ツーリング日和8(第33話)衣川スキャンダル

 結衣の母親の衣川未知は強かった。奨励会三段リーグを快走し。次の対戦相手に勝てば昇級決定みたいなとこまで来とってん。

「次の相手は不調だったもの」

 ああ安西三段やったな。既に負け越しが決まってたのものな。未知の勢いからして安全牌と見られて、史上初の女性プロ棋士誕生の期待で注目されとった。とにかく未知は美人棋士やったからな。

 この辺も美人で持て囃したらフェミの連中がすぐに噛みついて来るけど、男かって美男子の方が人気が出るやんか。美人かブスかで将棋の勝敗が決まるのなら不公平やが、どっちが人気が出るかやったら美人や美男子になるに決まっとる。そやからアイドル商売が成立するんやろうが。

 そやけどそんな時にトンデモない事が起こる。未知の突然の失踪や。カモ相手の対局に現れなかっただけやなく、将棋界から消え去ってもたんや。これは今でさえ行方知らずのままやねん。

 ここからは美人棋士であったが故に三流週刊誌が飛びついて、あれやこれやと憶測記事を書き立てた。それもや、美人やから男絡みに間違いないとばかりにな。愛の逃避行やとか、先輩棋士との不倫疑惑だとかな。そやから未知の失踪事件は衣川スキャンダルと呼ばれとった。

 スキャンダル言うても男関係は根も葉もなさそうやった。突然の失踪はスキャンダルにはなるやろうけど、今に至っても失踪の原因も行方も不明のままや。あれはホンマのところ何があったんや。

「母は法月の家に密かに呼び出されています」

 そこで持ち掛けられたのが次の対局は負けてくれの八百長の相談かよ。安西三段は負け越しとるだけやのうて、降格の危機にあったんか。奨励会三段リーグも成績が悪ければ降格になるんや。

 三段リーグは十八局で争わるんやが四勝以下が二期続くと二段に降格や。安西三段は前期が三勝で、今期も未知に負けると五勝出来なくなってまう状況やったらしい。こんなもん実力社会やからどうしようもあらへんはずやが、

「安西三段は法月王座の弟子です」

 将棋のプロに師匠も弟子もあるかい。勝負の世界に生きとるんやからな。まあこの辺は師弟関係にもよるやろうが、三段リーグを降格しようとする弟子を応援してなんになるんや。見込みのない弟子に引導渡したるのも師匠の仕事やろ。

「ですから大義名分です」

 とにかく法月王座は未知に八百長を持ちかけたんや。あれこれ美味しい取引条件や、逆に脅しも並べ立てられたそうやが、

「母は断固拒否しています」

 そりゃそうやろ。三段リーグは甘いもんやない。プロになった連中もここを抜けれた時が一番嬉しかったとするぐらいや。未知かってこのチャンスを逃がしたら、プロ昇格のチャンスは回って来んかもしれん。後一歩で届かんかったのは数えきれんぐらいおるからな。

 そしたら法月は部屋に見るから強面の屈強な、いかにもって連中を招き入れたんか。そこまでやったら完全に犯罪やぞ。法月の家からクルマに押し込められて拉致されたって言うんかよ。

「どこかの別荘みたいなところに監禁されています」

 そのパターンはお決まりの、

「そうなのですが、ただのレイプじゃありません」

 拉致した男連中が襲い掛かかるのではなく、待ち受けていた女連中に襲われたってか。おいおいちょっと待ってくれよ。そんなことされたら、

「男にやられるのもキツイけど、ベテランの女にやられたら処女でも持たないよ」

 コトリも経験者やからわかる。どんなに抵抗しようが、どんなに頑張っても最後までイカされてまう。それもや、時間の許す限り果てしなく何回もや。

「まず三時間ぐらいだったそうですが・・・」

 想像しただけで寒イボが立つわ。あれは生き地獄であり、イキ地獄や。泡吹いて失神したぐらいで許してくれへん。意識はイクで呼び戻され、あっと言う間にイキっ放し状態にされ、体を痙攣させるしかなくなってまう。そやけどそれさえオードブルやったん言うんかよ。

「オードブルと言うより準備でした」

 次に現れたのは奨励会三段リーグで未知に敗れた男性棋士やってんて。そこで強要されたのが、

「男性棋士を誘惑し、勝ちを体で買う演技です」

 八百長を無理やり作ろうとしたんか。

「母はそれでも拒否しようとしたのですが・・・」

 そしたら女どもがまた責めたんか。

「躾と言われたそうです」

 三時間やられた後やぞ。そんな火照り切ったところを責められたら、一たまりもあるかいな。すぐに悶絶状態に連れ戻されるわ。それがまた三時間ぐらいはやられたと言うんかよ。こんなもん死ぬで。

 そんな状況に置かれたら、とにかく言う事を聞いて、この場を終わらせることしか考えんようになってまうわ。

「躾はとにかく厳しかったようで・・・」

 未知が要求されたんは本気の演技や。台本まで用意しとったとは念の入った事やが、何回も何回もやり直しをさせられて、最後は本番で喜びまくるとこまでやらされたんかよ。その辺は体が女どもによってそうされても取るから嫌でもそうなるにしろや。そこまでやらされとるのに、

「また躾だったそうです」

 ちょっと待てい。全部要求呑んどるやないか。そやのにまた女どもに責められたんか。気が狂いそうな躾時間が終わったら、なんやて、次の男が来たんか。そいつも未知が三段リーグで負かした相手で、そいつにも本気の演技を強要されたって言うんかいな。

 それもこれまた念の入り過ぎてることに、部屋を変えてやらされたんか。なるほど、未知が体で三段リーグを買収したと言うシナリオ作りのためか。

「全部で五人だったそうです。スケジュールは躾が三時間、演技が一時間がワンセットで良さそうです」

 聞いただけで目眩がするなんてもんやない。五人の男を相手にするだけでも輪姦状態やのに、その間に女による悶絶状態の責めが延々や。ワンセット喰らっただけでも半死半生状態のはずやけど、五セットなんか想像するだけでおぞまし過ぎるわ。

 さすがに続けてやるのは無理があったみたいで休憩時間や食事時間もあったそうやけど、これが終われば女によるイキ地獄が待っとる仕組みってか。あんまり言いたないが、こういうシチュエーションで女が女を責める時にはホンマに容赦がないねんよ。

「だよね。いくらイっても死なないぐらいの気で攻めるものね」

 あのなぁ、ユッキーにはそんな経験あらへんやろ。もっともそうされとるコトリを横目で見とったから知っとるのは知っとるけど。そんなことはともかく終わった頃には心も体もプライドもズタズタどころか粉微塵になっとるわ、

「ですから失踪せざるを得なくなりました」

 こんなエゲツナイのは初めて聞いたで。こんなん脅しやのうて未知を潰しただけやろうが。ユッキーも、

「こんな巧妙な暴行事件は初めて聞いた気がする」

 コトリもや。レイプして女を言うことを聞かせるようにするのはありきたりや。大抵は裸にした写真を撮ったり、もちろん無理やり犯されるシーンをビデオに撮ってそれを材料にして脅すや。

 こんなもんレイプで告訴すれば終わりそうなもんやと思う男が多いんやけど、その事実がバレたら女の人生も破滅するのがこの世の中やからな。それでも割り切って勇気を出せば刑事告訴で報復は可能やが、

「ビデオをや写真は脅しにもなるけど、決定的な証拠にもなる諸刃の剣だからね。でも未知の場合はたとえビデオを手に入れても証拠にならないのよ」

 そうやねん。ビデオだけやったら、未知が男を誘惑してホテルに誘い込み、八百長をしてもらうために嬉々としてエッチやってるようにしか見えん。実物は見てへんけど、それだけ入念に作られとるから未知に不自然さはあらへんはずや。

 ビデオからわかるのは、単なる合意の上のセックスになるから、強制性交罪なんか成立しようもあらへん。そうなると、そういう状態にどうしてなったかを説明して警察に納得してもらわんとならん。そやけど警察に告訴しても、

「嫌になっちゃうけどビデオが男を守っちゃうよ。ビデオが撮られる前にレズで責め上げられて、仕方なく強制されたなんてまず信じてくれないよ」

 悪いけどコトリもそう思う。変な妄想を抱いてる女ぐらいに見られて終わりになるわ。レイプした男性棋士かってビデオで見える通りやと言われたら、それ以上は警察が動くとは思えん。通常ではありえへん異常すぎる状態やからな、

 そうなると未知を拉致した男ども、未知を責め上げた女どもを見つけ出して白状させるしかあらへんけど、どうせ裏社会の連中や。これを一般人が見つけ出すのさえ無理や、

「見つけ出せても証拠も無いのにゲロさせるなんて無理だよ」

 これはついでやけど女どもも未知を犯しとる。そやけど女が女を犯しても強制性交罪にならへんねん。強制性交罪は男がペニスをワギナなり、アヌスなり、口に突っ込んだら成立するもので、これは相手が男であっても成立する。

「女がバイブや、ペニバン使ってもペニスじゃないから性交に当たらないって解釈なのよね。たくバカにし過ぎてるよ」

 だからと言って無罪やない。立派過ぎる強制猥褻罪や。そこで傷が付けば傷害も加わるからな。そやから未知をレズレイプした女連中も絶対に口なんか割るかい。


 未知はこのレイプ劇の後に廃人みたいになってもたそうや。そりゃ、なるで。精神病院にも入院しとった時期もあったそうやが、ようまあ立ち直れたもんや。さらに恋をして結衣が生まれたんやろうが、

「母は亡くなりました」

 それも自殺って・・・最後までフラッシュバックに悩まされたんか。そうなるわ。コトリでさえ五千年前のトラウマは残ってるぐらいやもんな。そんな未知が娘の結衣に最後に言い遺したんがあの事件の真相やったんか。

「まあそんなものです」

 結衣の肩が震えてるやんか。聞くのも辛かったのはわかるで。こうやってコトリらに話すだけでも辛いやろ。それにしても棋士は天才集団やってよう言うけど、ようこんなレイプ劇を思いついたもんや。悪知恵だけやったら神さえ凌ぎそうや。そやけどこの手は、

「未知はある意味、例外過ぎたのかもしれない。それこそタイトル奪取さえ容易と見たから徹底的に潰したはずよ。それ未満の連中は女流に囲ってハーレムやってるんだろ」

 未知へのレイプ劇は巧妙やけど反面リスクも高い。口止め料かって高いし、調達料も半端あらへん。協力を頼んだ連中の筋が悪いからな。そやけど、よう考えたら一回で十分かもしれん。

「おそらく」

 そうなるとあの時に奨励会三段リーグから櫛の歯を引くように女性棋士が消えて行ったのも、

「二段から三段に殆ど昇級しなくなり女流に流れて行ったのもそうです」

 法月ならその棋士の棋力、将来性を見抜くのは容易のはず。プロになりそうな女性棋士には、

「母の無残な様子を見せていたかと」

 そんなもん見せられて脅され、セットで安易な女流の道に誘導させられたら流れてもたんか。一旦流れたら弱いもんや。女流で生きるのに有利なのは法月王座の言いなりになり、体を投げ出して行ったんかよ。そうしたら女流利権のおこぼれが回りやすくなるぐらいか。でもやで女流言うだけで、

「よくおわかりで。寵愛の差はどうしても美醜になります。そして女流棋士への利権はタイトル料の配分になります。女流棋士がアイドル的な人気になり、皆川女流名人が女流名人でいられるのも法月王座の力です」

 そこまでやってたんかよ。

「法月王座は女流振興の立役者として高い評価と女流棋士の強い支持を得ていますが、やったことは女性棋士の台頭を押さえつけ、なおかつ女流棋戦と女流棋士を食い物にしています」

 将棋界全体でも囲碁に後れを取らされてもとる。それよりなにより、

「法月は女の敵よ」