水中翼船からヨット

今週も上手くネタを拾えず悪戦苦闘の1週間でした。今日は完全にお手上げ状態に近いので素人のお勉強の跡みたいなものを書いておきます。船はと言うより、乗り物にはどちらかと言うと弱い方で、マリンスポーツどころかフェリーもあんまり乗った事がありません。その程度の知識で船の話に出来心で口を出し、少々恥しい思いをしましたので泥縄式のお勉強です。お勉強と言っても程度は素人が素人相手に酒席の話題に出来る程度なので、雑談と思って読んでくだされば幸いです。


水中翼船

水中翼船は一度しか乗った事がありません。その時は次の便から欠航と言う時化状態で大揺れし、ひたすら吐き気にだけ耐えていた思い出しか残っていません。これが小学校の時で、縁が無いので無関心だったのですが、何故に水中翼船は早いのかのまずお話です。ごくごく単純に船の構造は前が尖がった縦長になっており、後ろにスクリューがあってこの推進力で進みます。

これも言うまでもないですが、船体は半ば沈み、半ば浮く状態になっています。今回の泥縄式の勉強で初めて知ったのですが、そういう一般的な船の事を「排水型」と言うそうです。たぶん意味は船が水中に沈んでいる分だけ「水を押しのけている(排水している)」ぐらいと考えています。船が進むとこの沈んでいる部分が波を起します。これを造波抵抗と呼ぶらしいですが、結構と言うか相当な抵抗になります。

人が泳いでも当然同じ事が起こるのですが、わかりやすい例で言うと、競泳でも水面で泳ぐより、潜水してしまった方が速くなるのは良く知られたところで、水面で起こる造波抵抗は船でも当然大きな問題になります。でもって造波抵抗を小さくするにはどうしたら良いかですが、要は沈んでいる部分を可能な限り小さくする事がポイントになります。

たとえばウィンドサーフィンですが、あれは沈んでいる部分が板一枚になり、水面を滑走している状態に近くなります。これは造波抵抗をかなり小さくした状態になります。しかし船をそういう状態にするのは無理があります。人一人ならともかく、ある程度の重量を水面に浮かべるにはどうしたって沈む部分は出てきます。

そこで考えられた手法が水中翼です。水中に翼を付けて揚力を与え、船体を浮き上がらせてしまおうです。ここで誰しも思うのは、船体が浮き上がる代わりに水中翼と言う抵抗が新たに出来る事になり、その差引勘定はどうなんだと言うところです。もちろん差引勘定がプラスだから水中翼船が成立しているのですが、水中翼の効果はかなり凄いものです。

排水型が起す造波抵抗は速度が増すに連れて大きくなりますが、水中翼で翼走した場合は、速度が増しても抵抗が増える率が劇的に下がります。同じ推進力で進んだ場合、速度が増せば増すほど水中翼が有利になるぐらいの理解で良いかと思います。非常に条件の良い排水型にくらべても、抵抗は1/4ぐらいに下がるという試算もありました。水面での高速化アイテムとして非常に有用な手段と言う事になります。


人力水中翼船

世の中には楽しい競技に熱中されている方々がおられるのですが、人力ボートによる最高速に挑戦されている人々もおられます。これはYAMAHAチームのレポートなんですが、これをかいつまんで説明させて頂きます。YAMAHAチームも当初は排水型で挑戦しています。しかし排水型では限界があります。そこで限界を突破するために水中翼を採用しています。水中翼の形式は2つあるようで、

  • 水中貫通型
  • 全没型
水中貫通型とは水面から水中に連続する大型の翼ぐらいの理解で宜しいかと思います。これに対し全没型とは、船底から一本の足を出し、その先に翼を付けて形ぐらいです。YAMAHAチームも水中翼を採用するにあたり悩んだそうです。水中翼の問題点は、
  1. 翼走状態になるまでの加速が必要(これには翼が大きい方が有利)
  2. 翼走状態では翼が小さいほうが有利(大きな翼は抵抗になる)
人力ですからエンジン出力は限界があります。限られた出力で考えないといけないのですが、水中翼も翼走になるまでは排水型より水中翼がある分だけ速度では劣ります。なるべく早く翼走状態になる事が必要です。それには翼を大きくするのが有利なんですが、いざ翼走状態なったらこれも推進力が限られていますから、大きな翼では抵抗がバカにならないので翼走状態でも思うような速度が上らず、さらに翼走状態そのものを維持するのが大変と言う問題に直面したようです。

実はそれ以前の問題もあって、人力ですから重量問題は相当シビアです。水中翼を付けるにしても可能な限り小さくて軽量である方が望ましいです。軽量で小さいという点では全没型が有利なんですが、想像してもわかるように全没型をモノハル(単胴)に取り付けると、前後の2点で船体を浮かせるスケートみたいな構造になります。そんな状態で倒れないかの懸念です。

これについては案ずるより産むは易しの面はあったようで、翼走状態になるにはある程度の速度が必要です。その状態になると二輪車と同じで直進安定性が生まれスケート状態でも倒れない事がわかったようです。倒れないのなら全没型が絶対有利になります。様々な試行錯誤についてはリンク先を参照されると良いと思いますが、18ノット(約30km/h)ぐらいは可能になっているようで、現在は20ノット(約37km/h)の壁に挑んでいるようです。


水中翼ヨット

人力でも水中翼が可能ならばヨットでも可能になります。ヨットの場合は人力よりさらに推進力が大きいため利用しやすい側面さえあるようです。ヨットへの水中翼の応用も「どうやら」初期は船ごと浮かせるではなく、船の排水部分を減らすために使われたらしいの記述がどこかにありました。ヨットでは翼走状態にならなくとも、排水量の減少による造波抵抗の減少だけでも高速化に効果があったというところでしょうか。

ただヨットでは風を推進力にするためにモノハルでは操縦が非常に難しくなるようです。モノハルの水中翼ヨットも存在しますが、安定性と操縦性からカタマラン(双胴)からさらにトリマラン(三胴)が主流になっているようです。このカタマランの水中翼ヨットは見ていると従来のヨットの概念をぶち壊しそうな代物です。

本当に恥しいお話なんですが、ヨットが最高速を得られるのは追い風ではなく向かい風の時になるそうです。追い風の方が有利なはずだと無邪気に思っていたのですが、追い風では風速以上の速度は物理的に出ません。ところが向かい風状態なら、速度を増しても推進力である風力は変わらないどころか、船が走る事により得られる風力まで加わりさらなる加速が可能となっています。もちろん向かい風に対してまっすぐ走る事は無理で、おおよそ45度ぐらいで走る事になります。

排水型のヨットではそれでも風速と同じぐらいが限界だそうですが、水中翼を利用するとなんと80km/hぐらいは可能になるそうです。排水型では向かい風状態の方が速いと言っても、その分走行距離が長くなる分がかなりのデメリットになりますが、水中翼ヨットでは得られる高速化で十分にお釣りがでる感じでしょうか。

向かい風時のヨットの姿勢もかなり違います。排水型ヨットでは、ある程度船を傾ける(ヒールさせる)方が接水面積が減って有利だそうですが、カタマランの水中翼ヨットではだいぶ違います。水中翼ヨットでも風による横向きへの傾斜モーメントが生じますが、双胴のねじれ効果による(ここの理屈がようわかりませんでした)左右の水中翼の揚力効果がこれをかなり打ち消してくれるそうです。つまり基本姿勢はフラットに近い(緩やかなヒールぐらいが理想だそうです)ものになります。それとカタマランにする事によって操縦性もかなり容易になるそうです。


ヨットレースで有名なものにアメリカズカップがあります。現在のアメリカズカップの様子ですが、

水中翼カタマラン・ヨットによるF1レースみたいな様相になっています。ただ私のノスタルジアですが、かつてニッポンチャレンジアメリカズカップに挑戦して時代の方が好きです。

やっぱり歳かなぁ?