

「愛情をもって付き合うのが彼氏で、そうじゃないのが友だち」

 そこまで良く割り切れるものだと尊敬するぐらい。だけど付き合ってる間は惜しみなく愛してるのはウソじゃないみたい。間違っても二股とか三股はしないみたいだもの。

「する方が信じられない」

 陰口を叩かれるのは、彼氏を作って別れ、次の彼氏ができるサイクルが早すぎる点で良いと思う。外から見たら次々に男を漁っている様に見えるんだろうね。

「モテない女の僻みだよ」

 だから妬まれるんだって。