大元のソースは、平成21年7月5日付で日本助産師会島根県支部が出している平成21年7月5日付で出されている助産師業務ガイドラインに関する説明資料です。とくに「ガイドラインの活用の前提となる留意事項」が個人的には興味深かったので、ここを中心にお楽しみ頂ければと思います。ただ面白いと言っても「そこはかとなく」程度ですから、じっくり噛みしめて頂ければジワジワと味が出てくるぐらいのレベルですので宜しくお願いします。
前提となる留意事項は全部で9項目あるのですが、外野から考えればこの9項目は助産師業務ガイドライン(ガイドライン)を守るための必須事項に見えます。「前提」とは絶対必要条件になるはです。なぜかと言うとガイドラインは守るのが当然であるからです。とくに日本助産師会的にはそうなるはずです。ガイドラインを守らずに助産業務を行なう助産所は認め難いとするのが妥当でしょう。
ここでなんですが前提となる留意事項」を守れなかったらどうなるかです。島根県支部が出している資料は平成21年7月5日付であり、これは2009年の改訂に合わせて出されたものと考えるのが妥当です。2004年時点の前提となる留意事項は調べられませんでしたが、新たな留意事項が加えられたのであれば、加えられた時点で満たしていないところは「速やかに整備」が常識かと存じます。
「速やか」がいつまでかは幅があるかも知れませんが、初訂版が2004年、改訂版が2009年、そいでもって留意事項にあるのですが、
(9) ガイドラインは、産科学の進歩、出産環境の変化等をふまえ、少なくとも5年ごとに見直すこととする。
5年毎に改訂予定であれば次が2014年になります。「速やか」はやはり改訂後1〜2年ぐらいが目一杯でないかと考えます。5年もすれば新たなガイドラインが制定されるだろうからです。それと留意事項と言っても、基本的に助産師会も検討会に加わって賛成したもののはずですから、実現不可能な項目を無闇に付け加えたものと思えません。あくまでも「速やか」に整備実現されるものとして決められたとするのが妥当です。つま2012年時点では満たされていて当然と言う事です。
でもってなんですが、あくまでも私が捻って読みすぎているのかもしれませんが、前提となる留意事項が満たされなくとも、ガイドライン遵守のためには「必ずしも必要でない」に見えてくるのが不思議です。そんなはずがある訳ないのですが、
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ガイドラインの活用の前提となる留意事項
- 産科医療補償制度及び助産所責任保険へ加入していること。
- 無床助産所(自宅分娩を取り扱う助産所)の場合もこのガイドラインに準じて業務を実施すること。
また、無床助産所の取り扱い対象者は原則として移動所要時間1時間以内とし必ず母子共の緊急時の連携病院の確保をしておくこと。
- 助産所における分娩の取り扱いは、原則として、有床無床にかかわらず複数助産師で対応すること。
- 助産所におけるケア等の提供に際しては、十分なインホームド・コンセントの上実施すること。
- 助産所におけるケア等の提供に際しては、個人情報保護に努めることとする。
- 新生児蘇生法(NCPR)B コース修了認定を出来るだけ、すみやかに受けておくこと。
- 分娩監視装置を使用しない場合の分娩時の児心音聴取は、有効陣痛がある場合は、原則として分娩第1 期の潜伏期は30分毎、活動期は15分毎、第2期は5分毎とする。聴診時間は、いずれも、子宮収縮直後に60 秒間測定し、子宮収縮に対する心拍数の変動について児の状態(well being)を評価し毎回記録に残すこと。(院内助産との整合性をつけるため)
- 骨盤位の外回転術は実施してはならない。
ただの努力目標とするには項目の内容にムラがありすぎます。たとえば、
これらが必ずしも達成できなくとも良い努力目標とするには違和感がバリバリあります。つうか、わざわざ前提となる留意事項として書かなければならないものかどうかもチト疑問です。とくに、
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助産所におけるケア等の提供に際しては、個人情報保護に努めることとする。
はたして「前提となる留意事項」がガイドラインのための必須条件なのか、それとも自主的な努力目標なのかが疑問です。一応の答えもあり、
これを読む限り、個人情報も含めて自主的な努力目標と解釈するのが正しそうな気がします。面白いですよねぇ。
産科補償制度については留意事項の筆頭に書いてあり、
これはかなり忠実に守られているようです。日本医療機能評価機構調べです。助産所数のソースは日本助産師会のものとなっています。Date | 助産所数 | 加入数 | 加入率 |
H.22.6.3 | 444 | 437 | 98.4% |
H.23.3.3 | 439 | 435 | 99.1% |
H.23.5.18 | 439 | 437 | 99.5% |
H.24.2.1 | 438 | 438 | 100.0% |
H.24.5.7 | 442 | 442 | 100.0% |
ごく簡単には日本助産師会が関知する助産所は100%加入ぐらいの解釈で宜しいかと存じます。ここでなんですが、非常に気になる事があります。産科補償制度の補償適用はかなりハードルが高い事は前にも幾度か触れましたが、その厳しい適用基準の中に、
胎児心拍モニターにおいて特に異常のなかった症例で、通常、前兆となるような低酸素状況が前置胎盤、常位胎盤早期剥離、子宮破裂、子癇、臍帯脱出等によって起こり、引き続き、次のイからハまでのいずれかの胎児心拍数パターンが認められ、かつ、心拍数基線細変動の消失が認められる場合
イ.突発性で持続する徐脈
ロ.子宮収縮の50%以上に出現する遅発一過性徐脈
ハ.子宮収縮の50%以上に出現する変動一過性徐脈
これを満たすだけの検査体制が求められているわけです。平たく言えば分娩時には胎児心拍モニターが必要と言う事です。ガイドラインにも「嘱託医療機関へ緊急に搬送すべき母体の症状」として、
■胎児心拍異常(分娩第1、2期)
- 頻脈
- 高度変動性一過性徐脈
- 遅発一過性徐脈
- 徐脈
- 遷延徐脈
助産師が胎児心拍モニターを使用できるかどうかについて産科医に確認したのですが、ある意味なし崩し的なグレー対応だそうです。助産師が扱える分娩はガイドラインにも、
この4項目を満たすものとなっています。ここも平たく言えば「正常分娩を見込めるもの」です。分娩が正常のうちは助産師がモニターをつける事は業務内と考え、そこで正常であるかどうかを見るのも助産師の業務内と取るそうです。ここで異常が認められれば、その瞬間に助産師による分娩適用は外れて、産科医による分娩に切り替わると言う解釈だそうです。つまり正常を監視するのは助産師の業務範囲に含まれるです。
ここを煩くからんでも仕方がないので「そんなものだ」と受け取って、留意事項を見ると、
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分娩監視装置を使用しない場合の分娩時の児心音聴取は、有効陣痛がある場合は、原則として分娩第1期の潜伏期は30分毎、活動期は15分毎、第2期は5分毎とする。聴診時間は、いずれも、子宮収縮直後に60秒間測定し、子宮収縮に対する心拍数の変動について児の状態(well being)を評価し毎回記録に残すこと。(院内助産との整合性をつけるため)
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分娩時の児心音聴取は、有効陣痛がある場合は、原則として分娩第1期の潜伏期は30分毎、活動期は15分毎、第2期は5分毎とする
産科補償制度では胎児心拍モニターの分娩時の装着を必要条件としていると読んで良いでしょう。そこで出てきた素朴な疑問は、
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水中出産の時はどうするんだ?
そりゃ凄いと思いました。東京の日赤には存在するのはわかりましたが、ポピュラーに存在するかどうかです。これも平たく言えば市販しているかです。これについてググって見たのですが、ついに確認できませんでした。でもきっとあるんでしょうねぇ。無ければ水中出産時の胎児心拍のモニタリングは出来なくなり、産科医療補償制度の適用外になります。
世の中、凄いものが必要に応じて開発されるものだと妙に感心した次第です。