浦島夜想曲:理事会バトル(1)

 いつも通りのシャンシャンの定例理事会と思ってたのですが、桜田理事が緊急動議を出して来ました。

    「加納理事ですが、ずっと欠席されております。御高齢でもあり、解任決議案を提出させて頂きます」

 マリーも知らなかったのですが、加納さんは協会の前理事長ですが、退かれた後も理事におられたのです。これはマリーもウッカリしてました。だって理事会の椅子は六つしか用意されてませんし、加納さんの欠席どころか、一度も話題にならなかったので見過ごしていました。小山社長には、

    『ロッコールで手いっぱいだったのはわかるけど、一度ぐらい理事名簿に目を通しなさい』

 叱られてしまいました。長期の欠席と高齢が理事として相応しくないとするのは理由として筋は通るけど、こういう場合はまず辞職勧告ぐらいが穏当な気が、

    「加納理事は理事会の案内状を送らせて頂いても、出欠の返事さえありません。これは理事会及び協会への侮辱とも受け取れます」

 言えない事もないけど侮辱は飛躍の気もする。そうしたら理事たちは、

    「もう四年ですからな」
    「ある種の給料泥棒みたいなものだし」
    「イイ加減世代交代しませんと」

 そんな賛同意見が並んだところで理事長が、

    「みなさん異議はございませんか」

 ここは動く時、

    「NOデス」
    「アンダーウッド理事、反対理由は」
    「NOデス」
    「反対理由をお願いしたいのですが」
    「NOデス」

 こりゃ便利だ。理事長はマリーの日本語が怪しいと思い込んでるはずで、これ以上聞いても無駄って表情になり、

    「アンダーウッド理事が反対意見の様ですから採決にしたいと存じます。加納理事の解任に賛成の方は挙手をお願いします」

 そうしたら竹本理事、梅木理事、桜田理事が挙手。ここで会議室に驚きが走ったのは栗田理事が挙手しなかったことです。理事長は、

    「栗田理事、挙手されないと言うことは反対で宜しいですか」
    「はい」

 理事長の顔に苦いものが走りましたが、気を取り直すように、

    「では賛成多数で加納理事の解任を決議します」
    「いぎアリマス」
    「なんですかアンダーウッド理事」
    「かいにん、ツー・サーズ、イルイル」

 理事長はどうしてそんな事を知っているのかって顔になり、

    「理事長の私も賛成ですから、ツー・サーズを満たします」
    「コレ、コレ」

 マリーが持ち出したのは加納先生の委任状。

    「スリー・オポジット、OK?」

 理事長はわなわな震えながら、

    「どこからそれを」
    「カノウ・セント・ツー・ミー」
    「いや委任状があっても、それは予め通告された議題に対してのみ有効で、緊急動議への投票権はない」
    「NO! パワー・オブ・アトニイ・ハズ・ボーティング・ライト。チェック・ザ・レギュレーションズ」

 理事長は事務局に会議の規定を確認していましたが、

    「なんて規定になってるんだ」

 解任決議は否決せざるを得なくなります。この日の理事会は微妙過ぎる空気の中で終了となりましたが、思えばこの日が皮切りになったで良さそうです。いきなり週刊誌に出たのが、

    『写真文化振興協会でクーデター騒ぎ』

 突然の加納先生の解任決議案提出と、それを防いだアンダーウッド理事みたいな記事です。クーデター言ってもヒラ理事の解任なのですが、事が加納さんに関する事なので、ワイドショーまで乗り出して来てちょっとした騒ぎです。それでも否決されていたので椿事ぐらいで終りそうにも見えましたが、

    『写真文化振興協会の闇』

 協会に不明朗なカネの動きがあり、一部理事が私腹を肥やしているとのスキャンダル記事です。当然のように加納理事解任騒ぎとの関連性が持ちだされます。事態を重視した理事長は緊急理事会を招集。理事長は冒頭で、

    「報道で不明朗なカネの動きとか、私腹を肥やす理事がいると書きたてられているが、根も葉もないことです。理事会終了後に記者会見を開きますが、理事会の意見統一をしたいと思います」
    「チョット、イイデスカ」
    「どうぞアンダーウッド理事」
    「ねニモはモアルノデスカ?」

 日本語が怪しい演技も大変です。

    「ありません」
    「デハ、コレナンデス」

 マリーは理事に資料を配り、

    「コノ、ブックス、ナンデスカ」
    「これは・・・」

 理事に動揺が走ります。理事長は動揺を隠しきれないように、

    「これは偽造だ」
    「ぎぞう、WHAT?」
    「フェイクです」
    「デモ、ココ、アナタ、サイン」
    「それもフェイクだ」

 マリーは新たな資料を配り、

    「ハンドライテイング、チョック、サイン、りじちょう、イコール」

 理事長は必死になって、

    「この筆跡鑑定は信用できない。こんなサインはしていないし、こんな帳簿も見たことない」

 マリーはさらに新たな資料を配り、

    「ミスター・マツバラ、ミスター・タケモト、ミスター・ウメキ、ミスター・サクラダ、ヨワーズ・レシート、イイデスカ」
    「・・・」
    「ソノひノ、フォトグラフ」
    「・・・」
    「きょうかい、デューティー、ノー。イッツ・オール・レジャー」

 動揺しまくりの理事長は、

    「協会の業務が終わってからのプライベートだ」
    「ネクスト・ページ・プリーズ。オール・デューティー・デイズ、オール・レジャー・デイズ、WHY?」

 事態を収拾したい理事長は、

    「アンダーウッド理事が提出された問題は、後日検討したいと存じます」
    「NO、いまハ、マイ・タイム」
    「座って下さい」
    「NO、マイ・タイム。アイ・ハブ・ア・セイ・ライト!」

 それにしても結崎専務は凄腕です。理事長のサイン入りの裏帳簿から、交際費のレシートから横流しによる贅沢三昧まで写真入りで調べ上げています。さすがに出してませんが、愛人とのベッドシーンの動画まであるのです。

    「ミスター・マツバラ、ミスター・タケモト、ミスター・ウメキ、ミスター・サクラダ、かいにんボート、プリーズ」

 理事長は突然、

    「今日の理事会はこれにて終了。予定していた記者会見は延期とします」
    「フィニッシュ・ノー、ボート・プリーズ」
    「今日の理事会は終ったんだ」