ツーリング日和12(第19話)サザエカレー

 腹減った。

「餓鬼かよ。リクエストはあるんかい」

 あるよ。サザエカレーが食べたい。これも隠岐グルメとして良く出ているし、お土産屋さんにもレトルトが山積みしてあるぐらい。もちろんそれも買い込んでるけど、隠岐に来てるのだから、レトルトじゃない鍋で作った本場のサザエカレーを食べたい。

「案外少ないみたいやねん」

 この辺もよくわからいけど、どう言えば良いのかな、

「隠岐そばもそうやったけど、島民熱愛グルメってほどやないみたいや」

 島後で隠岐そばさがした時もそうだった。西郷のそば屋さんでも隠岐そばはあったのだけど、

「そのそば屋の一番の人気メニューはカツ丼やったものな」

 そのカツ丼も美味しそうだったけど、隠岐でわざわざカツ丼食べたくないじゃない。そりゃ、長期滞在であれば食べても良いけど、短期の観光のための滞在だから食事回数も限られるから名物料理を出来るだけ食べたいよ。すると風香が、

「でしたら・・・」

 連れて行かれたのは喫茶店だよこれ。

「喫茶店のカレーを舐めたらあかんで」

 そば屋のカレーもね。味は・・・こんなものか。もっと磯の香りがプンプンみたいなのを想像してたけど、

「カレーはスパイスが強いからな」

 シーフードカレーだって魚の香りを本当の意味で活かせてるところは少ないものね。

「肉とシーフードはカレーでもだいぶちゃうからな」

 肉のカレーなら煮込めば煮込むほど美味しくなる面もあるけど、シーフードは煮込み過ぎると全部カレー味に染まってしまう。肉だってそうなんだけど、シーフードでそうしてしまうと意味がなくなる気がする。

「肉は煮込んだら軟らかくなるけど、魚介類は硬くなるのが多いからな」

 だからカレースープが出来上がってから軽く茹でるとか、

「シーフードの上にかけるのが多いんちゃう」

 でもこれはサザエを煮込んでる気がするけど、

「これも隠岐で食べたというのがツーリング飯のポイントやろ」

 そういうことになるか。隠岐ぐらいでしか食べられないし、土産話で味がわかるはずもない。でもさぁ、でもさぁ、これだったら素直につぼ焼きで食べたいのが日本人かな。

「あるあるや。料理は色んなチャレンジがあるべきやが、これやったらの別の定番調理法があったら広まりにくいもんな」

 食材には定番料理が存在することが多々ある。もちろん定番料理以外に食べ方はあるけど、定番料理がよく出来過ぎてると他の食べ方をあまりしなくるものは確かにあるもの。わかりやすいものならウナギ。

「蒲焼以外を思いつくのも難しいわ」

 サザエもうそうで、

「つぼ焼きか刺身やろ」

 刺身に出来るサザエはかなり大きくないと食べるところがなくなるし、

「刺身やったらワタが楽しめへんやんか」

 だからつぼ焼きが一番って感じになってしまう。つうか、それぐらい美味しい。これをカレーにして食べたいと思いつきもしないぐらい。サザエカレーとは別の話になるけど、カニフライなるものを食べたことがある。とっても新鮮なカニでカニ刺しも食べたぐらいだったけど、

「ありゃエビフライや」

 だったのよね。これじゃわかりにくいか。カニのフライだからカニ味がすると思うじゃない。でも口の中に広がったのは信じられないけどエビ味だったのよ。カニをエビ味にしてしまうぐらいなら、カニ刺しなり茹でたカニで食べたいと思ったもの。料理って難しいと思うよ。そんな事を話していたら風香が、

「実際に会うとどんな人物かあれこれ想像はしていましたが、あの程度のトラブルなど気にもしないとは・・・」

 気にしたよ。トラブルが長引いたらツーリングに支障が出ちゃうじゃない。だってだよ警察沙汰なんかになったら今日は事情聴取で潰れちゃうじゃないの。

「そやそや。あんな連中どうにでも出来るんやが、怪我さしたら後始末に時間がかかるやんか」

 西ノ島には隠岐島前病院もあるけど、あそこでも大怪我なら対応できる範囲は限られるはず。そうなると西郷の隠岐病院に運ぶとか、さらに松江ぐらいに運ぶとなったら大仕事になってしまうじゃない。島の皆様のご迷惑だよ。

「でもあの連中は」
「明後日までは動けん」

 なるほど今日は知夫里島に渡るし、明日は帰るから、それぐらい動けなかったら十分だよね。

「でもあのままじゃ」
「あそこも人通りは少ないけど、誰も来んとことちゃうやんか。そのうち誰かが見つけてくれるわ。あいつら身動きは出来へんけど、ちゃんと呼吸は出来るようにしといたから」

 あのね呼吸まで止めたら死んじゃうじゃない。そっちはそっちで大騒動になるでしょうが。もっともあれじゃご飯も食べられないけど、病院で点滴でもしてもらえば二日ぐらいは問題ないよ。

「だからあんな話を・・・」

 コトリが振るから悪いのよ。そんな状態でどうやってオシッコをするかの話になっちゃったけど、そんなものたいした話じゃないってね。病院でもそういうケースは多いから、

「あれやろチンチンの先からチューブ突っ込まれるんやろ」

 導尿と言いなさい。オシメでも良い気がするけど、どうしてあんな状態になってるから原因不明だから、医療的判断としてバルーンカテの留置をすると思う。

「あれって看護師がやるやんか」

 そうなる。チンチン持ちあげて先からズブっと差し込んで行く。病院なら日常的な医療行為だけど、

「そりゃそうやけど、ああいう連中は変なとこがプライド高いやんか」

 だねぇ。

「剃るんやろ」

 あのね、導尿ぐらいで剃るわけないでしょうか。

「そうなんか。それは残念やけど、考えようによっては屈辱的な醜態になるやんか。エエ気味や」

 しゃべることも出来ないけど意識ははっきりしてるものね。日常的な医療行為でもやられる方にとっては羞恥を呼ぶし、するのが女性看護師だったらたまらないかも。

「男性看護師やったっらエエもんでもあらへんし」

 誰にされても嫌な行為ぐらいは言える。

「お礼参りのリスクは?」

 何度来ても同じ。半グレだってその気になればわたしたちの情報を見つけられるはずだから、もう来ないんじゃない。また来るようなら、

「安土グループの終焉の日になる」

 そこまでやるのは手間とヒマがかかり過ぎるから、やる気はないけどね。そしたらコトリは、

「ユッキーも手伝ってくれてもエエやんか」

 あれぐらいコトリでも十分すぎるじゃない。

「そうやけど、気は心って言うやろ」

 やりすぎは良くないよ。過ぎたるは及ばざるが如しって言うじゃない。

「それどっか間違うてるで」

 結果オーライよ。サザエカレーを食べたらお買い物。お土産は大事だからね。

「でしたらこの店で」

 風香の知り合いの店なんだ、あれこれ買わせてもらって、

「フェリーは」
「十五時十五分着の十五時二十分発や」

 へぇ、乗降時間は五分しかないのか。

「そろそろ船着き場に行こか」