ツーリング日和17(第14話)ホテルの思い出

 同棲するにはやらないと行けない事がある。大げさに言うほどの事じゃないけど、恋人同士だからやらないと話が進まない。これだって同棲しなくてもアラサーのどこか結婚を意識している恋人関係なら、とっくにやっているのが普通だ。

 ここまでやっていない理由はあれこれあるけど、最大の理由は汚部屋のせいだ。誰が汚部屋でやりたいもんか。そりゃ、汚部屋でもやるカップルはいるかもしれないけど、恋人との初めてだよ。いくらアラサー女でも、もうちょっとロマンチックにやりたいじゃない。

 とにかく最初の片づけと掃除は壮絶過ぎた。徳永君なんて開き直って作業着で来てたもの。それがピッタリと似合うぐらいの汚部屋だったものね。そんな状態で、いくら女の部屋でも甘い雰囲気になりようがなかったのが大きかったな。

 じゃあじゃあ、アリスの汚部屋じゃなく、徳永君の部屋ならどうかは一応考えはした。徳永君も一人暮らしだし、部屋は綺麗に片付いているのは保証付きみたいなものだ。男の部屋でやっても問題ないものね。

 だけどね徳永君の部屋は会社の独身寮的なものでワンルームだそう。ああいう業種だから若手用に借りてるぐらいの感じ。だけどマンションではない。そうだな飯場じゃないけどハイツぐらいとしたら良いと思う。

 徳永君も入社してからずっと住んでるからみたいだけど、徳永君は小さい会社だと言っても専務だよ。それだったらマンションでも借りて独身寮から出てそうなものじゃない。どうしてだって聞いたら、

「棲めば都です。仕事でも便利ですし」

 徳永君も贅沢とか、見栄にあんまり興味はないみたいなんだ。自家用車すら持ってないもの。そういう点はアリスも同じだから気にもならないのだけど、そんな部屋でやったりすれば両側の部屋の独身男が、

「耳を壁に当てて聞いてるでしょうね」

 それはヤダ。誰がわざわざ聞かせたい物か。だったら、素直にホテルもあるのだけど、ホテルはアリスが好きじゃない。いかにものヤリ部屋でやりたくない乙女チックな理由もあるけど、悲惨な思い出が染み付いているからだ。


 アリスはネンネじゃない。アラサー女がネンネなんて気色悪いだけだろうが。誇れるほどのものじゃないけどそれなりの経験はある。経験には初めてが当然あるのだけど、それがホテルだった。

 初体験がホテルであること自体はまあ良い。何が悪くて、何が良いかは置いといてまあ良い。もちろんだけどホテルで初体験をした人を色眼鏡で見る気もない。問題はアリスの初体験の内容だ。

 アレをやる時って本性が出ると言えばそれまでだ。それでも相手に対する礼儀があるのがアレのはず。そりゃ、礼儀もクソもないような姿でヤルのがあれとはいえ、それでもお互いの最低限の了解事項がある。ましてやアリスは初体験じゃないか。

 ここなんだけどホテルに一緒に入った時点でヤルのは完全同意済だ。そうじゃなきゃ入るところじゃない。それだけじゃなくて、あの手のホテルに入ると言うのは、入るだけでやったと法律的にも認定されてしまうぐらいのところなんだよ。

 法律的って物々しそうだけど、不倫や浮気の証拠写真の定番は、そういうホテルに入るシーン、出て来るシーンになるからね。あれはホテルに二人で入っただけで、やったと認定され、どう弁明しても逆らえなくなるってこと。

 アリスだって緊張してた。初めてなんだから緊張しない女が居る方が不思議だろう。知識はあれこれあったけど、実践は完全に別物だものね。でね、部屋に入ったらすぐに始まるかと思ってたのだけど、まず飲み物を勧めて来たんだ。

 ホテルに來るまでの緊張で喉がカラカラになっていたから、ありがたく飲ませてもらった。そんなものまで持ち込んでいたのに感心したかな。さらにそこからシャワーを勧められた。

 これもありがたかった。どうしたって汗もかいてるものね。いきなりでも仕方はないとは思っていたけど、先にシャワーを使わせてくれるなら助かるじゃない。ところがシャワーを浴びてる途中からどうも変になってきた。

 これも初体験への緊張のせいかと思っていたけど、バスルームから出る頃には足元がかなり怪しくなっていたんだ。シャワーが済めばついに始まると覚悟したのだけどフラフラするアリスを見てソファを勧められたんだ。

 それはそれでありがたかったけど、座り込むともう立てないんじゃないかと思うぐらい体にまったく力が入らないんだよ。意識もはっきりしてるし、言葉もしゃべれるのだけど、手足に力がまったく入らないんだ。そしたらだよ、

「そろそろ効いて来たな」

 なんとあの野郎は飲み物にシビレ薬を仕込んでやがったんだ。シビレ薬もエロ系の小説の定番アイテムではあるけど、現実にお手軽にあるかと言えばそうでもないらしい。あるのはあるそうだけど、麻酔薬に近いものだそうで、手に入れるのも容易じゃないし、これを使いこなすのはさらにハードルが高いんだって。

 あの野郎がどうやって手に入れたかはわかるはずもないけど、アリスをそんな状態にしておいて襲って来やがったんだ。どうしてって思ったけど、なんとあの野郎はサディストの変態野郎だったんだよ。わざわざ大きなバッグを持ち込んでたのは気になってはいたけど、そのための道具まで持ち込んでいやがった。

 あっと言う間にアリスは手足をロープで縛られ身動きも出来ない状態にされてしまったよ。手足が動かないんだから逃げ出すどころかロクな抵抗も出来なかった。そこから変態野郎がやらかしたのは、サディストの言うところの調教ってやつで良いと思う。

 変態野郎は処女の獲物が手に入ったから、これを徹底的に調教するためにホテルに連れ込みやがったんだ。シビレ薬こそ時間とともに切れて来たけど、縛り上げられてしまってるから変態野郎の調教を受けるしかなくなってしまっていた。

 そこからエライ目に遭った。ムチで打たれるわ、ローソクを垂らされるわだ。ローソクは火傷するほど熱いし、ムチなんて絶叫させられるほど痛かった。アリスは悲鳴を上げまくるしかなかった。

 そこまでの状態に追い込んどいて出されたのが奴隷になれってやつだ。誰がなるもんかとは思ったけど、あんなもの耐えられる痛みじゃないのよ。いくら頑張ってもエンドレスで痛みが来るから要求は呑んだ。あれだけムチで殴られまくられたら逃げ場なんてなかったもの。

 そこからは儀式だった。まずさせられたのが奴隷宣言だった。教えられた言葉を口にするのだけど、少しでも言い澱んだり、変態野郎が気に入らないところがあったら、情け容赦なくムチだった。それこそ何回も何回も変態野郎が満足するまで宣言はさせられた。

 ようやく宣言に合格点をもらえたら、こんどは契約書なるものへのサインだ。そんなものまで用意してやがったんだよね。内容はトンデモなんてレベルじゃなかったけど、サインしなかったらムチだから書くしかないじゃないの。

 書いたら書いたで、その契約内容を読み上げさせられた。これだって言い澱んだり、一字一句間違えただけでムチだ。なんとか読み上げるのが終わったら、あの変態野郎はアリスを縛り方を変えやがり、大股開きにさせられたんだ。

「まず契約書通りの体にする」

 あの変態野郎はアリスの開かされた股にシェービングクリームを塗りつけやがった。たしか契約書に下の手入れを怠らないとか書いてあったけど、それがこれみたいだ。腋毛と一緒にするなと思っても無くなった。

「契約書は捺印があって完成する」

 ハンコなんか持ってないぞ。

「血の捺印、それも処女の血の捺印だ」

 変態野郎は裸になりスタンバイした男を見せつけやがった。初めてそうなった男を見たけどグロテスクなものだった。身動きできないのだからどうしようもなくぶち込まれた。初めては痛いって言うけど、あれはまさしく激痛だった。悲鳴をあげまくったし悔し涙も流したよ。

 そんな状態でのロストヴァージンだから出血もあったんだけど、あの変態野郎はアリスの女に紙を押し付けたんだよ。

「これこそ正真正銘の処女の血の誓いだ」

 あんなものが捺印かよ。さらに変態野郎は鍵付きの首輪を取り出して、

「これは御主人様からプレゼントだ」

 付けられたよ。カチャっとカギがかかる音がしてゲンナリした。さらにだよ首輪に鎖まで付けれて、ベッドに繋がれた。そこまでされてやっとロープが解かれた。長い間縛られ過ぎて変になってたけどね。

 そこからまた儀式だ。もう堪忍してくれなんかとっくに越えてたけど、御主人様に奴隷にしてもらい。奴隷に相応しい体にしてもらい、女にしてもらい、奴隷の証である首輪までもらったお礼を言わされた。

 この様子はすべてビデオに撮られて、逆らったら公開すると何度も脅された。これもちゃんと返事をしないとムチだ。とにかく少しでも反抗的な態度を見せたら容赦なくムチだったもの。これがアリスの初体験だ。こんな事をされたホテルに行きたいと思うものか。