ミサトの旅:あとがき

 今回のお話は、劇中劇と現実が同時進行する形式に挑戦してみました。発想としては面白かったのですが、書いている方としては、二つの話を考えているようなもので、案外手間がかかりました。

 それと劇中劇は映画を使いましたが、これまた撮影現場なんか見たこともないので、ほとんど想像の産物です。監督役も、最初は黒澤明ぐらいをモデルに書いていたのですが、どうにも使いにくくて、現実にはあり得なさそうな演出を行う気鋭の鬼才ぐらいにさせています。

 ヒロインはミサトですが、話の基本は青春ドラマ風です。青春ドラマの定義なんてあるかどうか存じませんが、個人的には若者が悩み苦しみながらも、ある目標に向かって心を合わせて行くぐらいに考えています。

 リンドウ先輩がわかりやすいですが、ただ甲子園を目指して、仲間たちと励まし合いながら、様々な苦難を乗り越えていくみたいな話です。とにかく仲間が必要ですから、前編にあたるミサトの不思議な冒険で不消化だった、ヒサヨやチサト、平田も活躍してもらいました。

 さらに青春ドラマに恋は必要です。いつもながら綺麗すぎる恋ですが、どうにもドロドロが描くのが重くて、ひたすら思い合う純情な恋にさせてもらっています。そういう恋がしたかった作者の投影だといつも思っています。

 クライマックス・シーンは、かなり工夫を凝らしたつもりです。二重三重の伏線がもたらす必然を狙いましたが、書く方が辻褄を合わせるのに悪戦苦闘ってところです。まあ、映像じゃなく文章ですから、辻褄を合わせきれないところは書かずに誤魔化せるのは、いつもながら助かっています。

 もう少し、大学生活の様子を描写したかったのですが、とにかく通ったのが限りなくカレッジに近いユニバーシティだったもので、サークルさえ存在していませんでした。ですから、あの程度になったのを遺憾とさせて頂きます。