会議は踊っているのだろうか

今回の震災で出来た対策本部の類は、判る範囲で調べてみると、

組織名 担当者 発足日
緊急災害対策本部 菅首相(本部長) 3/11
被災者生活支援特別対策本部 松本防災担当大臣(本部長) 3/21
被災地の復旧に関する検討会議 平野内閣府副大臣(座長) 3/29
災害廃棄物の処理等に係る法的問題に関する検討会議 小川法務副大臣(座長) 3/21
災害廃棄物の処理等の円滑化に関する検討・推進会議 樋高環境大臣政務官(座長) 3/22
被災者等就労支援・雇用創出推進会議 小宮山厚生労働副大臣(座長) 3/28
被災者向けの住宅供給の促進等に関する検討会議 池口国土交通副大臣(座長) 3/28
被災者生活支援各府省連絡会議 松本防災担当大臣(議長) 3/26
被災地における安全安心の確保対策WT 佐々木内閣官房副長官補(議長) 3/31
被災地復興に関する法案等準備室 佐々木内閣官房副長官補(室長) 4/7
原子力災害対策本部 菅首相(本部長) 3/11
原子力被災者生活支援チーム 海江田経済産業相(チーム長) 3/29
原子力災害現地対策本部 3月11〜15日が池田元久経済産業副大臣、15〜29日が松下忠洋同省副大臣、30〜31日が池田副大臣、4月1〜5日が中山義活経産政務官で、現在は池田副大臣 3/11
原子力災害合同対策協議会 不明 不明
福島原子力発電所事故対策総合本部 菅首相(本部長) 3/15
放射線遮蔽・放射性物質放出低減対策チーム 不明 4/1
核燃料取り出し・移送チーム 不明 4/1
ロボットを使ったリモートコントロールチーム 不明 4/1
長期冷却チーム 不明 4/1
放射能を帯びたたまり水の回収・処理チーム 不明 4/1
環境影響評価チーム 不明 4/1
原子力発電所事故による経済被害対応本部 海江田経済産業相(本部長) 4/12
原子力発電所事故に対する外国からの支援を処理するチーム 不明 3/28
福島第一原子力発電所災害に伴う食品の取り扱いへの対応について 不明 不明
電力需給緊急対策本部 枝野官房長官(本部長) 3/13
経済情勢に関する検討会合 不明 3/10
震災ボランティア連携室、震災ボランティア連携チーム 辻元清美首相補佐官、湯浅内閣府参与(室長) 3/16
各党・政府震災対策合同会議 不明 3/15
実務者会合 不明 3/16
地震対策に関する政府・民主党連絡会議 不明 3/15
東日本大震災復興構想会議 五百旗頭真防衛大学校長(議長) 4/14


ちなみに経済情勢に関する検討会合は震災の前日の3/10に発足しており、これも震災関連の組織として活用するとなっています。それと東日本大震災復興構想会議は、被災地復興に関する法案等準備室が事務局となっています。それとこれですべてかどうかは不明です。たしか原発賠償もなんとか委員会が新たに設置された様な気がします。

私が調べた限りなので、間違いも含まれているとは思いますが、ザッと見た感想として菅首相が本部長を務めている組織は案外少ない印象です。緊急災害対策本部と原子力災害対策本部の二つは、対策本部の中でも最も位置づけと言うか序列が最上位に来るものと考えられ、これに菅首相がトップに君臨するのは当然と考えられます。

それ以外は東電との合同対策本部である福島原子力発電所事故対策総合本部の本部長のみのようです。この下に設けられている6つのチームも本部長は菅首相ですが、チーム長は実務者であろうとするのが妥当です。もちろん野党との連絡会議の類も出席されるでしょうし、与党との連絡会議も出席されるかと思います。そういう意味では菅首相が各種対策会議への出席だけで1日がすべて食い潰される訳でもなさそうです。

ただ気になったのは、各対策本部の位置付けです。調べようとはしたのですが、まとまった組織図が出てきません。どこかにあるのかもしれませんが、情報の海に埋もれて全体の構成、役割分担がどうなっているのか不明です。各種対策本部はそれなりの必要性に応じて作られたはずですが、これを有機的に活動させるには、組織としての統括が必要なはずです。

上記の表でも上下関係・所属がハッキリしているところもありますが、よくわからないところもあります。またこうやって新たに出来た組織以外に既存の組織もあります。これらを一つの震災対策綜合本部として統括する指揮系統が必要だと考えられます。おそらく扇の要と言うか、すべての情報は菅首相と言うか総理官邸に集まるのでしょうが、そうであれば菅首相の負担は余りに過大です。


各種の震災対策本部は、その与えられた役割により立ち位置、利害関係が異なります。別に官僚の弊害とまで言いませんが、集められた人間の利害がある程度対策に反映されます。一つの対策本部的には良くとも、他の対策本部から見ると「そりゃ困る」は当然の様に出てきます。平時ならそういう利害調整を時間をかけて行えば良いのですが、非常時には迅速な処理が求められます。

それがこの体制で果たして可能であるかです。可能であるかどうかは結果で示されますが、現時点では有効に機能したと思いにくいところがあります。今の時点で評価を下すには早いの意見もごもっともなんですが、そもそも有効に機能するような体制であるかどうかは問われそうなところです。


震災対策は大まかに見ると基本的に2つに分かれます。

  1. 震災被害対策
  2. 原発問題対策
これは2つに分けざるを得ないと思います。原発対策はとりあえず置いておくとして、震災対策のほうは、
  1. 超急性期・急性期の被災者救助対策
  2. 亜急性期の避難所対策
  3. 慢性期の復旧・復興対策
この3本はある程度重複しながら進行しますが、要点としては常に目標を明示しながら取り組んでいく事が重要です。多くの被災者が求めているのは議論ではなく目に見える実践です。欲しい言葉は「頑張ってくれ」ではなく「いつまでにはこうする」の具体的な提示です。

非常時の対策は常に即断が求められ、即断の結果は時に批判の対象になります。巧遅よりも拙速が尊ばれるのが震災対策であり、拙速による批判をいかに耐えるかが非常時のリーダーに求められる役割だと私は考えています。とくに超急性期から亜急性期までは拙速が求められ、同時進行で巧遅の面も必要な復旧・復興を進めるという難しい舵取りが必要です。それが出来るだけの体制を整えたかどうかは大きな評価ポイントです。


ナポレオン没落後の戦後処理のために開かれたウィーン会議は「会議は踊る、されど進まず」の評で有名です。9ヶ月間も延々と続けられた会議の舞台回しはオーストリアの全権を担ったメッテルニヒであったと言われています。まともに会議を行えば利害関係が衝突し、協定が結ばれないと判断したメッテルニヒは、華やかな舞踏会を連日のように行いながら、個別の裏交渉で会議をまとめようと奔走したとされます。

しかしメッテルニヒが予期した以上に各国の利害関係は強く、遅々として交渉は進まなかった事から「会議は踊る」として後世に酷評されています。ただこの会議は時間をかけて行うだけの価値があったと見ることも可能です。ヨーロッパを荒らしまわったナポレオンは既にエルバ島に流され、対立を後に残す拙速な結論を要求されていなかったからです。

ウィーン会議の結論は、ナポレオンのエルバ島脱出により急転直下でまとまります。それまでナポレオンの復活はないとの前提で巧遅を競っていたのが、ナポレオンの登場により拙速が求められたからです。小さな利害に拘っていると、再びナポレオンの恐怖が各国を襲うと判断したからだと考えています。


現在の震災対策は踊って良い状態のウィーン会議ではないと考えています。歴史は首相の弁明でなく、残した結果で評価します。今は会議を踊らす時ではないと考えています。踊っているのか、そうでないかの結論は今日はまだ保留にしたいと思っています。保留にはしますが、それでも震災から既に50日が経過している事は誰もが感じている事です。

最後に時系列で震災対応組織の設立を並べなおしてみます。

組織名 発足日
経済情勢に関する検討会合 3/10
緊急災害対策本部 3/11
原子力災害対策本部 3/11
電力需給緊急対策本部 3/13
地震対策に関する政府・民主党連絡会議 3/15
各党・政府震災対策合同会議 3/15
福島原子力発電所事故対策総合本部 3/15
震災ボランティア連携室、震災ボランティア連携チーム 3/16
各党・政府震災対策合同会議・実務者会合 3/16
被災者生活支援特別対策本部 3/21
災害廃棄物の処理等に係る法的問題に関する検討会議 3/21
災害廃棄物の処理等の円滑化に関する検討・推進会議 3/22
被災者生活支援各府省連絡会議 3/26
被災者等就労支援・雇用創出推進会議 3/28
被災者向けの住宅供給の促進等に関する検討会議 3/28
原子力発電所事故に対する外国からの支援を処理するチーム 3/28
被災地の復旧に関する検討会議 3/29
原子力被災者生活支援チーム 3/29
被災地における安全安心の確保対策WT 3/31
放射線遮蔽・放射性物質放出低減対策チーム 4/1
核燃料取り出し・移送チーム 4/1
ロボットを使ったリモートコントロールチーム 4/1
長期冷却チーム 4/1
放射能を帯びたたまり水の回収・処理チーム 4/1
環境影響評価チーム 4/1
被災地復興に関する法案等準備室 4/7
原子力発電所事故による経済被害対応本部 4/12
東日本大震災復興構想会議 4/14
原子力災害合同対策協議会 不明
福島第一原子力発電所災害に伴う食品の取り扱いへの対応について 不明


それでも会議は踊っていないと信じたいものです。