ツーリング日和12(第17話)半グレの鬼滅羅

 誰がお出迎えに

「大阪の半グレで鬼滅羅って言うらしいわ」

 さすがシノブちゃん、そこまで調べてたのか。

「いや風香に聞いた」

 知ってたのか。いつも思うのだけどあの手のDQN連中のチーム名って、見ただけでわかるのよね。

「昭和の時代からの伝統やもんな」

 画数の多いオドロオドロしい当て字読みってやつ。ああいう連中が漢字に強いとは思えないから、

「自分では書けへんのんちゃうか」

 そんな気がするつうか、DQNでなくても書けと言われたら書けないクラスの漢字が多いもの。今日の相手はそういうDQNの中でも半グレだ。半グレってなにかになるけど、強いて言えば全グレがヤクザだ。わたしのイメージ的には戦後の闇市を闊歩していた愚連隊に近いかな。

「ようそんな大昔のもん知っとるな」

 コトリだってリアルタイムで見てるでしょうが! こういう不良と言うか、暴力が好きな連中はいつの時代でもいる。一人で暴れてるのもいるけど、徒党を組む傾向が昔から強い。それは現代でも同じで暴力団になるぐらいで良いと思う。

 この辺は脳が暴力で出来上がってるような連中でも、組織が大きいほど強いのは知っているから、そこで生き残るため、さらに暴力をカネに換えて暮らしていくために出来るぐらいには理解している。

「そんな感じでエエと思うわ。昭和の時代やったら、グレ連中は暴走族になって暴れ回り、暴れ足りんやつが暴力団員になるのがある種のエリートコースやった」

 かもね。あくまでも昭和のある時代までだけど、

「腕っぷしが強いなら上組に。腕っぷしに自信があって頭も良くて、ソロバンが弾けるかお笑いができるのなら山口組にってフレーズがあったぐらいや」

 山口組は言わずとしれた日本最大の暴力団で、上組は沖仲仕の総元締めみたいなところだった。この沖仲仕と暴力団も濃厚な関係があって、単純な力仕事の沖仲仕のマネージメントをしていたのが山口組だったとされてる。

「そやから腕力だけやったら上組で、そういう腕っぷしの強い連中をまとめる頭があったら山口組やってんやろ」

 これも昔話で上組も港湾作業の近代化で沖仲仕が絶滅状態になって今はかつてのイメージはないからね。

「そうなってからも、グレた連中は暴走族で暴れ回り、そこで頭角を現した奴が暴力団にスカウトされるのが裏のエリートコースやった時代もあったわ」

 だけどまた時代の変化が訪れる。暴力団追放運動だ。そりゃ、誰だって歓迎したくない組織だけど、これを本格的に締め上げようとしたのが暴対法になる。これは暴力団サイドに取っても手強すぎるもので組織がかなり弱体化したともされている。

「この辺は一概に言い難いけど、たしかに暴力団はいらん。いらんけど、ああいう暴力大好き連中はどうしたって一定の比率で生まれて来る」

 そういうこと。暴力団は暴対法で締め上げられるけど、暴力団になるような人間を根絶させる法律じゃない。というかそんなもの根絶させようとすれば、

「時計仕掛けのオレンジの世界になる」

 かもね。それはともかく暴対法は暴力団にかなり有効な法律だったで良いとは思う。統計上で暴力団の構成員は減ってるし、暴力団も減っている。でもあいつらはとにかくしぶといのよね。

「ああ暴対法で暴力団のシノギのトレンドが変ったからな」

 古典的な守代とかショバ代がドンドンやりにくくなり、その代わりに企業舎弟とかフロント企業にシフトしていったぐらいで良いはず。フロント企業の活躍も多岐にわたるのだけど、そこで必要とされるのがインテリヤクザ。

「頭の中が暴力で出来上がってるような連中の受け皿に、暴力団がならんようになったぐらいや」

 だからグレ連中が堅気になってくれれば世の中ハッピーなんだけど、そうはならないのが世の中で、暴力団になれないから半グレとして徒党を組んで暴れ回るようになったのが流れだよ。

「暴対法の弱点に流れ込んだぐらいに言うてもエエやろ」

 暴対法は強力な法律だけど、強力過ぎるが故に歯止めがある。適用対象が認定された暴力団とその構成員に限るとされてる。半グレだってセミ暴力団みたいなところはあるけど、

「あいつら看板とかシマにこだわり薄いんよ」

 暴力団は看板とシノギのためのシマに命を懸けるところがある。ナワバリ争い、ナワバリ荒らしは今だって血の雨が降る。だけど半グレは集団と呼ばれるぐらいで、

「暴走族の延長みたいな組織やもんな」

 らしい。明瞭なシマを持たず、組織の離合集散なんて日常茶飯事みたいなところがあるらしい。警察が暴対法で指定の姿勢を見せようものならあっさり解散してしまうらしい。

「暴対法は暴力団の代紋とか看板にこだわる点を利用した法律やもんな」

 見ようによっては暴対法が生み出した鬼っ子のような暴力集団なんだよ。だけど大きくなって来てる。そりゃ、暴力団に入れなくなった暴力人間の受け皿みたいなものだものね。だから半グレ集団も成長して、かつての暴力団的になっているところも出ているぐらい。

 半グレ集団は暴力団が手を出しにくくなっている繁華街の守代の世界にも手を広げてるらしい。ここは今だって暴力団の重要なシノギだから、暴力団サイドとしても叩き潰したいのだろうけど、

「抗争になれば待ってましたとばかりに警察が大々的に介入してくるのが暴対法や」

 制裁や粛清のための抗争を起こせば勝たないと話にならないけど、勝っても表沙汰になれば深すぎる向こう傷になりかねないぐらい。この辺の微妙なバランスで暴力団と半グレは棲み分けてる感じかな。それにしても半グレが隠岐まで出張って冗談みたい。

「こないリスクの高い仕事は、今の暴力団やったら受けんのやないか」

 受けるにしてもどれだけの報酬が必要かを考えると割安の半グレになったのかも。でもたかが半グレが隠岐までよく遠征できたものだ。

「鬼滅羅は大きいからな」

 コトリと言うか、シノブちゃん情報では、梅田を中心に北大阪に勢力を広げてるそう。監獄の杏十郎なるカリスマが君臨して、半グレ集団の大きなネットワークを築いてるとか。

「とにかくボスの杏十郎は強いらしくて、他の半グレ集団を次々に制圧して支配下に置いとるらしいわ」

 強いねぇ・・・安土のと関りは、

「定番や」

 企業経営の闇の部分か。これはある程度の企業なら多かれ少なかれある。まったくないのはうちぐらいかもね。もちろんあると言っても、経営妨害をされないようにの挨拶料ぐらいが多いけど、なかには手を組んで利用しているところもある。安土も手を組んでる口か。問題は今からのお出迎えだけど、

「持ってへんと思うけど」

 こういう時に厄介なのがハジキだ。鉛玉が当たると女神だって死ぬもの。

「スタンガンも嫌やで。この頃やったらテーザーガンもあるからな」

 テーザーガンとはコード付きの電極を飛ばせるスタンガンみたいなもの。スタンガンもそうだけど電気ビリビリは好きじゃない。

「肩こり解消にならんかな」

 そんな健康器具もあるみたいだけど、電圧が高すぎるよ。スタングレネードは、

「そんなもん使うたら共倒れになってまうやんか」

 スタングレネードとは音と光だけの手榴弾のようなもの。光もすさまじいらしいけど、

「音は百八十デシベルやから失神してまうで」

 地下鉄の構内や電車のガード下で百デシベルぐらいで、飛行機のジェットエンジンで百二十デシベルぐらいだから桁外れの騒音なんだよ。使うならしっかり耳栓とサングラスが必要だけど、

「サングラスはともかく、耳栓したら話も出来へんやんか」

 それもそうだ。だったらコトリに任せた。

「ちょっと待てい、ユッキーは何するんや」

 高みの見物に決まってるじゃない。だってわたしは副社長、コトリは社長だもの。社長が先頭に立って働かないと誰も付いてこないよ。

「それ間違うてるで」

 企業経営のイロハよ。