ツーリング日和15(第14話)千里浜なぎさドライブウェイ

 泊った民宿は千里浜なぎさドライブウェイの入り口のすぐそばなんだよね。朝食が終わったら出発。のと里山道路を潜れば、

「左やな」

 六百メートルか。突き当りになってるけど右折しかないよ。道路に砂が増えて来たけど、ついに海が見えて来た。話には聞いていたけど、ホントに砂浜に下りて行くんだ。これまでシーサイドロードは幾つも走って来たけど、

「これこそが究極のシーサイドロードや」

 そりゃ、波打ち際の砂浜を走るんだものね。砂浜だって4WDなら走れるはずなのよ。だけど千里浜は普通のクルマでも走れるし、

「バスかって走れるで」

 こうやってバイクでもね。一輪車でも走れるって書いてあったもの。それが出来るのは、

「空いてるからや」

 それも理由だろうけど、砂粒が非常に小さくて海水を含んで引き締まるからだそう。

「そやから乾いてるとこはめり込むから注意となっとった」

 波打ち際近くの濡れてるところが良いみたい。でも海に入るとダメだって。でも見ただけで走るところはわかるよね。それとイメージとしては疾走したいけど、

「ハンドルは取られやすいし、タイヤのグリップもアテにならんからな」

 少々固くてもしょせんは砂地だものね。そうそうバイクは停めるのも注意が必要だって。バイクを停める時はスタンドを使うけど、とくにサイドスタンドなら先っぽの面積なんか知れてるじゃない。だから、

「めり込んで転倒もあるからな」

 でもさぁ、こんなに良いところじゃない。浜辺で水遊びまでは無理でも、バイクを停めて記念写真ぐらい撮りたいのよね。だから対策はしてきた。スタンドの先が小さいからめり込むのだから大きくしてやれば良いってこと。百均でコースターを買って来てるのよ。

「コトリらのバイクやったらいらんかったかもな」

 まあそうだけど転ばぬ先の杖だよ。それでもクルマならまだしもバイク、これもオンロードならゆっくり走って気分を味合うところかな。それでもここが絶景コースに挙げられる理由はよくわかる。だってだよ海は遮るものがなくて水平線まで一望だもの。

 昼間に走るだけでも十分に絶景だけど、これが夕暮れ時は格別になるそう。日本海側ならそうなるところは多いのだけど、あの広々とした水平線に太陽が沈んでいくんだよ。

「夏の夜もエエらしいで」

 イカ釣り漁船の漁火が並んで幻想的になるんだって。見た人によると海の上にさらに道があるように見えるとか。わかると思うけどこのドライブウェイは二十四時間いつでも走れのよ。二十分ほどで終点か。ここも忘れられない道になりそう。頑張って来た甲斐があったよ。

「メインテナンスに行くで」

 これは千里浜なぎさドライブウェイを走ったお約束だ。走るのはシーサイドどころか濡れた砂浜だから砂でも汚れるけど、塩が付くのよね。これを放置して錆させるのは誰だって嫌じゃない。

「クルマはエエもん出来てるな」

 道の駅のと千里浜に無料の洗車場があるのが羨ましかった。あくまでも簡易とはしてるけど、下からシャワーが出る感じと言えばわかるかな。これでタイヤ回りとクルマの下回りがかなり洗えそうな気がする。

 バイクで利用するには無理がありそうだったからコイン洗車場にした。ここは高圧洗車で砂も塩も吹き飛ばしたいじゃない。もっともだけど、

「コトリらのバイクは錆へんねんけどな」

 でも砂まみれは嫌じゃない。愛車もスッキリしたところで国道二四九号を北上、二十分ぐらい走ったところで、

「次の信号を左や。福浦港の方へ行くで」

 二十分ほどで着いたのが能登金剛だ。それってあのゼロの焦点の、

「そうやねんけど能登金剛言うてもこの辺は南の端で、ずっと北の方までそうやねん」

 遊覧船も魅力的だったけど今日はパスか。昨日も乗ったものね。歩きで観光を楽しんでから北上。国道二四九号の荒尾バイパスに入り十分ほどで、

「ここも寄っとかんとな」

 ひやぁ、これはひたすら長いベンチだ。世界一長いそうだけど、これを作ったのは日没を楽しんでもらうためだって。ここは立ち寄って見たと言うのがポイントだな。そこからすぐぐらいに、

「次の信号を左や」

 十五分ほどで着いたのが赤崎漁港だけど、

「ゼロの焦点で松本清張が断崖でのシーンに選んだとこや」

 こんなところなの。

「原作には赤住となっとるけど、赤住にそんなとこあらへんから、松本清張が赤崎と勘違いしたと言われとる」

 でもここだって街並みは趣はあるけど、あの断崖のシーンにならないよ。

「ゼロの焦点のシナリオ化は難航したなんてもんやないそうや。さらにやけどシナリオを書いた橋本忍はシナリオハンティングせずに書いたから、監督の野村芳太郎はロケハンに苦労したそうや」

 なるほどね。それにしても国道から外れてから道が狭いよ。これは昔のままの幅だろうけど、映画が撮られた一九六一年なら舗装もされてなかったろうな。赤崎から十分ほどでヤセの断崖だ。ちゃんと駐車場まであるし、お手洗いまであるのかと思ったら、

「ははは、ここから一・五キロ先だってさ」

 ヤセの断崖も映画化されてから崩れたところもあって昔と同じじゃないそう。ただ主人公と犯人が断崖で会うシーンはサスペンスものの定番になり、

「東尋坊が自殺の名所になってもた」

 どうして野村芳太郎は東尋坊をロケ地に選ばなかったのかな。ヤセの断崖の先でやっと国道二四九号に戻り、

「あれがトトロ岩や」

 ホントだ、正式には権現岩らしいけど、ありゃトトロ以外に見えないよ。そして輪島まで快適ツーリング。輪島と言えば朝市だ。

「十二時までやっとるらしいからのぞいとこ」

 さすが日本三大朝市の一つだ。お魚も美味しそうだけど、さすがにお土産には出来ないな。

「のどぐろ美味そうやん。アマエビも欲しいな」

 そりゃ美味しそうだけど生もの買ってどうするの。捌いてもらっても、

「鯵も食べたいけど・・・フグの干物にイワシの醤油漬けは食べなあかんやろ」

 干物はクール宅急便で送る手もあるけど、

「遅めの朝御飯や」

 朝はちゃんと食べたじゃない。朝御飯と言いながら早目の昼ご飯なのはわかるけど、店に入ると、

「朝市持ち込みごはんセットで」

 なるほど! ここは朝市で買ってきた魚や干物を調理してくれて朝御飯として食べる事が出来るのか。香港の鯉魚門みたいなシステムになってるんだね。こりゃ、なかなかだ。

「ライダー飯にピッタリやろ」

 いつもの事だけど、こんなところ良く探し出してくるもんだ。お土産はやっぱり輪島塗だ。