ツーリング日和17(第26話)高原ツーリング

 アリスの仕事は部屋に籠ってシナリオを書いてるのだけど、やはり外に見聞を広めておく方が良いのだよね・これはシナリオハンティングの時もあるけど、あれこれ現場の風景をイメージする時にも重要なんだ。

 だってあるシーンを書く時には背景がどうなってるかをイメージするじゃない。こういう背景をバックに出演者が話をしてるとか。そりゃ、漠然とイメージしても良いようなものだけど、映像にする時にこういうイメージだってした方が撮る時も撮りやすいじゃない。

 アリスが行きたいのは高原だ。そりゃ、信州に行ければ良いだろうけど、今回はバイクで行きたいの。この辺は関西ローカルのテレビ局の依頼が多いから、撮影場所も関西の方が望ましいと言うのもあるけどね。健一、ちょっと聞いてるの。

「高原と言われても・・・六甲山カンツリーハウスじゃダメだよな」

 遊園地ミステリーじゃないからダメだ。

「だったら砥峰高原はどうだ」

 どこだそこ。へぇ、すすきが原になってるじゃない。うん、聞いたことあるぞ、ノルウェイの森とかのロケ地のはずだ。

「平清盛とか燃えよ剣にも使われている」

 そんなところがあったんだ。問題はどこにあるかだけど、へぇ、生野銀山の近くじゃない。それは良いけど日帰りで行くにはキツそうだな。

「行けない事はないけど、帰りが厳しいかも」

 神戸に近づくほど混むものね。へばったところに渋滞があるとあれはシンドイもの。無理に日帰りにすることはないから泊りにしても良いけど、宿泊施設は・・・それなりにあるのか。でもどうせだったら高原に泊りたいけど、

「砥峰高原には宿泊施設は無いけど峰山高原にはあるよ」

 峰山高原ってどこなんだよ。なるほど砥峰高原のお隣さんみたいなところか。どれどれ、へぇ、けっこうオシャレなリゾートホテルじゃない。こんなものがあったんだ。

「キャンプも出来るぞ」

 キャンプは却下だ。バイクでキャンプする人も知ってるけど、どう考えたってバイクじゃ無理があり過ぎる。そもそもアリスはインドア派でアウトドア派じゃない。

「バイク乗りはインドア派じゃないと思うけど」

 だからと言ってキャンプに熱中するほどのアウトドア派じゃない。

「キャンプと言ってもグランピングだよ」

 そこまでするなら素直にホテルに泊まろうよ。だってだって、雨が降ったりしたら絶対に後悔するもの。お出かけすれば必ず晴れるコトリさんたちが羨ましいよ。それにもう秋だよ。秋だからすすきが原に期待できるのだけど、標高が高いところだから寒いはずじゃない。

 グランピングって固定式のテントのはずだけど、しょせんは布一枚しかないはずだ。それでもテントに泊まりたい人もいるだろうけど、アリスは屋根の下でふかふかの布団で眠りたいの。

「でもさぁ・・・」

 健一はグランピングがやりたいみたい。たしかにキャンプとグランピングは似てるけど違うからね。そりゃ、グランピングのグランはグラマラスで魅力的なって意味だもの。そうだな豪華なアウトドア体験ぐらいの意味で良いはず。

 グランピングは欧米の富裕層から広がったとも言われてるから、たとえテントでも中はリッチになってるそう。リッチと言ってもピンキリだろうけど、バイク乗りがテント抱えてのキャンプとはレベルが違うのは間違いない。

 あれだけ健一が泊まりたがるなら行っても良いかも。こういう経験もシナリオを書く上で必要だ。

「グランピング殺人事件とか」

 それだって不可能じゃない。いや安価に出来そうな気がする。下敷きは、そして誰もいなくなったが良いかな。原作は謎の招待者に招かれたゲストたちが次々に殺されていくのだけど、あの話のキモは殺人場所が隔離されてること。

 峰山高原では無理があるけど、そうだな瀬戸内海の小島ならちょうど良い気がする。原作もそういう島での館が舞台だったけど、日本で離れ小島の豪華な別荘みたいなロケーションを探すのは簡単じゃないのよね。それがグランピングならお手軽じゃない。

「バトルロワイヤル風なのはどうだ」

 モロは無理があるけど、始まりが、そして誰もいなくなった風に始まって、後半をバトルロワイヤル風に仕立てるのはありと思う。もっとも、それを二時間枠に嵌め込むにはかなり工夫が必要になる。どうしたって散漫になりやすいのよ。

「孤島サバイバルはどうかな」

 それはある。孤島サバイバルで案外難しいのは孤島に流れ着いた状態なんだよ。その状態があまりに現実的と言うか、厳しすぎると絵にならないもの。

「なるほどね。それに実はサバイバル術の達人だったの設定もいるのか」

 そういうこと。だからある程度の生活条件が整えられてる必要があるのよ。小説ならあれこれやりながら住居とかを構築するシーンはおもしろいけど、映像でやると退屈だし、どうしてもウソ臭くなる。そんなろころで延々と時間をかけられないもの。だから最初からグランピング施設みたいなものがあれば、その辺をあっさり飛ばせるってこと。

「シナリオとしてはそうなるのか」

 当然だよ。だから話としては、漂流なり、取り残されたにしても、スタート時点から衣食住に最低限は困らない設定は必要。そうしないと髪はボサボサで薄汚い服になっちゃうから絵にならないでしょうが。

 話としてはそこからの脱出劇になるのだけど、ここも工夫が必要なところだ。ごく平凡には通りがかった船に救助されるだけど、これじゃ、ドラマとしての盛り上がりに欠けるのよね。そうだな、流れ着いた孤島には秘密があったは常套手段だ。

「無人島と思っていたら悪の秘密結社の基地だったとか」

 却下だ。秘密基地までの規模になったら大掛かりになり過ぎて、007になっちゃうじゃない。それはともかくグランピングはどこかで使えそうだから行ってみるか。そういう事で健一提案のグランピング泊で高原ツーリングにGOだ。

 この道は湯村温泉ツーリングと同じだからアリスが先導してあげる。まずは新神戸トンネルに入って山麓バイパスに行くのだよ。そのまま西神中央までひた走りだ。ここからが少しややこしいのだけど、えっと、えっと、

「迷ったのか?」

 迷った。健一とナビを見て検討して、なんとか上荘橋で加古川を渡る事に成功。加西で県道二十八号に乗れたら福崎までそのままで良いはず。福崎で国道三一二号に入れたらひたすら北上だ。

 この辺は神崎みたいだけど、あそこに砥峰・峰山高原ってあるから左折だ。播但道を潜り、播但線を跨いだら信号があるけど、峰山高原が直進で砥峰高原は右に曲がるんだな。そこから市川に沿って北上だ。

 どこかでもう一回左に曲がるはずだけど、あそこに砥峰高原って書いてあるじゃない。ここからまだ十一キロもあるのか。ここからは段々と高原を目指す登りになるけど、さすがにキツイな。道だって一車線半ぐらいだし、舗装も良くないな。こうなると小型は非力だ。

 ウンコラセってダックスちゃんに頑張ってもらって、そろそろじゃない。ひゃぁ、一面のすすきが原だ。駐車料金が必要だけどこれは仕方ないよね。二輪置き場はあのへんか。これは噂になるだけのところじゃないの。

 遊歩道もちゃんとあるじゃない。なるほど、色んなロケに使われるのがよくわかる。こういうところって、ありそうでなかなかないのよね。どうしても日本の山ってすぐに木が生えて林なり森になっちゃうのよね。

「草も生えるものな」

 だから草原をイメージしてもなかなか適当なロケ地が見つからない時が多いのよ。ここならサスペンスでも恋愛物でも使えそう。とのみね自然交流館もシャレた建物だから上手く使えば効果的じゃないかな。

 遊歩道は一周で九十分となってたけど、そんなものだった。そろそろお腹も減って来たけど、交流館の一角にお蕎麦屋さんがあるじゃない。平家そば処ってなってるから平家にゆかりがあるのかな。

「砥峰高原じゃないけど平家落武者伝説がある集落が麓の方にあるみたいだよ」

 アリスはざるそば、健一は麦とろろそばセットにして、店からも眺めを楽しんだ。ここにホテルがあったら言うことないのだけど、キャンプ場があるのは砥峰高原じゃなくて、峰山高原なんだよね。

 問題はどうやって行くかだ。一番無難なのは、砥峰高原を下りてから峰山高原を登り直すルートだそうだ。来る時に見かけたところから登る事になりそうだけど、どっちも標高で九百メートルぐらいあるんだよ。つまりは六甲山より高い。

 砥峰高原を下りて峰山高原なんて目指したら、六甲山を二回続けて登るようなものじゃない。これはキツイし、下手したら事故りそうじゃない。健一、他にルートはないの?