「国民の6割以上が自宅での療養を望んでいる」のソース

2012.8.27付日経記事(有料部分)に、

厚労省によると、国民の6割以上が自宅での療養を望んでいる。

また2006.10.5付神戸新聞には、

できるだけ終末期は自宅で療養したいという人が約六割いるという調査結果もある。

これは2006年当時に厚生労働省審議官であった宮島俊彦氏のお言葉です。もう一つ在宅医療体制構築に係る指針(案)には、

国民の意識調査では 60%以上の国民が終末期における自宅療養を望んでいる状況がある

3つの調査は同じソースに基づいているとして良いでしょう。ソースは在宅医療体制構築に係る指針(案)に明記してありますが、

これになります。結構大部の調査ですが、1998年、2003年、2008年の3回行われています。間隔からすると来年ぐらい調査があるかもしれません。サンプルですが2008年データで表にして見ます。

対象者 調査人数 回収率 回答人数
一般国民 5000 50.5% 2527
医師 3201 35.0% 1121
看護師 4201 43.3% 1817
介護施設職員 2000 57.8% 1155
合計 14402 46.0% 6620


年齢構成を一部示しておきますが、

年齢 一般国民 医療職 合計
20-39歳 678 1139 1817
40-59歳 911 2468 3379
60歳以上 954 402 1356
不明 2 66 68
合計 2527 4093 6620


「国民の意識調査」とする割りにはサンプルに偏りがあるのですが、もちろんこういうサンプル構成になっているのは理由はあります。質問項目が実に71問もあり(そりゃ回答率は下がるわなぁ)、終末期医療全般についての幅広い質問が行われています。これは医療側と一般国民側(患者側)の意識差も調査するのが狙いとも見えます。


この71問の中にソースになる質問があるのですが、該当するのは1問で、

問48(一般国民対象) 自分が治る見込みがなく死期が迫っている(6カ月程度あるいはそれより短い期間を想定)と告げられた場合の療養の場所について

  1. なるべく早く今まで通った(又は現在入院中の)医療機関に入院したい
  2. なるべく早く緩和ケア病棟(終末期における症状を和らげることを目的とした病棟)に入院したい
  3. 自宅で療養して、必要になればそれまでの医療機関に入院したい
  4. 自宅で療養して、必要になれば緩和ケア病棟に入院したい
  5. 自宅で最後まで療養したい
  6. 専門的医療機関(がんセンターなど)で積極的に治療を受けたい
  7. 老人ホームに入所したい
  8. その他
  9. わからない
  10. 無回答

まず質問対象は「一般国民対象」となっています。年齢構成は上記した通りです。回答は「%」で表にして示して見ます。

選択枝 1998 2003 2008
なるべく早く今まで通った(又は現在入院中の)医療機関に入院したい 11.8 9.6 8.8
なるべく早く緩和ケア病棟(終末期における症状を和らげることを目的とした病棟)に入院したい 20.7 22.9 18.4
自宅で療養して、必要になればそれまでの医療機関に入院したい 20.4 21.6 23.0
自宅で療養して、必要になれば緩和ケア病棟に入院したい 28.3 26.7 29.4
自宅で最後まで療養したい 9.0 10.5 10.9
専門的医療機関(がんセンターなど)で積極的に治療を受けたい 4.4 3.2 2.5
老人ホームに入所したい 0.9 0.7 1.0
その他 0.5 0.9 0.6
わからない 2.5 2.6 4.4
無回答 1.5 1.2 0.9



この回答に対する実質としての厚労省の分析です。

 一般国民において「自宅で最後まで療養したい」と回答した者の割合は11%であった。自宅で療養して、必要になれば医療機関等を利用したいと回答した者の割合を合わせると、60%以上の国民が「自宅で療養したい」と回答した。

なんか書かないといけないが辛いのですが、とりあえず

  • 自宅で療養して、必要になればそれまでの医療機関に入院したい
  • 自宅で療養して、必要になれば緩和ケア病棟に入院したい

これが全体の約半分を占めます。もう一度質問項目を見て欲しいのですが、
    自分が治る見込みがなく死期が迫っている
これがどういう状況かを回答者は思い浮かべるかです。回答者は断定は出来ませんが、回答者自体が終末期である可能性は極めて低いと考えます。そういう状況でどういう「死期」を思い浮かべるかで回答は変わります。シチュエーションを示唆させるものとして、
    (6カ月程度あるいはそれより短い期間を想定)
一概には言えませんが「6ヶ月」の文字が最初に飛び込んでくると私は思います。死期まで6ヶ月なら思い浮かべそうな状況は、まだ自分はある程度動ける状況です。もちろん体調はある程度崩しているにせよ、死期を宣告なりされた時点で、悪いなりに幾らかは体調に余裕のある状況です。私ならそういう状況が頭に思い浮かびます。「6ヶ月」のイメージとしてはそんなところだと思っています。

そういう状況なら別に病院にいたいとは積極的には思いません。体調が許す限り自宅に帰りたいです。もう少し体調が許せば旅行でも行って見たいとか、身辺整理もしておきたいも出てきても不思議はないと考えます。つまり死期こそ迫っていても、最後に何か出来る時間があるイメージです。そうであれば体調が許す限り自宅療法を選択枝として選ぶのは自然と感じます。次にですが、

    必要になれば
この後に病院なりホスピスの選択はあるにしろ、体調が悪化すれば「必ず入院する」がセットになっています。あくまでも私の感じ方ですが、この選択枝で回答者が思い浮かべる状況は、
  1. 悪いなりに体調が保っている間は在宅治療
  2. 悪化すれば当然入院
こうであると見ます。そういう選択は在宅医療推進前から、ごく普通に行われていたと私は思います。では現在の在宅医療が入院するまでの自宅療養期間を延長するため「だけ」に行われているかです。そうでないのは周知の通りです。この調査をテコに、終末期でさえ最後まで在宅療法を行うのが
    国民の希望♪
こうだと決められてしまいした。さらに終末期でさえ在宅が可能であるなら、終末期未満の状態であれば在宅がもっと
    国民の希望♪
こうであると、さらにと決め付けられてしまったわけです。参考までに完全に無視されている質問項目があります。

問49 自分が治る見込みがなく死期が迫っている(6カ月程度あるいはそれより短い期間を想定)と告げられた場合、自宅で最期まで療養することは実現可能か

  1. 実現可能である
  2. 実現困難である
  3. わからない
  4. 無回答

一般国民の分の回答を表にして見ます。

選択枝 2003 2008
実現可能である 8.3 6.2
実現困難である 65.5 66.2
わからない 23.2 25.7
無回答 3.1 1.9


一般国民の確実に6割以上が自宅での療養が実現困難であるとしています。でもって理由ですが、これも一般国民の分だけ表にします。

設問 2003 2008
往診してくれるかかりつけの医師がいない 27.0 31.7
訪問看護体制が整っていない 17.8 19.4
訪問介護体制が整っていない 10.7 10.9
24時間相談にのってくれるところがない 14.4 14.8
介護してくれる家族がいない 13.9 14.5
介護してくれる家族に負担がかかる 78.4 78.5
症状が急に悪くなったときの対応に自分も家族も不安である 57.3 54.1
症状が急に悪くなったときに、すぐ病院に入院できるか不安である 27.2 31.6
居住環境が整っていない 18.6 46.4
経済的に負担が大きい 30.8 33.1
その他 2.2 2.5


一般国民が最も懸念している
    介護してくれる家族に負担がかかる
これに関しては華麗にスルーである事はよく判ります。書いたところで今さら詮無い話なんですが、「国民の希望」は必要となったら入れる施設の整備を希望しているように私は読めます。ただそういう読み方は厚労省にとっては曲解も甚だしい様です。以上ソースでした。