浦島夜想曲:理事会バトル(2)

 記者会見場に協会職員が出向き、集まっていた記者に、

    「皆様、申し訳ありませんが、本日の記者会見は中止とさせて頂きます」

 一斉に上がる不満の声と怒号、

    「どういうことなんだ」
    「事情を説明しろ」
    「なにかやましいことでもあるのだろう」
    「とにかく理事長を出せ」
    「理事でもかまわん」

 協会職員は慣れていないものでシドロモドロ状態です。そこにマリーが顔を出し、

    「協会理事のマリー・アンダーウッドです。私で良ければ皆様の質問にお答えしましょう。ただし、ここは協会が設定した記者会見場です。ここで私が記者会見を行うと宜しくありません。場所を変えさせて頂きます」

 協会職員はあわてて、

    「アンダーウッド理事、そんなことをされては・・・」
    「私は協会理事ですが、私的に記者会見を開く事まで制限されておりません」

 そこで全部公開してやりました。そりゃ、もうお祭り騒ぎ。翌日からは裏帳簿の分析から遊興の実体まで暴き放題。理事長以下の四人は自宅まで報道陣が押し寄せ大変な状態になります。そんな中で再び緊急理事会が招集されます。

    「アンダーウッド理事への懲罰動議を提出します」
    「理由は」
    「協会の名誉を貶めたからです」

 本当は解任したかったのでしょうが、解任のための三分の二確保は加納さん解任決議で無理と知っていますから、過半数で決議可能な懲罰動議に切り替えたようです。

    「懲罰内容は?」
    「理事会への出席を当分の間、差し止めた上で正式の処分を後日決定します」
    「私が記者会見で発表した内容は、私が調べ、先日の理事会でも公表し、これについての有効な反論はありませんでした。これは理事会も内容を認めたと受け取っておりますが」
    「いや、あの時は後日検討としただけで、理事会が認めた訳ではありません。それにしても、その日本語は・・・」
    「だから日本語は話せると言ったはずです」

 これは理事に就任した時の話で、あまりにマリーの日本語が怪しげだったので通訳を入れるかどうかが問題になり、これを断った経緯を踏まえてのものです。

    「では採決に移ります」

 この日は栗田理事が所用を理由に欠席、もちろん委任状は握ってますから、マリー一人で加納さんの分も含めて三票です。ここでさらに竹本理事が病気療養を理由に急遽欠席となっています。票決はマリーの三票が反対、梅木理事、桜田理事が賛成で三体二になります。ここで理事長が、

    「私は竹本理事の委任状を持ってるから賛成は合わせて四票だ。よって過半数でアンダーウッド理事の懲罰動議は可決とする」
    「異議あり。理事解任動議は議長である理事長の投票も含めてのものですが、懲罰動議は理事のみの投票で、議長である理事長が投票権を行使できるのは、理事間の投票が同数の時のみです」

 理事長の顔が蒼白に。事務局に理事会規定を取り寄せて確認していますが、覆せません。

    「アンダーウッド理事の異議を認める。懲罰動議は否決とする」
    「では、今度は松原理事長、竹本理事、梅木理事、桜田理事への懲罰動議を提出します」
    「それは認めん」
    「議長の一存で懲罰動議は却下できません」

 ここで、理事長はまたもや逃げの一手を、

    「今日の理事会は・・・」
    「終了できません。緊急動議の採決が終わるまでは、理事長と言えども会議を終了できません」

 それでも強引に会議室から出ようとする三人に、

    「今日の理事会はあなたがたが出席した時点で成立しています。途中退席されても理事会は成立します。宜しいですか」
    「だから会議は・・・」
    「終わりません」

 それでも会議室から出て行ったので、一人残ったマリーは事務局相手に会議を続けました。事務局も思わぬ事態に動揺はしていましたが、

    「宜しいですか。理事長が急用で退席されましたので、議長代行に私がなります」
    「確認しました」
    「松原理事長、竹本理事、梅木理事、桜田理事への解任決議案を提出します」
    「確認しました」
    「満場一致で可決です」
    「確認しました」
    「新理事長に加納理事を推薦します」
    「確認しました」
    「満場一致で可決です」
    「確認しました」
 まるでペテンのように理事長たちは解任され、加納さんが理事長に復活となりました。ここまで上手くいくとはマリーも思いませんでした。この後に前理事長以下が地位保全の仮処分請求を出しましたが手続きになんの瑕疵もなく、あえなく却下。写真文化振興協会は加納さんの支配下に戻る事になります。

 理事長に復活された加納さんは加納賞の審査で賄賂を受け取っていた連中を全員解任した上で、自分が携わっていない加納賞の審査を過去に遡ってすべてやり直しています。これも大きな話題になりましたが、世論は加納さんを支持して収まって行きました。