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「コトリ、ほら円城寺家の調査報告書」
「ありがとう。ほいでも、えらい時間かかったな。そんなに難しかったんやろか」
「わたしもまだ読んでないけど、最近調査部がもう一つなのよ」
「シノブちゃん不在が応えてるかもな」
情報戦は古代も現代も重要。いや、現代なら必須やからコトリが復帰したら早急に建て直さなあかん。ユッキーも一人じゃ、そこまで手が回らんやろし。それはとりあえず春から手を付けるとして、
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「へぇ、南武HDの円城寺栄一郎社長が直系やったんか」
「あらそうなの。じゃあ、しっかり栄えてたのね」
歳は滋麿さんと同じぐらいやけど、なるほどね。財産が出来たから地位と名誉が欲しくなったってところで良さそうや。それにしても源兵衛の出自はホンマに低そうや、水呑み百姓からでも下に見られる賤民層みたいや。
明治で四民平等ってされたけど、現実には華族もおったし士族もおった。それ以前に民衆の意識の中に色濃く残ってる時代としてエエと思う。源兵衛はそのコンプレックスをバネにあの成功を収めてるけど、出自の低さを笑い飛ばせるキャラじゃなかったみたいや。
源兵衛が憧れた上流階級からはかなり冷たい扱いも受けてるわ。あの時代的にはしょうがないと思うけど、へぇ、円城寺家の娘を嫁さんにしたんか。明治三十六年ってなってるから、滋麿さんの孫娘みたいやけど。
なるほどね。円城寺家は地下家の下官人からコトリがドサクサに紛れて華族にしたようなものやけど、貧乏でも男爵家やもんね。それにしても、どっちが持ちかけたんやろ。クソッタレ、調べてないやないか。
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「コトリ、倉麿って誰なの」
「誰やこいつ。コトリも知らん」
滋麿さんの息子は綾麿さん一人。コトリは生まれた頃から知ってるし、コトリが死んだ時にもお見舞いに来てくれた。あの時で二十三歳だったはず。コトリの知ってる明治の円城寺家に倉麿なんて影も形もなかったで。
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「コトリが死んだ後に養子でも取ったんじゃない」
ようそんなとこ行ったと思うけど、学習院じゃ肩身が狭すぎたと言ってた、学生同士の付き合いも派手で、貧乏な円城寺家じゃ苦し過ぎたんもあると思てる。それでも二十歳で卒業して少尉になってるんよ。
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「その後に病気になったんじゃない」
なんかおかしいぞ。滋麿さんは五十歳で隠居してるんよね。でも綾麿さんは現役少尉のまま。そいでもって倉麿が男爵になってる。そいでもって三年後に滋麿さんも綾麿さんも亡くなってる。
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「病気?」
「いや食中毒ってなってる」
ということは滋麿さんも綾麿さんも死ぬ直前までそこそこ元気であったはず。なんで倉麿が出て来るねんよ。
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「滋麿さんの親戚とかは?」
円城寺家は滋麿さんの祖父の代に下官人の株を買って作られた新家。祖父の実家は火事で一家行方知らずやったと聞いたことがある。つまり実家は消滅。祖父も、滋麿さんのお父さんも育った子どもは息子一人だけ。つまり親戚なんておらへん。
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「じゃあ、誰なのよ」
「戸籍上は綾麿さんの一つ下の弟ってなってる。もっともやけど、この戸籍は大正十二年の関東大震災で焼けた後に再整備されたものやから、倉麿が後からどうにでもできるやんか」
これ以上は調べられんか。そいでもって倉麿の写真は残ってるんよね。当時の華族はある種のスター扱いされてたからブロマイド写真が売り出されたりしてたんよ。
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「なかなかイイ男じゃない」
「でも滋麿さんとは全然似てないで」
言っちゃ悪いが、滋麿さんは醜男、滋麿さんの奥さんも、お母さんも醜女。そやから綾麿さんも醜男で、滋麿さんの娘さんもヘチャムクレ。そんだけ集まれば当然そうなるんやが、どこをどう間違っても倉麿の顔が出てくる余地がない。
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「北田家に嫁いだのは倉麿の娘?」
「そらそうや、綾麿さん結婚してへんもん」
「その娘さん幾つだったの」
「十八歳ってなってるから、明治十八年生まれや。その前年に男爵家になってるし、この時代の円城寺家はコトリもよく知ってるのよ」
「おかしいわね。養子を取るにしても妻子持ちは普通取らないもんね。それに他の家の男やったら婿養子にしそうなものだし」
「倉麿は滋麿さんの娘と結婚してへんのは間違いないんよね」
なんじゃ、これ。そうなれば、
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「円城寺家いうても、滋麿さんや綾麿さんの血は一滴も流れてないやんか」
「戸籍上は綾麿さんの弟が継いでるけど、これは乗っ取られたんじゃない」
「そうとしか考えられん」
コトリの死後に円城寺家に何が起ってんやろ。
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「そうなってくると滋麿さんや綾麿さんの死も怪しくなるわね」
「たぶん毒殺されたでエエと思う」
なんちゅうことや。あの滋麿さんがなんて酷い目に。許せんぞ。倉麿はなんのために円城寺家を・・・なんも調べてないやないか。北田財閥が財閥解体後に南武グループとして再編成されて、現在はその中心に南武HDがあり、そこの社長が円城寺栄一郎なのはわかるけど、北田家はどうなったんよ、なんで円城寺家が南武HDの社長やねんよ。
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「ユッキー、調査部問題ありすぎやろ」
「ホントだわ」
「とりあえず倉麿は昭和二十五年に八十四歳で死んで、その後は久麿、敏雄、義行で今は栄一郎と続いてるのはわかるけど、それだけじゃ肝心なとこがわからへんやんか」
「そうね。わかるのは今の円城寺家が倉麿の子孫だってことだけだし」
滋麿さんや綾麿さんの無念を晴らしたい気持ちはあるけど、倉麿から五代目じゃ、どうしようもないか。今さら子孫に復讐しても、向こうにしたら意味不明だろうし。それにしてもモヤモヤする。
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「ユッキー、再調査厳命しといて」
「わかった」