ツーリング日和17(第22話)幻の鉄道

 王子山稲荷からお城の駐車場に戻り、

「福住に寄って行く」

 聞いたことがないところだけど、篠山の隣町みたいなところで良さそう。由来を読んでると隣町と言うより、役割分担みたいなところみたいだ。篠山は山陰道が古来から走るところだけど、福住は篠山の宿場町の役割を担ったみたいだ。

 どうもだけど篠山は城下町ではあるけど、ここに旅人は宿泊させなかったで良さそうなんだ。宿泊が必要な訪問者は福住に泊るぐらいかな。だから本陣も、脇本陣もある立派な宿場町として江戸時代は栄えたぐらいで良さそう。

 行ってみると篠山でも古い町並みが残ってるぐらいだから、福住でもそんな感じだ。いかにもって古そうな立派な家がかなり残ってるのは残ってる。

「それは仕方ないよ。馬籠や妻籠みたいなのがそうは残らないもの」

 だよな。えっ、福住には国鉄の駅があったのか。これは驚いた。篠山って鉄道がない街って思い込んでたもの。鉄道に関しては意外だけど健一が詳しいんだ。まさかの鉄オタだとか。

「そこまでじゃないけど鉄道は好きかな」

 篠山に鉄道がないのは反対運動のためともされてるけど、その辺は微妙なようだ。現在の福知山線は舞鶴と大阪を結ぶ阪鶴鉄道が作っているのだけど、

「篠山市内に寄るのは遠回りになるからともされている」

 今でも福知山線の篠山口駅は市内から離れてるけど、地形を考えても篠山市内を経由するのは無理あるものな。それでも時代は鉄路の時代になっていった。篠山から福知山線を利用するには不便すぎたから、篠山口から篠山市内に鉄道を作ったのか。

「篠山鉄道だよ。大正の初めに出来ている」

 だけど福住の駅を走っていた国鉄路線は篠山鉄道じゃないんだって。ここからは時代と政治に翻弄された歴史で良さそうだ。第二次大戦中に丹波で産出されたマンガンや珪石輸送のバイパスルートとして、福知山線の篠山口から山陰本線の園部を結ぶ路線を作る事が決定されたそう。

「これにともなって篠山鉄道の廃止がセットになっている」

 国鉄篠山線だけど、目的が物資輸送でとにかく篠山口と園部を早急に結ぶことが望まれたらしい。そのために、

「篠山駅も作られたけど、これが篠山町じゃなく隣の丹南町に置かれたんだって」

 つまりは篠山からは不便なとこだったって事で良さそう。さらにさらに、園部まで延ばす計画だったのだけど、終戦により福住で工事は打ち切りになってしまったのか。残された路線は篠山線として生き残りはしたけど、

「使いにくい盲腸線だから大赤字で、開通して三十年もしないうちに廃線だ」

 それだったら市内に伸びていた篠山鉄道が残っていた方が良かったはずだけど、そんなものは後の祭りで篠山から鉄道がなくなってしまったのか。この篠山線の影響は駅名に残ってるそう。

 福知山線の篠山口駅はもともとは篠山駅だったそうなんだ。それが篠山線に篠山駅が出来たから篠山口駅に変わり、篠山線が廃止され篠山駅が無くなっても篠山駅に戻らず篠山口駅として今に至るだって。

「篠山鉄道が残っていても生き残れたかは・・・」

 だよね。篠山と福知山線を結んでるだけだから、利用者は篠山の人だけだものね。昭和のモータリゼーションの波が押し寄せて来たら生き残るのは難しい気がする。それだったら篠山線が計画通り園部まで開通していた方が、

「それも無理あるよ」

 福知山線は尼崎で神戸線と結ばれるけど、福知山線はあくまでも大阪に直通するのが目的のはずだ。篠山線を使って山陰本線に乗りたい人は、

「京都に早く行きたい人ぐらいじゃないかな」

 逆もまた然りか。舞鶴とか福知山と言っても京都に早く行きたい人の数は限られるよね。京都からの観光を考えても微妙過ぎるもの。そんなに需要がありそうな路線ならトットと作ってるはずだし、工事だって中断しなかったはずだもの。

 篠山市内に乗り入れる鉄道がなかったから篠山が繁栄しなかったの意見もあるようだけど、あったから栄えていたかどうかは微妙な気がする。そりゃ、無いよりあった方が良かっただろうけど、

「都市としての魅力を考えれば微妙だよな」

 都市が栄える条件はあれこれある。だけどさぁ、篠山って人が集まりたい都市かと言われたら困る気がする。言ったら悪いけど、これと言った産業があるわけじゃないじゃない。

「交通の要衝ってわけでもないし」

 交通の要衝ではあったとは思うけど、交通の要衝って時代で変わるのよ。歩く感覚、鉄道がある感覚、クルマで動く感覚で交通の要衝は変化するじゃない。明治に鉄路の建設が積極的に行われなかった時点で交通の要衝と見られなかった気がする。でもさぁ、でもさぁ、

「ああ一周回ってはあると思う」

 篠山は鉄路の時代は不遇だったで良いと思う。街としては発展しなかったけど、それでも街としては残ったとも言えるじゃない。

「中途半端な発展なんかしていたら、今の街は残ってなかったはずだもの」

 だよね。古い町並みが残ってくれたから観光の街として生き残ったと言っても良いと思う。言い方は悪いけど、鉄路はなくなったけど、道路整備が追いついたぐらいは言っても良いと思う。

 今住んでる人だって、観光で訪れる人だって、クルマを使えば十分だと思ってるはずなんだ。鉄路の優位性はもう絶対じゃない。だって、今だって廃線の危機に瀕してる路線はたくさんあるじゃない。

「笑い話みたいなものだけど・・・」

 あるローカル線も廃線の危機に瀕して、定番の廃線反対運動が起こったそう。駅にエライさんとかが集まって気勢を上げたそうだけど、

「その駅にクルマで来て、クルマで帰ってるからな」

 反対運動をしてる人でさえ鉄道は使わなかったってこと。それぐらい使いにくい存在になってしまってるぐらい。この辺は貧すれば鈍すは確実にある。利用者が減れば便数は減り、便数が減ればさらに不便になる悪循環だ。

「鉄道も都市部の乗り物になってると思う」

 まあそうだ。都市部では存在感は高いもの。便数だって時刻表がいらないぐらいある。だって五分か十分もすれば来るものね。

「それだけじゃなく、都市部ではクルマがかえって不便なところもある」

 だけど地方はそうじゃない。地方こそ交通の主役はクルマだ。そりゃ、一家に一台じゃなく、一人に一台になってるもの。そういう意味で篠山は上手い具合に生き残ったぐらいは言えそうな気がする。

「結果としてだけどな」

 まあね。篠山の人だって将来の街の発展をあれこれ考えて動いたはず。そりゃ、生まれ故郷だもの。あれこれやっただろうけど、まさか観光をウリにする将来なんて考えてなかった気がする。それでも篠山は成功と言える気がする。

「今となったら手頃感があるものな」

 神戸からでも、大阪からでも、京都からでも日帰りの観光圏内だものね。ちょっとした週末のお出かけに丁度良いぐらいの感覚かな。それなりの見どころと、それなりのグルメもあるもの。

「福住だってこれからかも」

 かもね。素材はあるし、今だって古民家を利用したショップが出来つつあるもの。見て回れるところは一つでも多い方が有利なのが観光だ。