コトリが部屋から出られない状態の時に魔王は動いたの。セラの戦いの結果を受けて三度目のエレギオン包囲に出てきやがった。でもコトリは寝込んだままだったの。ユッキーは、包囲戦下の忙しい中だったけど、出来るだけ時間を作って来てくれた。ユッキーはこうなった状態のコトリのことを良く知ってるから、最初のうちは部屋に来て黙って座ってるだけだった。
でもやっぱりコトリも気になるから聞いちゃったの。そうしたらユッキーはポツリ、ポツリと戦況のことを話してくれた。ユッキーから聞く限りでは、既にアングマール軍に攻め手は残ってなかったみたい。三ヶ月も囲んで、梯子攻撃を一回やっただけ。ただ囲んでるだけみたいだったの。
心理攻撃もあるにはあったけど、前回や前々回と較べると程度も期間も短かったみたい。その代りと言ってはなんだけど、城門前にしばしば現われて、攻撃ならぬ口撃を繰り返していたみたい。あれもある種の交渉かもしれないって、それでねユッキーは、
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「今度はコトリ抜きでもだいじょうぶみたいだから、ゆっくり休んでてね。だいぶ無理さしちゃったし」
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「これ、コトリも好きなお菓子よ」
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「ダメよ、これはわたしの分だから。コトリのはちゃんと作ってきたじゃない」
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「なによこれ」
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「蜂蜜も小麦もちょっと不足気味だから節約中なの」
「そこまで・・・」
「心配しないで、まだまだ食べ物は残ってるから」
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「じゃあ、昨日持ってきたのも、その前に持ってきたのも・・・」
「コトリは病人だから別扱いよ。足りなくなったといっても、まだ女神がお手本やってるだけだから」
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「ユッキー、ホントはどうなってるの」
「だから、前も言ったじゃない。今回は口撃ばっかりで余裕なんだから」
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「これは次座の女神様、なにかご用事ですか」
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「バレちゃったか。コトリには心配かけたくなかったんだ」
「どうして、言ってくれなかったのよ。コトリが寝ている場合じゃないじゃない」
「ううん、今のコトリは休むべきなんだ。宿主代わりからの不安定期にあれだけ働かせたのを反省してる。あんなに働ける時期じゃないのを良く知ってるのに、ついつい働かせちゃった」
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「じゃあ、ちょっと仕事があるから失礼するわ」
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「首座の女神様は、もうほとんど食べ物を口にされていないかと思われます」
「まさか、コトリの目の前で食べてる分がすべてとか」
「おそらく。あれもそうしないと次座の女神様が心配されると仰いまして、ほんの何口かだけ。あとはわたしたちに下賜されます」