怪鳥騒動記:リー将軍

 時を少し遡らせて米国防総省にて。

    「怪鳥派遣軍の司令官に任命されるのは光栄ですが、こんな複雑かつ曖昧な指揮系統では混乱を招くだけです」
    「リー将軍、これは決定である」
    「しかし、だいたい誰がトップなのですか」

 オーストラリアへの米怪鳥派遣軍の位置づけは、MBMOからの要請に基づいているのですが、MBMOからの派遣軍との共同作戦となっています。

    「共同作戦であるのはわかりますが、我が軍はMBMO軍のサポート的な位置づけになっております」
    「その通りだ」
    「そのMBMO軍はたったの三人ではありませんか。それもすべて女。さらに軍人でもない民間人」
    「その通りだ」
    「我が軍はMBMO軍の指揮下に入るのですか」

 米派遣軍は乾坤一擲を期して選り抜きの精鋭部隊。三万の戦闘部隊を含む総勢十万にも及ぶ大軍です。

    「将軍には米軍の指揮を執ってもらう。彼女らに我が軍の指揮は無理だからな」
    「その上で全軍の指揮は誰が執るのですか」
    「彼女らだ」
    「私は彼女の指揮下に入るのですか」

 統合参謀本部長は、

    「将軍はMBMO軍と呼んだが正式には存在しない。公式にはMBMOからのオブザーバーだ。実態として存在する軍隊は我が軍だけで、その指揮権は君にある。だがMBMOが主導権を握るとなっており、MBMOからの要請に君は従ってもらう必要がある」
    「軍隊では現場の指揮権の一元化が鉄則です。現場で口を出されれば混乱のみが生じます」

 統合参謀本部長は嘆息するように、

    「今回の決定には異議も多かった。理由は君が懸念する通りだ。しかし大統領はこの計画に全面賛同されており、我々としても従う他はないのだ。もう一度、君に念を押しておく。これは決定である」

 不承不承どころでないリー将軍ですが、命令に従うのが軍人でありMBMOからのオブザーバーと作戦会議を開きます。

    「リー将軍におかれては不満の多い決定でしょうが、宜しくご協力を頂きたいと存じます」

 リー将軍だけではなく幕僚たちも、あからさまに『この小娘』の態度と表情が出ます。

    「作戦の骨子は怪鳥の弱点である背後を叩くために第一段階として足止め作戦を行い。第二段階として足止めされた怪鳥の背後を攻撃するで宜しいですね」
    「その通りです」

 リー将軍たちの不満として、足止め作戦の内容が不明なことです。

    「作戦ならお渡しした計画書に書かれてますが」
    「そうですが、月夜野副社長が足止めしている間に小山社長が怪鳥を失神させるとはどういうことですか」
    「書いてあるそのままでございます」

 ここも統合参謀本部長から足止め作戦に関してはMBMOの指示に何があっても逆らってはならないとの命令を受けています。

    「我々は何をすれば良いのですか」
    「作戦通りです。足止めが行われた怪鳥の背後を攻撃してもらいます」
    「そうとはなっていますが、足止め作戦で我々が協力すべき内容です」
    「邪魔をしないこと、わたしたちが足止めを終わるまで攻撃を控えることです」

 どうにも納得がいかないリー将軍は、

    「まさかと思いますが、お二人だけで怪鳥と対峙し釘付けをされると仰るのですか?」
    「そう書いてあるのが読めませんか?」
    「バカげてる・・・」

 小山社長は宛然と微笑みながら、

    「常識外の作戦と受け取られるのは致し方ないところもあるとは存じますが、この作戦は米統合作戦本部の承認を受けております。さらにはジョンストン大統領の賛同も頂いております。リー将軍に置かれましては、その命令に従って頂けるように希望します」

 そこまで言われれば承服せざるを得ませんが、

    「これはわたしたちからの要望ですが、共同作戦の成否は両軍の緊密な連携にあるかと存じます」
    「それは当然のことだ」
    「それは兵士レベルの相互の理解も必要かと存じます」
    「まあ、そうなる方が望ましいが・・・」

 兵士とか軍とか言ってもMBMO軍はたったの三人。

    「具体的に何を要望されますか」
    「ちょっとした両軍の交流ですよ。リー将軍においては御承認頂けますか」
    「拒否するような話ではありませんが」

 翌日から兵士たちの間を巡る女三人組の姿が。許可したとはいえ、

    「チャラチャラとしやがって、あれでは逆効果だ」

 苦々しい思いが湧きおこります。幕僚たちの不満も爆発寸前ですが、

    「諸君らの不満はわからんでもないが、我々は軍人だ。命令を忠実に遂行するのが本分だ。感情は押さえてくれたまえ」
    「そうは言いますが」
    「この作戦は大統領の直命同然だ。我々が反感を表面化するのは大統領に逆らうことになり、大統領に逆らうのは合衆国に逆らうのと同じ意味になる。そこのところをよく考えてくれ」

 幕僚たちの不満の宥め役に回らざるを得ないリー将軍も不満がたまっています。

    「こんな状態で怪鳥とまともに戦えるとは思えん。とんだ貧乏くじだ。やはり受けるべきではなかったか・・・」
前途に暗澹たる思いを抱きながらオーストラリアに向かいます。