今日はユッキー副社長も加わって熊倉レポートのお話。
「ゲシュティンアンナが性転換してるのは間違いないとして、実際の調教に当たったのはマリと言う女ですよね」
マリは凄腕として良いよね。熊倉の男の心を完璧に女どころか別人に仕立て上げるんだもの。それは良いとしてもシノブが気になるのは調教をゲシュティンアンナがしていない点。そりゃ、調教過程の報告とか、相談はしてると思うけど、マゾ調教はゲシュティンアンアの趣味のはず。
「マリって女だけど、あれはドゥムジの奥さんだよ」
「他におらんしな」
えっ、どういうこと。
「簡単なことじゃない。ゲシュティンアンナはマゾ奴隷を養成するけど、サディストを育てないのよ」
「女でサディストでいるのはドゥムジの奥さんだけや」
そうだった、そうだった。ドゥムジの性嗜好も説明するだけで大変なのだけど、
『人時代の女であるゲシュティンアンナを襲ってしまい、報復としてサディストのゲシュティンアンナから壮絶なマゾ調教を受け真性のマゾヒストになった。一方で女であるゲシュティンアンナからのマゾ調教のトラウマから女性恐怖症になってしまい、女の心を持つ男を愛し、これを性転換させて女王様として崇めて楽しむ』
なんじゃ、こりゃってぐらい歪んでいるけど、要はドゥムジの妻はバリバリのサディストになる。それもコチコチの大ベテランのマゾヒストであるドゥムジを満足させるぐらいだから、世界最高レベルのサディストとして良いかもしれない。
だから熊倉をあそこまでのマゾ奴隷に出来たのはわかるとして、肝心のゲシュティンアンナの趣味はどうなってるんだ。
「ああそれ。マリは一人だし、あの様子なら熊倉専属のはずよ」
「そういうこっちゃ、まだ九人おるやんか。ついでやけど巫女もな」
そっか、それだけいればゲシュティンアンナも楽しめそうだけど、どうしてマリにわざわざ熊倉を委ねたんだろう。それにだよ、熊倉の調教は壮絶だけど、あれだけやって処女のままじゃない。あれは仕上がり状態が処女のはず。
でもだよ、熊倉は男として最後の夜に最後の晩餐を喰らってるんだよね。五人相手に半殺しみたいな目に遭ってるけど、あの五人の女もマリを除けばマゾ奴隷のはずなんだ。それも性転換組。
「ゲシュティンアンナが調教したマゾ奴隷は貞淑のはずですが」
「方針が変わったんやろ。今のゲシュティンアンナは教祖やってるから、政略結婚の道具に使わんでエエし」
「わたしもそれで良いと思う。その方が手間もかからないし」
ユッキー副社長に言わせれば、政略結婚時代の方が手間がかかって大変だったとしてた。それは、なんとなくわかる。男の心のままで女の快感に蕩けさせ、そうしておきながら男性に対する極度の嫌悪感を植え付け、さらに嫁に行ってもコントロール出来るようにするのは書くだけで大変そうだものね。
「そりゃ、こっちの方がラクやろ。ひたすら神の快楽に溺れさせて屈服させるだけやから、手間としたら一直線やし、たぶんやけど回数だけで済むと思うで」
なんちゅうストレートな言い方。でも言ってることは理解できる。ゲシュティンアンナが与える神の快楽は処女で無理やりレイプされても、通常の人で味わえる最高レベルを遥かに越えるものらしいからね。
さらに神の快楽には中毒性があって、一度でも味わうと、すぐに快楽の虜になってしまうとか。ここも簡単に言うと淫乱になってしまうだけでなくゲシュティンアンナが与える神の快楽から離れられなくなる。ここでユッキー社長が、
「中毒性はきっと工夫してるね」
「そうやと思う。どうやってるかわからんけど」
円城寺家時代のゲシュテインアンナは神の快楽の中毒性を活かして、政略結婚の道具にしたマゾ奴隷を縛り付けるのに使っていたものね。巫女のマゾ奴隷ならそれでも良いと思うけど、どうしてメイド服組には工夫が必要なんだろ。
「これも簡単な算数やけど、熊倉の調教はどれぐらいかかったと見る?」
熊倉も途中から日付の観念を完全に失っただけでなく、外の季節の移り変わりにも興味を失ってるんだよ。だから正確な日数はわからないけど、
・男であった事を忘れ、女のアリサになるまで一年
・食堂が一年
・庭掃除が一年
こんな感じで全部で三年ぐらいの気がする。
「そうね。それぐらいかな」
「食堂がもう少し長くて、庭掃除がもう少し短い気もするけど三年ぐらいでエエと思う」
シノブもそんな感触があるけど、これ以上は無理だよ。
「マゾ調教が終了するまでに三年としたら、だいたい年に三人ぐらい新入りがおることになるやんか。だったら三年で九人ぐらいで数が合う」
それになんの意味が、
「独立採算制にしてるかもね」
「そこまでいかんでも無収入はアカン」
月集殿の本部自体は宗教施設として殆ど収益も生み出してないはずなのよ。そりゃ参拝者さえ滅多にいないし。だけど、あれだけのマゾ奴隷を飼うだけでも経費は必要になる。
「じゃあ、仕上がったら収益のために働かせる」
「それが熊倉が嬉しそうに言っていた使命やろ」
ああされてしまったマゾ奴隷が出来る事はそれしかないものね。でも、わざわざマリに調教させた理由がわからないけど、
「考えられるのはマリの手法に適した男の問題が一つ。もう一つは処女のマゾ奴隷を仕上げる特別注文が入っていた」
あぁ、身も蓋もないけど。それぐらいしか考えられないか。使命はぶっちゃけ売春だけど、やはり東京とか大阪の支部が秘密の売春宿になってるのか。
「ちがうと思う」
「コトリもそう思う。そんなリスクもアホらしいやん。単純に売り飛ばしてるんやろ」
それも国内じゃなく海外だろうとしてた。この辺は日本でもそうだけど、売春業となるとヤクザ的な組織、海外ならマフィア的な組織の有力資金源になる。ゲシュティンアンナが自前で売春宿を経営しようとすればどうしても摩擦が起こるし、その挙句に警察沙汰に発展するリスクが高いって。
マゾ奴隷は売春宿にはもってこいだし、マフィアだって買うだけならウエルカムのはず。それこそ金の卵を買う純粋なビジネスだものね。売春宿の経営サイドからしたら、安定して極上の上玉を供給してくれるところは大事にするはず。
そっか、そっか、ここで神の快楽の中毒性が残ってしまうと拙いのか。売った先で順応してくれないと困るものね。どう順応するかの話は省略するけど、
「わたしは売春宿にダイレクトはない気がする」
「コトリもや。飽きて転売されるのはアリやろけど」
つまり金持ちの変態狒々親爺のオモチャとして売り飛ばされるってこと。まあ、それが一番安全だろうし、ましてや海外ならなおさらか。アラブの大富豪ぐらいならいくらでも需要があるかもしれない。
「買う方かって、品質保証付きの上に、本人の意思では自分が本当は誰かも思い出せへんし、本人をいくら調べても、たとえばアリサが熊倉につながりようがあらへん」
それは言える。熊倉なんて処女だし、ゲシュティンアンナが手掛けたマゾ奴隷も、熊倉の最後の晩餐みたいな例外を除けば、ゲシュティンアンナのみしか使われてないものね。熊倉だって死刑囚になった時にその手の病気の健康チェックは受けてるはず。というか、その前の銀行襲撃の負傷の入院治療の時にやってるはずだもの。
推測部分は残るけど、ゲシュティンアンナが月集殿の本部でやっているマゾ奴隷養成は、仕上がれば次々に人身売買にかけられていることになる。その売買費用をゲシュティンアンナはマゾ奴隷養成所の経費として投入している関係か。
「巫女のマゾ奴隷も売られるのでしょうね」
「アホ言うな、そんなんしたら犯罪やんか」
メイド服のマゾ奴隷を売っても犯罪じゃない! ただし熊倉のケースを考えると微妙だな。カラクリが全部暴かれたら犯罪になるけど、熊倉は公式には死刑で死んでるんだよね。つまり存在しない人間になってるんだ。さらに見た目も記憶も完全に別人になっている。
「いくらぐらいでしょう」
「熊倉なら処女やから二本以上やろ。それ以外でも一本は固いかな。それぐらいの美女にしてるはずやし、なにより年取らへんのはプレミアなんてもんやあらへん」
ちなみに一本は億だってさ。年間三億ぐらいは本部運用に必要じゃないかぐらいの試算もあるからね。
それとね、熊倉レポートの最後のところだけど、やってる世界こそ歪んでいるけど、どう言えば良いのかな。非常に困難な目標についに到達した達成感みたいなものをシノブは感じちゃったのよ。
較べる次元が違い過ぎて、言いにくいのだけど、司法試験に合格したとか、医師国家試験に合格したとか、公認会計士に合格したみたいな感じ。熊倉の様子は、そんな難関資格についに合格した感動と喜びに読めちゃうもの。
たぶん熊倉本人はそう感じていたはずだし、資格を得てこれから待ち受ける世界に胸を膨らませきっていたと思うんだよね。シノブにもそういう経験は何度かあるし、そういう時のウキウキ感はわかるもの。
でもだよ、次に熊倉が経験する世界は、言葉も通じない変態狒々親爺相手のの性欲処理なんだ。それも体ごと売り飛ばされてるし、異国の地だから逃げ道なしだもの。やられることだって、相手は所有物の性奴隷ぐらいにしか思ってないから、それこそなんでもやらされるに決まってるよ。
これが死刑を免れる代わりに与えられる刑と言われればそれまでだけど、すっごい複雑な気分。だったら素直に死刑を受けてる方がマシな気さえする。だからこそ死刑以上の刑なのかもしれないけど。