ミサトの不思議な冒険:アシスタント段階クリア

 「尾崎、今日は寿司食いに行くぞ」

 オフォスに来てから朝はサンドイッチとコーヒー、昼はロケ弁だったけど、夜は必ず麻吹先生と新田先生が外食に連れて行ってくれた。もっとも食べ放題の焼肉屋とか、串カツ屋、居酒屋、定食屋ばかりだったからお寿司も回るのかと思っていたら、

 「麻吹先生、新田先生お久しぶりです」

 で~ん。なんと白木のカウンターの本物。いや、超が付きそうな高級なお寿司屋さん。

 「尾崎、よくやった」
 「そうですよ。尾崎さん合格です」

 なんかそれまでの十日間が辛すぎて、何を言われてるか、わからなかったんだ。

 「オフィスの弟子は誰でもあれを通る事になる。だがな、本当の意味でアシスタント段階を合格した者はアカネと尾崎だけだ」

 本当って?

 「マドカですら無理だった。タケシもそうだ。尾崎が最初にやろうとした、スタッフの動きを読み、次にカメラマンの仕草を読み取れたに過ぎん。つまりは撮影の段取りを覚えた程度の代物だ」
 「では何を身に付ければ本当の合格なんですか」
 「加納アングルだ」

 それは高校の時に、

 「そうだ。だがあれはサトルやタケシ程度のものだ。あいつらの写真にはそれで十分だが、本当のアシスタント段階で欲しいのは本物の加納アングルだ」

 なんて無謀な目標。でも合格って事はミサトの身に付いたとか、

 「だから合格です」

 聞けば聞くほどムチャクチャされたみたいで、本当の弟子の修業でも最初の撮影ペースは三分の一ぐらいに落とすんだって。そこから徐々にペースアップして、早い者で半年、普通は一年ぐらいかかるものらしい。それをいきなり全開ペースでやらされたのがミサト。

 「二週間しかなかったからな」
 「それでも出来るとマドカは信じておりました」

 そういう問題じゃないでしょうが。それと初日に喰らった撮影延長だけど。

 「あれは驚いた」
 「わたしもです」

 以後も撮影時間こそ延長したものの、初日の遅れも取り戻したそうだけど、

 「マドカも相当やらかしたからな」
 「ええ、アカネ先生の次ぐらいに」

 どんなに優秀な弟子でも十回以上はかならず喰らうそう。

 「さすがはマドカだな」

 あのねぇ、ミサトは殆ど死んでたぞ。生き残れたから出来たんじゃない、

 「あははは、その通りだ。今日は好きなだけ食え。わたしは嬉しいよ」

 とにかく注文しなくても次から次へ出してくれるから、ひたすら貪ってた。やっと落ち着いてきて、

 「聞いてもイイですか」
 「もちろんだ」
 「アシスタントを合格したら次の段階はどうなりますか」

 麻吹先生は嬉しそうに、

 「次は商店街の広告の仕事だ。それから動物になるのだが、尾崎には不要だ。お前は馬まで撮っている」

 あのオープニング写真だ。

 「だから課題を与える」

 また嫌な予感が、

 「なんですか」
 「これを撮って見ろ」

 渡された写真は、

 「こ、これって・・・」
 「そうだ光の写真だ」

 これは麻吹先生しか撮れないウルトラ・テクニック、

 「そんなことはない。アカネも撮れるし、マドカだって使わないだけで撮れる」
 「でもミサトなんかに」
 「光の写真と加納アングルは裏表の関係にある。まだ四日ある。それまでに撮ってみろ」

 光の写真も加納アングルも故加納先生が編み出したデクニックだけど、先に生れたのが光の写真で、これの応用技術が加納アングルだって言うのよね。

 「だから尾崎にも必ず撮れる」

 あのねぇ、そんなに簡単に光の写真が撮れるわけないじゃない。撮れないから、それを撮れる麻吹先生がブレークしたんじゃない。それにさぁ、もしミサトが撮れてしまったりしたらプロじゃない。

 「あたり前だ。ここは摩耶学園写真部じゃなくオフィス加納だ。ここでやるのはプロへの修業だ。だから弟子として扱うと言っただろ」

 なにか麻吹先生がトンデモナイ先生に思えてきた。そこから麻吹先生と新田先生の会話を聞くともなしに寿司食べながら聞いてたんだけど、

 「ツバサ先生、これでそろいましたね」
 「ああ、間に合った。後はハワイだ。マドカもワクワクしないか」
 「そうですね。ハワイ旅行は楽しみです」

 そうだった。たとえ光の写真を身に付けてもハワイでも地獄が待ってそう。とにかくこの二人の先生が『ワクワク』とか『楽しみ』と口にしてロクなことはないのだけは学習した。