流星セレナーデ:歴史は繰り返す

    「ミサキちゃん、晩御飯食べて帰らへん」
    「コトリ副社長、どこに行くのですか」
    「久しぶりに出前取ろうって、ユッキーと言うとってん」

 お鮨は三十二階の龍すし支店から。この店は通常は出前をしないのですが、クレイエール本社ビル内だけ、いや事実上は三十階仮眠室にだけ特別サービスでやってくれます。

    「まいど」
    「うわぁ、おいしそう」
    「エラン人との会見もこれぐらい出してくれたらエエのに」
    「ホント、ホント。毎度毎度の仕出し弁当はウンザリよ」

 たしかにあの仕出し弁当は美味しくなかったけど、お代わりまでしたのはどこの誰って言いたい。お二人は味にはウルサイけど、不味くても平然と食べちゃう不思議なところがあります。

    「コトリ、ビール出して。ミサキちゃんの分もね」
    「カンパ~イ」

 ミサキの頭の中でモヤモヤしてるのは、アラの話とお二人の分析。地球から大量のシリコンを入手したエラン人は確実に地球に舞い戻ってきます。

    「コトリ副社長、エラン人はシリコンを母星に持ち帰りましたよね」
    「そうや」
    「だったら地球はどうなっちゃうんですか」

 そしたらお二人は顔を見合わせて、

    「ミサキちゃんが聞いた通りよ」
    「では地球はエラン人のものに」
    「ならないよ」

 早くもビール缶を開けてしまったお二人は次のビールを取りに行っています。

    「ユッキー、ビール・サーバー買おうよ」
    「そうだね、ホーム・バーに組みこんじゃおうか」
    「それイイ、それイイ、六本立てぐらいにしようよ」
    「でも、そうなると専用ビール・カウンターも作らないと」

 それにしても来るたびに充実する仮眠室です。

    「でもエランの宇宙船はまた来ますよね」

 お二人はビールを片手に顔を見合わせて、

    「来れるかな」
    「無理じゃない」
    「来ても一隻ぐらいかも」
    「えっ?」

 またビール飲んじゃったのか、

    「ミサキちゃんもお代わりいる?」
    「は~い、お願いします」

 このペースじゃ、今夜は帰れないかも。

    「ミサキちゃん、エランでは多数の意識分離が行われるのよ」
    「そうですよ、地球からシリコンを持ちかえれば大々的に行われるはずです」
    「そしたらどうなる?」
    「神となって地球に押し寄せてくるはず」
    「神が協力して?」

 あっ!

    「現在のエランでは意識分離技術の復活に懸命になってるはずだけど、これを地球移住用に使うには、まずカプセルへの移動技術、次にカプセルから宿主への移動技術の確立が必要なの。その過程で神は量産されるわ」

 そうだ。カプセルへの移動で九千年前、他人への移動は実質アラだけだから、これの実用化テストが必要だものね。

    「それよりなにより、意識分離技術の拡散が再び起こる。大量の神の発生は戦乱しか引き起こさないってこと。これがわかってたから、アラは意識分離技術を使わずにエラン人を地球に移住させる方法を模索してたのだと思うよ。それなのにわざわざ千年戦争以前の状態に戻したらどうなるか決まってるじゃない」
    「ミサキちゃん、そういうこと。アラの話で一番信じられるのは、意識分離から神が発生した点だと思っていいわ。そして神は地球の神とキャラは、ほぼ同じって点も。そこはエランにとっても重すぎる歴史だから、アラも誤魔化せなかったで良いと考えてる」
    「あの宇宙船団がエランに到着した後は大変なことになるよ」
 お二人がアラやエラン代表に確認したかったのは、神についてだったんだ。エランの神と地球の神が同じかどうかの一点に絞って調べてんだと今さらながら気づきました。そのためにアラをクレイエールに誘い込み、実際にその目で見、さらに実際に試してその能力を調べ上げたのだと思って良さそうです。

 とくにアラがミサキを襲わなかった点の解釈に頭を悩ませていたと見て良さそうです。これも当初はアラには神が見えないからかもしれないと考え、アラに自分たちが神であることを明かし、さらに地球の神は出会えば殺し合うものだともあえて教えたのだと。

 おそらくお二人の結論は、アラは神ではあるがユダのように殺しあいを避けるぐらいでしょうか。そうなるとアラ以外のエランの神がどうであるかの確認に焦点が移り、結論として、

    『エランの神も地球の神もキャラは同じ』

 同じ性格の神であるなら、その神がなにをするかもお二人は熟知されています。

    「エランの滅びは避けようがないのですか」
    「これも想像やけど、革命政府はエラン脱出のためだけではなく、誰でも神にするぐらいのスローガンも掲げてると思ってるよ」
    「でもエランだって神の存在が混乱を引き起こすことは知っているはず」
    「だから九千年前だって。アラが神を殺せるのは知っていても、神がどれほどの混乱を引き起こすかは軽視してもおかしくないよ。それ以前に、神になって地球に行かなきゃ、いずれエラン人類は滅亡するやんか」

 そうなんだ、エランでもアラこそ現場で見知ってるとはいえ、アラ以外の人間には一万年前の話なんだ。都合の良い方に解釈しても不思議ないよね。そうなると、

    「エランではまた千年戦争時代になるのですか」
    「歴史は繰り返すってやつかな。これはアラの話を信じればやけど、エランのテクノロジーでも神の制御は無理みたいやから」
    「これって、ひょっとして」
    「さすがにそこまではわからへん。繰り返しているのが二回目なのか何回目なのかはアラでも知らんかもしれへん」

 ビールをガンガンあおるように飲まれるユッキー社長とコトリ副社長を見ながら、ユダも含めて地球に残っている神が平和なのに改めて感謝しました。お二人だって、いやユダだって、その気になれば地球征服を目指して不思議ないからです。これがせいぜい女神の喧嘩程度で終わってくれているのは地球の幸せです。

    「ところで三十階の壁やけど」
    「ダメです」
 それとこれとは話が別です。