EMとセシウム

今日のお話はWarblerの日記様の、

これを参考にさせて頂いていると言うより内容はそのままです。ですからリンク先を読んで頂ければそれで必要にして十分なのですが、むしろ私が理解した範囲を整理するために書いていると御了承下さい。


福島の公式実験

福島県農林水産部が民間等提案型放射性物質除去・低減技術実証試験事業なるものを行いその成績が、

こうして公開されています。試験方法は
  1. 汚染濃度が異なる褐色森林土1(約1,200Bq/kg乾土)、褐色森林土2(約47,000Bq/kg乾土)、褐色低地土(約38,000Bq/kg乾土)を11:2:1で混和したもものを14リットルのプランターに入れる
  2. EMやその他のものを入れ、小松菜を55日間生育
  3. 小松菜の放射性セシウム濃度を計測する
  4. さらに栽培収穫後の土壌のセシウムによる放射線濃度を測定する
ちなみに試験は3反復されたとなっています。試験区は5つに区分されているのですが、区分は少々複雑ですが表にしておきます。なお表中のEM堆肥とは正確には「EMオーガアグリシステム標準たい肥」だそうですが少々長いので略させて頂きます。

試験区 資材施用量(kg/10a) 元肥
(成分 N-P2O5-K2O)
追肥(成分)
EM堆肥 5000 無し 硝酸Ca(N 1.1kg/10a)
×3回
微粉ハイポネックス 230 無し
囲炉裏灰 1100 化成肥料
対照 カリウム 48
無処理 0


こういうモデル設定が適切なのかは私には判断できませんが、とにかくこういう試験区分類で行われています。元は山土ですからある程度は肥料を加えないと小松菜は成育しないのだろうぐらいは理解できます。


小松菜へのセシウム移行結果

これも表にして示します。

試験区 134Cs 137Cs 合計 移行係数 t検定
無処理 対照
EM堆肥 3.0±0.6 4.3±1.2 7.2±1.8 0.0007 0.1%有意 1.0%有意
微粉ハイポネックス 5.3±0.8 8.7±1.2 13.9±2.0 0.0014 1.0%有意 有意差無し
囲炉裏灰 2.2±0.6 3.2±0.9 5.4±1.5 0.0005 0.1%有意 1.0%有意
対照 カリウム 9.2±1.0 13.6±1.8 22.7±2.8 0.0023 1.0%有意
無処理 23.8±1.5 35.6±2.6 59.4±4.1 0.0060 有意差無し


単位はBq/kgです。EM肥料は確かに小松菜へのセシウム移行を抑制しています。これは根拠のあるソースとして信用しても良いと思います。その移行の程度は、
  • 無処理に対して0.1%水準で有意
  • 対照に対して1.0%水準で有意
EM堆肥は微粉ハイポネックス(これも肥料の1種のようです)に対しても効果が上回っているようにも思います。ただここで良くみると塩化カリウムを加えただけの対照群でも無処理に対して1.0%水準で有意になっています。またEM堆肥より数値上は囲炉裏灰の方が若干ですが好成績を収めています。素人目に見て囲炉裏灰はEM堆肥とほぼ同等の効果はありそうと見えます。

事は農業ですから小松菜の発育成績はどうかです。

試験区 草丈(cm) 生葉数(枚) 株重(g)
EM堆肥 25.4 7.8 28.6
微粉ハイポネックス 27.4 8.3 31.9
囲炉裏灰 24.2 8.3 25.1
対照 カリウム 23.7 8.0 25.9
無処理 23.3 7.8 24.8


小松菜成育の評価の仕方が良く分からないのですが、至極単純には微粉ハイポネックスが一番大きくなっています。次いでEM堆肥と言うところでしょうか。ここまでの成績で言えばEM堆肥はセシウム移行量の少なさで囲炉裏灰と並んでトップクラス、小松菜の肥料としては2番目と言うところでしょうか。


セシウムと肥料

農業環境技術研究所報告 第31号75−129(2012)に土壌−植物系における放射性セシウムの挙動とその変動要因と言うのがあります。これが実に詳細な内容で、斜め読みでサラサラと読み下そうにも専門論文らしく手強いものです。正直なところ私の知識がチト不足している部分が大です。とは言え重要な話なので出来るだけ頑張って解説してみます。

解説と言っても後の話に必要な部分だけのほんのさわりだけなんですが、セシウムは性質として表土の30cm程度に留まりやすいです。これはセシウムがプラスイオンであり、土壌中で他の負電荷物質と結合しやすいからとなっています。この結合の程度も相手となる負電荷物質によって変わり、非常に強力で結合すると二度と離れないほどのものから、土壌中の環境によって付いたり離れたりするものまであります。

話は農業なので、農業で必要な肥料の成分のうち、NH4塩(アンモニア)とK塩(カリウム)はセシウムの緩く結合しているものへの影響は大きいとなっています。どちらの方が影響が大きいかですが「NH4塩 > カリウム塩」だそうです。とくにpHが上昇した時のNH4塩はセシウム塩の遊離を促しやすいとしています。しかしNH4塩の土壌中の動態、とくに植物の生育に関する働きは非常に複雑でこれをコントロールするのは現段階では難しいと結論付けています。

NH4に較べるとKは遥かに安定しており、これのコントロールはまだしも可能とし、至極単純にはK濃度が高い方がセシウムの植物への移行は抑制できるです。非常に中途半端で雑な解説でしたが、表7−1 チェルノブイリ原発事故後の対策として実施された技術の概略(pdf 39ページ)に

肥料成分 Csに対する効果
カリウム 効果は、土壌の交換態Kの量に強く依存する。Kの量が少ないか最適な場合は、多量のK肥料の施用が非常に効果的である。Kの量が多い土壌の場合には、作物生産による消費を補う程度の適度な量のK肥料でよい。
窒素 窒素量が過剰となると、放射性Csを吸収しやすくなる。
有機質 主要な効果はKの供給と考えられる。放射性Csの吸着サイト増加の寄与は少ないと考えられる。


窒素とはNH4塩に由来するものであり、これの制御は上述したように困難です。また土壌中のpHが低くなる方が良いのはNH4塩のセシウム塩への影響の抑制に起因すると考えられ、酸性土壌には石灰の投与が有用ともなっています。長い長い寄り道でしたが、これが既知の事実として存在するのが確認できます。


福島の公式実験にやっと戻ります。試験のために投与された主な成分も公表されています。

試験区 土壌の交換性カリウム
(K2O mg/100g)
投与肥料成分
(kg/10a)
Cs移行係数
投与前 収穫後 K2O N P2O5
EM堆肥 48.4 53.4 194.5 157.8 307.0 0.0007
微粉ハイポネックス 44.4 43.5 18.3 15.0 0.0014
囲炉裏灰 80.4 91.0 0.0005
対照 カリウム 37.5 43.8 0.0023
無処理 26.6 15.0 0.0060


なかなか興味深いのですが、カリウム投与量と収穫後のカリウム量が比例していないのは面白いところです。EM堆肥がダントツにカリウム投与が多いのですが、その半分以下の投与量の囲炉裏灰が収穫後のカリウム量としては一番となっています。理由は良くわかりませんが、EM堆肥中のカリウムは土壌に残留する効率が非常に悪いのが確認できます。

そのため投与量に比べ囲炉裏倍の2倍以上でも、最終的に土壌中のカリウム濃度が囲炉裏灰を下回り、移行セシウムが多くなっていると言えます。この辺はセシウム移行の上昇材料となる窒素が他の比べ10倍以上であると言うのもあるでしょうが、収穫後の残留カリウム量と小松菜への移行カリウム量は明らかに相関しています。Warblerの日記様よりお借りしますが、

それでもEM堆肥が小松菜へのセシウム移行を抑制しているのは確かです。問題はEM堆肥だから抑制しているのか、EMを使っていない堆肥でも同様の効果があるのかです。これはこの公式試験からは
    まったくわかりません。
この試験でわかるのは、
  1. 土壌中のカリウム濃度の高さは小松菜へのセシウム移行を抑制する
  2. EM堆肥より囲炉裏灰の方が土壌中のカリウム濃度を高く保てる
そいでもって、これはもしkoume様がこのエントリーを読んでいたらコメント頂きたいのですが、EM堆肥、囲炉裏灰の投与量です
    EM堆肥・・・1haあたり50t
    囲炉裏灰・・1haあたり11.1t
囲炉裏灰の投与量も多そうに思いますが、EM堆肥の50tはどうなんでしょうか。たとえばよりCs移行量を減らそうと思えばEM堆肥を75tにするとか100tにするも素人考えで出てきますが、現実的にはどうかです。感覚的に判り難いところがありますので、良ければご意見下さい。


土壌中のセシウム

実験用土壌は、

    褐色森林土1(約1,200Bq/kg乾土)、褐色森林土2(約47,000Bq/kg乾土)、褐色低地土(約38,000Bq/kg乾土)を11:2:1で混和したもの
算数で単純計算すれば10371Bq/kgになります。これの収穫後の変化は、

試験区 土壌中の134Cs+137Cs
(Bq/kg乾土)
投与前 収穫後
EM堆肥 10371 9883±420
微粉ハイポネックス 10242±409
囲炉裏灰 10655±398
対照 カリウム 9877±434
無処理 9851±425


55日間の生育試験ですが、一番Csが減っているのは「無処理」です。これとて有意の数値とは言い難いところです。EM堆肥は「無処理」「対照」の次ですから、他も含めてCsの減少には寄与していないとするのが妥当と考えます。せいぜい減ったのは肥料の増加分による薄まりと小松菜に移行した分しかありませんから、ごくごく当たり前の結果が出ているだけです。明らかになった結果は、
    EM堆肥を1haあたり50トン投入しても土壌中のセシウム消去効果はゼロである
通常の堆肥では理想的に微生物が働くと醗酵熱により微生物の多くは死滅するとされますが、EM菌の耐熱性は仰天するほど驚異的ですから「元気」なはずなんですけどねぇ。


EM側の考え方

EM研究機構の東日本大震災特設ページにリンクされている船井幸雄.com 比嘉教授連載のEMによる地域全体の放射能汚染対策〜放射能対策に関するEM(有用微生物群)の可能性に、

 興奮気味に、Dr.Higaの言っていることが本当だったと説明し、私に2種類の麦の穂と植物体を示したのである。EMをやらなかったものは、普通の穂で10cm内外、草丈も70cm内外であったのに対し、EMを施用した区は、穂の長さは15〜20cmもあり、草丈も90cm内外もあり、収量は2倍以上になったということである。確かに、これまで全く見たことがない巨大な麦の穂であった。しかも、放射性物質は殆ど吸収されておらず、すべて基準値以下とのことであった。

 このことは、放射性物質は、EMの活用次第では、エネルギー肥料になることを意味するものである。すなわち、基準値以下の弱い放射性物質を土壌にまいて、EMを活用すれば、従来の概念と異なった、エネルギー肥料としての放射性元素の活用が可能である、ということである。

これが比嘉教授がよく持ち出されるベラルーシのお話と受け取ります。なかなか凄いお話で、

    このことは、放射性物質は、EMの活用次第では、エネルギー肥料になることを意味するものである。
「である。」と断言されるのは御勝手ですが、いつもながら魂消ます。でもって、これは少なくともEM堆肥では無理な事は福島県の公式実験で明らかになっています。それにしても喩えでも放射性物質をあんまり撒いて欲しくないところです。ではEM堆肥ではなくEM液ならどうだです。これについてはWeb Ecopure比嘉照夫教授連載 新・夢に生きるの第51回 EMによる放射能対策の成果に、

そのため、当初は10aあたりEM活性液に20%EM3号を加えたものを100リットル、週に2回散布という方法をとりました。1か月後には放射線量は40%も減少し、2か月後には75%も減少し、当初目標の5000ベクレルまで下げることができました。

EM混合液を10aあたり100リットルと言う事は1haあたり1tのEM混合液を週2回撒くとの事になります。ここの当初の放射能量は20000Bq(/kgだと思います)となっており、

時期 EM混合液量
(haあたり)
Cs量
開始時 ゼロ 20000Bq
1ヶ月(4週計算) 8トン 15000Bq
2ヵ月(8週計算) 16トン 5000Bq


つまりEM肥料を50t/ha使っても55日間で放射能消去には何の効果もありませんでしたが、2ヶ月でEM混合液を16t/ha撒けば放射能は1/4まで減少するとの事です。もし福島県なりが、もう一度公式試験を行なわれるなら、
  1. 非EM堆肥も試験に加えて頂きたい
  2. 無処理にEM混合液の試験も行なって頂きたい
とくに無処理にEM混合液投与は注目される結果になりそうです。


EMのセシウム消去実験の追試験は個人レベルでも可能そう♪

1haに5tとか10aに100リットルのEM液をばら撒く実験は到底個人レベルで手に負えるものではありませんが、福島県の公式実験に準じたものなら可能と考えます。福島県の実験で使ったプランターは、

65cm×23cm、14L

ここで10a散布量とプランター散布量の換算も公表されており、

試験区 kg/プランター kg/10a
EM堆肥 0.690 5000 0.000138
微粉ハイポネックス 0.032 230 0.000139
囲炉裏灰 0.153 1100 0.000139
対照 カリウム 0.0067 48 0.000140


そうなるとEM液は10aあたり100リットル(≒100kg≒10万ml)ですから換算すると・・・えっと、
    14ml
あれ?これだけ?。ちなみにプランターの表面積は0.1495平米です。おおよそですがデスクトップのキーボードの2倍ぐらいの大きさです。EM実験で実際に撒かれた量を面積比で考えると14.95mlになります。微妙に換算量は違いますがおおよそ同じです。

10aで100リットルは漠然と大量投与と思いましたが、プランターあたりにすると15mlに過ぎない事がわかります。それぐらいで放射能消去効果が得られる事になります。必要量は週2回、8週間で16回投与しても240mlです。これぐらいでプランター中のセシウム75%除去が可能と言う事になります。ここは多い方を取って15mlモデルで追試験を行うのがベターと思います。さらにより確実に追試験を行うのなら

  1. 15ml連日投与8週間モデル
  2. 10倍量の150mlを週2回投与モデル
なんだったら100倍量モデルもあっても良いかもしれません。これらが行われたらより詳しいデータが得られそうな気がします。そうそう対照は忘れずに設定しておいて下さい。誰かその気のある方はチャレンジしてみませんか? そうそう
    EM活性液に20%EM3号を加えたもの
混合比はEM研究機構にでも確認しておいて下さいね♪