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「カランカラン」
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「はぁ〜い、お待たせ」
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「マスター、ホーセス・ネック作れますか」
「かしこまりました」
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「このカクテルって、アメリカの競馬ファンが縁起を担いで飲んでたって知ってた?」
「へぇ、そうなんだ。たしかに馬に因むから飲んでても不思議ないかも。コトリちゃん、競馬やるの」
「やらないけど、飲んでみたかったんだ」
「お味は」
「勝負師の気分」
「なんだそれ」
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「ところでさぁ、源平両軍はどれぐらいいたの」
- 一騎が一〇人なら五二〇人
- 一騎が一二人なら六二四人
- 一騎が一五人なら七八〇人
- 一騎が二〇人なら一〇四〇人
「難しいなぁ」
「あら、珍しい。そこは研究してなかったん」
「えらいからむやん、一つ言えるのは源氏搦手軍はせいぜい千人ぐらいやと思ってるねん。そうじゃなきゃ、徹夜の夜襲明けの二月五日朝に三草山を出発して、二月六日夜に多井畑厄神で宿営できへんやろ」
「ほんじゃ搦手軍一万騎は千人ね」
「もうちょっとだけ補足しておくと、勢揃いシーンのとこ読んだ?」
「歴史的カナ遣いのひらがなの洪水で頭痛がした」
「あそこの搦手軍の名前は五二人なんや」
「よく数えたね。後は算数ね
微妙に遠い気がする」
「ここは考えようやなんやけど、列挙されている武者は原則として領主階級の気がするんや」
「でも弁慶も入ってたで」
「だから原則や言うてるやん。弁慶は有名人やから入ったぐらいにしといて」
「そうしといてあげるわ」
「それはどうもありがとう。領主階級以外にも騎馬武者として家の子、郎党がいるんやけど、入ってない可能性があると思うや。ちなみに大手の範頼軍には四五人しかおらへんねん」
「なにが言いたいかわかった。少し大きめの領主なら、自分の直属の小隊の他に家の子・郎党の小隊ももっていたかもしれんってことやね」
「そうやねん、もう一〇騎か二〇騎おったらだいたい千人になる気がする。移動距離を考えたら千人でも多い気がするけど、それぐらいおらんと寂しいし」
「寂しいで終らせるのも寂しいけど、現実的にそんなもんね。それやったら大手の範頼軍は三千人ぐらいになるね」
「そんなもんしか言いようがあらへん。勢揃いの時には五万六千騎って書いてあるけど、東の木戸に押し寄せたのは三万騎ってなってるし」
「ほんじゃ平家は」
「これもチョボチョボやったんちゃうかな。仰山おったら源氏軍踏みつぶして上洛するやろから」
「山本君らしくないアバウトな推測やけど、他に考えようがないもんね」
「あえていうたら三草山合戦で平家軍が蹴散らされたんで、兵力的に平家が若干不利やったかもしれへん。それとも互角になったんかもしれへん」
「ホントに今日はアバウトやね」
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「でもなぁ、仮に源平両軍がそれぞれ四千人ぐらいとしたらちょっと面白い見方ができるんや」
「どんなん」
「あくまでも仮定やけど、東の木戸で激突した範頼軍と知盛軍の数が同じぐらいとする」
「それはアリかもね」
「そうなるとやなぁ、平家が西の木戸と鹿松峠に回せる軍勢も義経軍と互角やった可能性が出てくるんや」
「あ、そうなるよぇ」
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「疲れてんの、それとも風邪気味」
「そんなことないけど、ちょっと」
「心配事やったら聞いてあげるよ」
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「実はねぇ、ちょっと決めたことがあるんだ」
「なに?」
「まだ秘密。そのうち話せると思うけど」
「楽しみしていてエエのかな」
「たぶんね」