アカネが弟子を取るってか。考えたこともなかったけど、そのうち無いとは言えないもんな。前にツバサ先生に聞いたこともあるのだけど、
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「弟子は取らないといけないのですか」
「取らなくても良い。ただわたしも弟子入りから始めた。アカネもそうだ」
ツバサ先生の話でプロの壁のイメージだけはわかった気がする。テクで行き着く先を越えることぐらいの意味でイイで合ってると思う。だけど、そんなもの教えようがない気がする。
おそらくテクだけで壁を乗り越えさせようとしたのがサトル先生。でも結果は大失敗。個展で見たカツオ先輩の写真はスカスカだったもの。う~ん、難しいな。なにを会得したらプロの壁を越えるのかな。
サキ先輩のケースを考えてみよう。サキ先輩は才能のなさを嘆いてた。でも才能ってなんだろう。写真だけで考えるから良くないのかもしれないな。絵画にたとえた方がわかりやすい気がする。
絵の上手な人はたくさんいるけど、プロとして食えるのは、ほんの一握り。プロの画家は客が買いたいと思わせる絵を描いてると見てよい。テクニックで到達した先にその世界があり、そこに入れた者だけがプロになってるぐらいかな。
そっか、そっか、プロになるにはテクの上になにかプラスアルファが必要なんだ。これがそもそもないと悲観して挫折したのがサキ先輩で、つかみ損ねたのがカツオ先輩と見てよいかもしれない。ほんじゃあ、アカネはどうしてプロになれたんだ。
プロになれた時期ははっきりしてる。及川電機のカレンダーの課題。加納先生と言う途轍もない目標を与えられて、無我夢中で突き進んでいるうちに壁をぶち壊して行ったに違いない。あの時にアカネにプロに必要なプラスアルファが備わったんだ。
あの時にツバサ先生はどういう意図でアカネにあの課題を与えたんだろ。あの時のアカネは商品広告しか撮ってなくて、芸術系の写真は初めてだったのに。それでもツバサ先生にはアカネがあの課題で何かを会得すると考えてんだろ。
でもこれでマドカさんにやってもらう事がはっきりした。やはり課題を与えるべきだよ。問題はどんな課題にするかだ。そうだな、マドカさんに足りないもの、付け加えて欲しいものぐらいがイイ気がする。
まずマドカさんのキャラを復習しとこう。マドカさんの第一印象はお嬢さん。今の印象はお嬢様。どこをどう間違ってフォトグラファーなんて目指しているのか、わかんないぐらいの上品なお嬢様。
礼儀作法からしてアカネと格が違うもの。オガクズ流だっけ、ちょっと名前が違う気もするけど、とにかく水際立った立ち居振る舞いとは、あんなんだと初めて知った。アカネなんてツバサ先生から、
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「わたしは写真しか教えない方針だったけど、アカネを見て気が変わった」
「アカネに何が足りなかったんですか」
「今からでも赤迎に行って、一年ぐらいお辞儀の仕方でも修業して来い」
お正月の時に花を活けてたし、忘年会の余興でフルート吹いてた。そうそう字も綺麗。これもオフィス加納の慣例で書初めやるんだけど、そりゃ鮮やか。聞いたら段持ちだって。アカネの方は、
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「アカネ、字が汚いのは我慢するけど間違わないでくれ。『初春』の『初』は示す偏じゃなくて衣偏だ」
そうそう漢字と言えば東京出張の時はマドカさんとセットの時が多い。方向音痴ではないつもりなんだけど、東京の地名に極端に弱いところがあって、
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「ツバサ先生、今度の仕事はシブタニですね」
「違うシブヤだ」
「シンヤドの高層ビル群を背景に」
「違うシンジュクだ」
「予定はダイダイギ公園を回るでイイですね」
「違うヨヨギ公園だ」
「フニン池も撮るのですね」
「違うシノバズノ池だ」
二回ぐらい仕事場に到着できなかったことがあってから、マドカさんとセットになってる。だって
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「ヒグレリってどこですか」
「そんなところは知らない・・・それってニッポリのことか」
「違いますヒグレリです。ニッポリとは全然違います」
ざっとだけどマドカさんってそういう人。でもアカネは買っている。あえて写真の道にチャレンジしてる姿勢を評価してるんだ。だから預けられたからには、どうにかしてモノにしてあげたい。
でもこれだけじゃ、どうしたらイイのかわかんないな。でもヒントらしきものをつかんでいる気はするんだ。これはマドカさんの写真を見ていて感じる違和感なんだ。どう言えばいいのかな、端正だけど端正すぎる気がするんだ。
端正が悪い訳じゃないけど、どうにも端正過ぎるんだよね。そう最初から端正に撮るように狙って、そうなってる感じ。もうちょっと言えば、端正に撮るようにしか撮れてない気がするんだ。
でも、そんなものどうやって変えたらイイんだろう。ここなんだけど、簡単に変えられるならツバサ先生がとっくの昔に変えてるはずなんだ。下手に手を付ければマドカさんを潰してしまうからじゃないかな。
そっか、そっか、教えたら潰すから、自力で身に付けるように導けってことだろう。課題の方向性は見えて来たけど、もうちょっとヒントがないと迂闊に決められない気がする。