ドクターヘリの運用費

沖縄のMESH

MESHとは”Medical Evacuation Service with Helicopter”の略称だそうです。どんな団体かと言えば、沖縄の北部の過疎地に対して民間(NPO法人)で運営されるヘリ救急活動チームの事のようです。正確にはMESHが救急ヘリ事業の事のようで、このMESHを支えるNPO法人がメッシュ・サポートとすべきようです。

元は2007年6月に北部地区医師会病院の全額負担でMESHの運用を始めたとなっています。この病院は一般病床200床で常勤32名となっているようです。ちょっと驚いたのは平均患者数で、

1日 外来240名/入院202名 (平成21年4月)

外来はともかく入院患者数がかなりの数になっているのがわかります。それはともかく、ヘリ運用をやってはみたものの、ヘリ運用は金食い虫です。病院の収入はヘリとは基本的に無関係で、ドクターヘリであっても基本はそこで医師が行なった診療行為の分だけしか収益が上りません。ヘリの基本的な維持費は到底出てこない事になります。

このページによると北部地区医師会病院の頃のヘリの年間維持費が1億2000万円ぐらいだったようです。このすべてが病院持ち出しだったようで、当たり前ですが経営を圧迫します。では他の全国各地の救急ヘリの運営維持費用はどうなっているかと言えば、国から補助金が舞い降ります。補助金が舞い降りても完全にはペイしないとも聞いてはいますが、ゼロでは病院の財政を直撃します。

そんな事はヘリ事業をやる前からわかっていそうなものですが、経緯を見るとある目算があったように感じています。北部地区医師会病院はヘリ救急の施設基準を満たしていないそうですし、病院規模からして満たすのも難しいそうです。補助金への施設基準は甘い面もあり、辛い面もあったりしますが、ヘリ救急に関しては現在のところ辛い運用が為されていると聞きます。

そこで先に持ち出しでも運用実績を作ってしまえば、その必要性から県なりが公的補助を余儀なくされるとの計算があっても不思議ありません。ところが沖縄県の財政事情もお世辞も良いとは言えませんから、この交渉は難航し、2008年7月と言いますから、1年1ヶ月で北部地区医師会病院はヘリから手を引く事になります。


それで終わりにならなかったので話が続きます。ドクターヘリの運用スタッフが中心となってメッシュサポートを立ち上げ独自運用での再開に漕ぎ着けます。再開したのは2009年6月となっています。独自運用と言っても、ヘリ運用自体は収益にならないのは病院運用時代と同じですし、病院とは別の組織にしたので事務所等の維持費も必要になり、年間運用費は1億4400万円(1ヶ月1200万円)になったようです。

運用費用は寄付で集めたようですが、サポーター数は1万人となっています。これは単純計算ですが、仮に1万人が均等に会費なりを払えば、1人当たり1万4400円になります。月にすれば1200円ですが、これが順調には集まらなかったようです。8/11付琉球新報より、

救急ヘリ10月で休止 再開へ資金集め継続

【名護】NPO法人MESHサポートは資金難を理由に救急ヘリの運航を10月末で休止する方針を決めた。10日に名護市役所を訪れた小濱正博理事長が稲嶺進市長に伝えた。同事務局によると、運休後もNPO法人として活動は続けて、再開に向けて資金集めを行う。

 現在MESHサポートには約4700万円の資金が残されているという。ヘリの運航には1カ月で約1200万円の費用が掛かるため、7月分の支払いを含めると10月で資金が底をつくという。資金調達状況の悪化のために、今月末には那覇事務所を閉鎖する。

 小濱理事長は「北部の医療改善のために活動を続けてきたが今の財源では10月末が限度だ」と強調。県が2機目のドクターヘリ導入へ検討作業を進めていることを説明し「北部の住民が地域医療の改善のために声を上げて国や県と交渉することが大事だ」と訴えた。

 稲嶺市長は「北部の首長に現状をしっかりと伝えて、医療用ヘリの必要性や意義をしっかりと県に届けたい」と話した。

この辺の経過をまとめておくと、

年月 事柄 運用期間
2007年6月 北部地区医師会病院がMESH運用開始 1年1ヶ月
2008年7月 北部地区医師会病院がMESH運用休止
中断11ヶ月
2009年6月 メッシュサポートがMESH運用再開 2年4ヶ月
(予定)
2011年10月 メッシュサポートが運用休止予定


2年4ヶ月のヘリ運用費用は3億3600万円ぐらいになります。2009年6月の再開時には1億円の運用資金が集まっていたとの情報もありますから、運用開始後に集まった資金は2億3600万円ぐらいと言う事になります。あくまでも試算ですが1万人のサポーターが年間1万円づつ寄付していれば3年で3億円になりますから、サポーターは協力はしていたと考えて良さそうです。ただそれ以上に運用費用が必要だったと言う事になりそうです。

MESHの件も話に形をつけとかないといけませんから、再開して安定運用を目指すためには、

  1. なんとか(拠点の病院の救命救急センター化とか)して国及び行政からの補助金が受けられるような体制を作る
  2. サポーターからの1人当たりの寄付金を増やす。2千円程度増やせば机上では可能です。
  3. サポーター数を増やす。2000人程度増えれば、年間1万円でも机上では可能です。
熱意は十分持っておられるようですから、どこかに突破口を見つけられるとは思っています。


ドクターヘリの運行費用

今日のメインはMESHの行く末ではなく、ドクターヘリの運行費用がこれで試算できる点と考えています。かなりかかるとは聞いていましたが、具体的にどれだけ必要か推測が可能です。メッシュサポートも北部地区医師会病院も広い意味での民間ですから、コスト的にはかなり切り詰めた運用が行なわれたと考えても良いだろうからです。

記事情報を素直に信じれば、北部地区医師会病院時代は1ヶ月1000万円であり、メッシュサポートになってからは1ヶ月1200万円が必要となっています。その差は200万円なのですが、北部地区医師会病院時代は事務経費を病院が被っていた可能性を考えています。それ以外にも事務所代も病院内に設置しておけば安くと言うか、経費上はロハになります。

メッシュサポート時代になってからは、事務所も抱えないといけませんし、専属の事務スタッフも必要になります。そりゃ、年間で億を越える金額を運用しますから、机一つ、電話一つ、パソコン一つと言うわけにも行かないでしょう。北部地区医師会病院時代には会計上で表に現れない200万円の事務経費が、メッシュサポートになって表面に出てきたと見ます。

そう考えると、ドクターヘリの月間の運行費用は1200万円と考えるべきと判断します。年間にして1億4400万円です。これに対する搬送(出動)件数ですが、メッシュサポートが運用再開を果たした2009年6月から2011年7月までの2年2ヶ月(24ヶ月)で見てみます。

出動件数 年間出動件数
2009 6 2 88
7 23
8 16
9 15
10 7
11 6
12 19
2010 1 22 139
2 19
3 7
4 0
5 10
6 13
7 13
8 14
9 11
10 13
11 7
12 10
2011 1 17 69
2 13
3 15
4 0
5 0
6 6
7 18
合計 296


この間の運行費用は26ヶ月ですから3億1200万円となり、単純計算で出動1件あたり105万円ぐらいになります。それと表を見て誰でも気が付くのは出動件数がゼロの月が4回あることです。どうもMESHの所有ヘリは1機のようで、想像すると2010年4月は小規模なオーバーホール、2011年4月・5月は大規模なオーバーホールが行われたんじゃないかと考えられます。

ヘリの運行費用といえばガス代がさぞ高かろうと思うのですが、どうもそれほどでも無さそうです。MESHが使っているアエロスパシアル式 AS355F2型は確証が持てませんが、いわゆるジェット燃料を使うようです。ジェット燃料と聞けば、ジェットと聞くだけで値段もジェットの感じがしてしまうのですが、本体は灯油とほぼ同じです。

ガス代は原油価格と連動するので今の価格は上っているかもしれませんが、2010年10月頃でリッターあたり50円ぐらいだったともされます。この50円も国際線の場合で、国内の場合は航空機燃料税がかかるそうですが、それでもガソリンより低いそうです。これ以上は調べてもよくわからないのですが、スタンドの軽油程度じゃないでしょうか。

ただ燃費は良くないようで、これもよくわからなかったのですが、同じシリーズのAS322L1型でリッター500m程度です。それでも往復100km程度で200リットルですから、2〜3万円程度と見て良いかも知れません。ドクターヘリの守備範囲的には、1回の出動で10万円を越えるのは少なそうな感じです。AS355F2は目一杯飛んでも700km程度のようですし。


さてですが沖縄のMESHの価格が高いか安いかも検討しないといけないのですが、これがまた難しい問題です。ちと古い情報なんですが、東京都のドクターヘリは年間運行費用1億8000万とされますが、それでも年間400回出動したら1回当たり45万円なんて試算もあります。これは前にも話題に上りましたが、ドクターヘリの運用は定額制で行なわれる事が多い関係とも言われています。

どこで誰にもらったコメントか忘れたというか見つけ出せないのですが、定額制の基本は年間200回程度の出動で組まれており、それ以上の出動はモロに赤字が生じるみたいなものらしいと言う事です。東京都の年間400回出動試算は、定額想定の2倍ですから、まともにやれば100万円程度と考えても良さそうな気がしています。


ほいじゃ陸の救急車はどうかになります。救急車は例外的なものを除いてドクターカーは数少ないものです。ですからドクターヘリと前提条件はそれだけでも違うのですが、東京都の2004年頃の試算で4万5000円と言うのがあります。これもどうも東京が激安の感があり、その他の情報で8万〜13万円の試算もあります。救急車の運用もある意味定額制で、1台当たりの出動件数が増えれば見掛け上の費用は減少すると言えます。

東京は出動件数で安値感を演出している部分があるとも考えられ、そうなると1回10万円ぐらいが妥当じゃないかと考えられます。もっとも沖縄の様に離島となれば、救急車は海の上を走れませんから、10倍かかっても必要性はあると言えばあるのは間違いありません。


人命を金銭に換算する事はできませんから、ドクターヘリが地域によっては必要な事は認めます。ただ医療関係者にとって、どうしても違和感が残るのは運ぶ手段の向上にかける熱意だけが高いことです。患者は運ばれただけでは終りません。運ばれてからが本当の治療が始まります。受け手がプアな体制のままでは、今度はドクターヘリの「たらい回し」が起こるんじゃないかの危惧だけを漠然と抱いています。

救急車で起こっている事が、ドクターヘリに起こらないとは誰も言えないでしょう。ドクターヘリの「たらい回し」は余計な心配ですが、出動1回につき100万円が確認できたのは収穫だと思っています。